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【第438話】グラッジとレックの底力

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「さあ、ここから反撃開始だ! いくぞ、お前達!」

 最高のタイミングで最高の助太刀が入ってくれた。フィルとレックの二人は毒こそ喰らったものの、他の仲間に比べて魔量は減っていないから力強い動きが出来るはずだ。それにアスタロトが後衛から魔術を放つようになってきた今、レックのバニッシュほど頼もしい技はない。

 アスタロト達が困惑している間に攻め込んだ方がいいだろう。レックの掛け声に応じて俺達は一斉に突撃する。

 近づく俺達に拳を構えたクローズは危機的状況にも関わらず、笑みを浮かべて呟く。

「フフフ、厄介な二人が復活したね。大方リーファがこっそり解毒してたってところかな。ここが踏ん張りどころだ、引き続き後方から魔術を頼んだよ、アスタロト」

「まるで二人の復活を待っていたかのように嬉しそうだな……まぁいい、多少人数が増えようとも関係ない。魔術で纏めて薙ぎ払ってやる。敵を私に近づけるなよ、クローズ!」


 それから俺達は再び、近接攻撃と遠距離攻撃が入り乱れる戦いを繰り広げた。既に立っているのがやっとの状態になっているシンは後方からの魔術にのみに専念し、前衛は俺、グラッジ、レック、フィルが担当する流れになった。

 結果、クローズにダメージを与えつつ、アスタロトの詠唱を妨害し、機敏に動き続けているぶん俺達も大技が放てず、互いに決め手の欠く時間が続いた。

 戦いによる衝撃で廃王園はいおうえんの建物は次々と壊れ、俺達の視界に瓦礫が積み上がっていく。

 クローズは俺達前衛の4人が的確に防御と反撃を繰り出し、隙をついてアスタロトに遠距離攻撃を放っても、半分以上撃ち落としてアスタロトに負荷がかからないようにフォローし、視野の広さを発揮している。

 おまけにクローズは脱皮シェディンによってスタミナと傷の回復を同時に行う事ができるうえに限界回数も見た目の老化具合からしか分からない。

 機動力に長けたクローズを潰せればベストだが、奴ほど優秀な盾役はいない……だから、俺達が狙うべき手は限られてくる。

 一つ目は虚を突いてアスタロトに攻撃する戦法、二つ目はクローズの意識を刈り取るレベルの大技を決める戦法、三つ目は一時的でもいいからクローズの動きを止めてアスタロトに集中攻撃する戦法……それらを狙うしか勝つ方法はない。

 仲間達もそれは分かっているみたいで、一旦全員が下がったタイミングで攻め方について話し合っていた。どうにかして策を見つけ出したいが、話をすればするほどアスタロトに魔術を練る時間を与えてしまう。

 これといった策が浮かばないまま、時間が流れていく事に焦っていると、何かを閃いたレックが俺達に指示を出した。

「みんな、聞いてくれ。今から俺達はアスタロトにレストーレを当てる。その為に厳しい要求をするから覚悟してくれ。まず、グラッジ殿は10秒程度でいいから後先を考えずに瞬間的に出力を上げてクローズを抑え込んでくれ。そして、サーシャはクローズを抑えているタイミングでアスタロトに遠距離攻撃を頼む。その時、サーシャは全魔力を使ってもいいからグラビティでアスタロトを重くしてほしい。できるか、サーシャ?」

「サーシャのグラビティでどこまで邪魔が出来るか分からないけどやってみせるよ!」

「ああ、よろしく頼む。次にガラルドとフィルはひたすらアスタロトの周りを回りながらレッド・バレットとグリーン・アローを撃ち続けてくれ。そして、リリスも中距離攻撃で援護しつつ、レストーレを握り続け、ひたすら好機を待ってくれ、隙は必ず生まれるはずだし、リリスなら決定的瞬間が訪れた時、どう動けばいいか分かるはずだ」

 レックは自身をもって言い切っているが、俺には不安定な作戦としか思えない。グラッジに短い時間とはいえクローズを抑えさせるのは厳しいと思うし、サーシャの魔量を大量消費させるのも危険な賭けだ。

 その一方で、俺とフィルは単純に中距離攻撃を放ち続けるだけでリスクの少ない役回りだ。それなら俺かフィルかレックがレストーレを持った方がいいと思うのだが……。どうしても意図が気になる俺はすぐにレックへ尋ねる事にした。

「どういう狙いだ、レック? こんな作戦では失敗した時にスタミナが――――」

「今は話している時間がない! アスタロトが強力な魔術を練る前に決めなきゃいけないんだ! 頼む、俺を信じてくれ、アスタロトの隙は俺が必ず作り出す。俺の体に刻まれてしまった罪の力を使ってな!」

