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【第440話】ディザールと天使ネメシス
しおりを挟む「ここから僕はアスタロトではなく、ディザールとして戦う。友から預かった力でお前達を討つ」
クローズの魔力を継ぎ、天使ネメシスを召喚したアスタロトは名前をディザールと名乗り直し、自身を『私』ではなく『僕』と言い始めた。
アスタロトを名乗っていた頃は感情が高ぶった時に素の部分が露呈して『僕』と言ってしまう時があったけれど、今は完全にアスタロトとしての心の仮面を捨て、ディザールとして『僕』と言っている。
吸収の霧を使っていない魔人状態のアスタロトと吸収の霧で強化された人間のディザールではどちらの方が強いのだろうか。
魔人状態の時は死の扇動でかなり魔量を消耗していたと言っていたから完璧とは程遠い状態だったとは思うが……どちらにしてもクローズが命を託すほどに大量の魔力を送ったのだから相当な強さを内包しているのは間違いないだろう。
それに俺達もかなり消耗しているから気が抜けない戦いになりそうだ。俺達は全員がディザールから距離を取り、前衛・後衛に分かれて戦闘態勢に入った。すると、ディザールは目尻に涙を溜めながら天使ネメシスに命じる。
「ネメシスよ……あいつらを薙ぎ払え!」
ディザールが命じると、天使ネメシスは右手に握っている剣を横一文字に薙ぎ払う為に体を左に捩じった。
しかし、距離が15メード以上離れているからとてもじゃないが刀身はここまで届かない。もしかしたら鎌穿のように斬撃を飛ばしてくるのだろうか? だとしたら目にも止まらぬ速さで撃ち込まれる可能性があるうえに誰を狙われるか分からない。
俺達は一層警戒を高めていると、ネメシスは想像を遥かに超える攻撃を放ってきた。なんと、剣が水平に振られると同時に巨大化しはじめたのだ。そのサイズは巨木を思わせる程に太く、刀身も40メードは優に超えている。
ネメシスの圧倒的質量と剣速によって地面が野菜の皮を削るかのように捲れている。俺達は各々が防御魔術とスキルを発動したけれど、全員が刀身と捲れる大地に飲み込まれ、勢いよく宮殿の中へと叩き込まれてしまい、衝撃によって破壊された宮殿の瓦礫が倒れている俺達の元へと降り注いだ。
恐らくネメシスは180度ほど剣を回転させる水平斬りを放ったようだ。俺を含む前衛の人間が緩衝したことにより、後衛のメンバーはあまり大ダメージを受けていないとは思うが、俺の両腕は激痛に襲われ、ろくに動かす事ができない……もしかしたら骨と神経が駄目になっているかもしれない。
これは相当マズい状況だ……おまけに瓦礫が降り注いだ影響で周囲が暗くてほとんど何も見えない。幸い瓦礫が上手く落ちてくれたらしく、俺の体には覆いかぶさってはいないが、あんな化け物に勝てる気がしない。
とにかく今は瓦礫に埋もれているかもしれない仲間を助けて、山積みの瓦礫から脱出し、ディザールと戦わなければ。このままここに閉じこもっていては魔力を練ったディザールに強力な魔術を放たれて瓦礫ごと破壊されてしまう。
俺は激痛で涙が出てくるほどダメージを負った手で体を支えて立ち上がると、さっきの被弾の影響か、眩暈が起きて後ろに体をふらつかせてしまった。すると、何者かが俺の体を後ろから支えて転倒を防いでくれた。
首を回転させて後ろを向いた瞬間我が眼を疑う人物が立っていた。なんと後ろで支えてくれたのはザキールだったのだ。困惑した俺が言葉を失っているとザキールは俺の目を見つめて、いつものように舌打ちし、ボヤキだした。
「そんな体じゃろくに戦えないだろ。足手まといは引っ込んでろ、アスタロト様とは俺が話をつけてくる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうしてここにザキールがいるんだ? それに話をつけてくるって……」
「少し静かにしてろ。幸い貴様らは広範囲に崩れた宮殿のおかげで身を隠す事ができているうえに、アスタロト様は暴走状態で索敵もままなっていないようだ。それを利用して少しでも体を休めていろ。俺様がここにいる理由については……向こうにいるフィルにでも教えてもらうんだな」
ザキールに言われて後ろに目を凝らしてみると確かにフィルっぽい人影が見える。
俺は魔術で小さな火をつけてフィルのいる方を照らすと、植物で作られた半球状の網ができており、フィルの足元には頭や体から血を流して倒れているリリス達全員の姿があった。恐らく瓦礫で埋もれてしまわないようにフィルが植物で守ってくれたのだろう。
とはいえネメシスの剣によるダメージは大きかったようでシンは意識を失い、他のメンバーも意識が朦朧としているようだ。だが、見た限り命に別状はなさそうでとりあえず一安心だ。
俺が仲間の無事にホッとしていると、ザキールは更に言葉を続ける。
「弱っちい貴様らは瓦礫の隙間から俺様とアスタロト様のやりとりでも眺めていろ。俺様の話が終わるまで絶対に瓦礫の中から出てくるなよ? 邪魔なだけだからな」
「……ザキールは今更ディザールと何を話すつもりなんだ? そもそもお前は俺達の敵のはずだろう? どうして助けるような真似をするんだ? 俺達の味方になってくれるのか?」
「虫唾の走る言葉を吐くな! 俺様はガラルドとは死んでも手を組むつもりはない。だが、俺様は今からアスタロト様に一つ質問を投げかける。その返答次第ではアスタロト様に牙を剥くかもしれないがな」
そう呟くとザキールは俺達がここに居る事がバレない様にわざとディザールのいる方向とは反対側へと進んで瓦礫の山から脱出し、迂回する形でゆっくりとディザールに向かって歩き出した。
一方、吸収の霧の影響かディザールとネメシスは周囲をでたらめに攻撃しながら俺達を探しているようだ、あれでは気が狂った魔獣と変わりない。
本当は今すぐザキールを追いかけたいところだが、ディザールに見つかるのもまずいし、ザキールは俺の言う事なんか絶対に聞かないだろう。今、俺に出来ることは瓦礫の山に隠れている他の仲間と話をすることぐらいだ。
俺は早速10メードほど後方にいるフィル達の元へと向かった。近づいた俺は早速フィルの足元を照らし出すと、フィル以外はまだ立ち上がる事ができず、俺とザキールの会話を聞く余裕すらなかったようで、比較的ダメージの低い俺を見てビックリしていた。
とりあえず今、会話が出来るのはフィルしかいなさそうだ。ザキールもフィルに話を聞けと言っていたし話す事にしよう。
「よう、フィル。無事でなによりだ。フィルはさっき俺とザキールが話していたのを聞いてたか?」
「うん、聞こえていたよ。そのうえで僕からも言わせてもらうけど、今はザキールの言う通り、休んでおいた方がいい。時間はザキールが絶対に稼いでくれるはずだから」
「やっぱりザキールは俺達の味方をする為に飛んできてくれたのか?」
「さあ、どうだろうね? 兄弟とはいえザキールの考えている事は分からないよ。でも、今のザキールを語れる事実が一つだけあるよ。それは、廃王園まで僕を運んでくれたのはザキールだってことさ。高速飛行で運べるのは人間一人分までだからゼロ君には申し訳ないことをしたけどね」
=======あとがき=======
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