「罪の力って何を言って……レック! その紋章は!」

 俺はレックを見て驚きの声をあげた。何故ならレックの鎖骨から首にかけて残っていた『変化の霧』の紋章が光り始め、凄まじい魔力を纏い始めたからだ。

 レックに残った紋章はあくまで霧の力を保持していたことを示す、傷みたいなものだと思っていた。だが、レックにはまだ変化の霧の力が残っていたのだ。

 俺は変化の霧でまた暴走してしまわないか不安になり、レックの目を見つめた。しかし、大穴で戦った時とは違い、冷静な目つきをしており、魔力も力強くはあるものの荒々しくはなく、むしろ大海を思わせるようなどっしりとした、隙の無い魔力纏衣てんいだ。

 レックは死中求活しちゅうきゅうかつの面持ちでグラッジとアイコンタクトをとると、一斉に走り出した。クローズとアスタロトはレックとグラッジのみが向かってくる状況を警戒してか、一層姿勢を低くして、備えている。

 緊張が走る状況で最初に大技を発動したのはグラッジだった。グラッジは全身を激しく発光させると、俺にすら見せた事の無い高度な魔力操作を始めた。

千色千針せんしきせんしん……六色魔鎧ろくしきまがい!」

 なんとグラッジは六属性全ての魔力針を全身に刺し、強制的に全属性の色堅シキケンを発動したのだ。

 色堅シキケンはそれぞれ属性毎に向上させる能力が変わり、火属性は膂力、水属性は感知、風属性は俊敏さ、地属性は耐久力が上がる性質がある。俺が使っているレッド・モードも火の色堅シキケンをグレードアップさせたような技だ。

 光と闇の色堅シキケンの性質は未だに仲間内で使える者がおらず、色堅シキケンを教えてくれたゼロですら知らないらしいが、遂にグラッジが会得したのだ、しかも六属性同時発動というおまけ付きである。

 そこからのグラッジの攻めは鬼神の如き勢いだった。これまで多人数を相手にしていたクローズが防戦一方となり、グラッジの荒々しい拳撃をガードするのに精一杯になっている。

 それどころかガードしている腕すらも破壊が進んでおり、グラッジが拳を振るう度に腕から少しずつ血が飛び散っている。グラッジは宣言通り、レックからの指示を完遂しているのだ。

 俺やフィルもグラッジに負けてはいられない。レックの後ろに続いてアスタロトの方へ向かうと、今度はレックが凄まじいパワーをみせてくれた。六色魔鎧ろくしきまがいには少し劣るが、アスタロトを防御一辺倒に追い込んでいるのだ。

 クリーンヒットこそ当てられていないものの、明らかにアスタロトは切羽詰まった顔をしている。アスタロトは慌てて生み出した氷の大盾でレックと押し合い、怒号をあげる。

「くっ……帝国の燃えカス風情がでしゃばるな!」

「確かに俺は兄さん達と比べて無能で、運よく生き乗っただけの人間だ。だがな、負け犬には負け犬の意地があるんだ! 俺の自慢の仲間にやられてしまえ!」

 レックが俺達の事を言った瞬間、一斉に攻撃を加える時だと理解できた。俺はレッド・バレット、フィルはグリーン・アロー、リリスはアイス・ニードルを連続で放ち続け、サーシャはアスタロトを鈍重化させるべく黒猫サクを走らせた。

 その間もレックはひたすら剣で攻撃する事でアスタロトの位置を固定している。一方、アスタロトはレックから攻撃を受ける事だけは避けたいと考えているらしく、中距離攻撃を被弾してしまうことを前提で正面に大盾を展開してレックの攻撃を防ぎ続けている、おかげで背中に張り付いた黒猫サクを振り払う余裕もなさそうだ。

 三人が放つ中距離攻撃を数発被弾し、黒猫サクによって体を重くされ、全身に痣と血を浮かばせたアスタロトは痛みを堪えながらも気丈に笑顔を浮かべ、レックに呟く。

「レック……お前の狙いは分かっているぞ! 体に未だ刻まれている変化の霧の力とサーシャのグラビティで一時的に私を固定化させて、ガラルド達にダメージを与えさせるのが目的だな? その燃費の悪い形態で単身近接戦を仕掛けてきているのはそういう狙いだろう?」

「……さあな、どうだろな?」

「だとしたら敵ながら見上げた根性だ。だが、我慢比べなら負けるつもりはない! 私は自身の魔量は勿論、レックの魔量も理解している。先に力尽きるのは間違いなくお前――――ぐはっ!」

 アスタロトがうめき声をあげた瞬間、俺は我が眼を疑った。何故なら俺とアスタロトの間の位置にリリスが立っていて、レストーレの剣先がアスタロトの横腹に突き刺さっていたからだ。

 事の流れは正に一瞬の出来事だった。俺がレッド・バレットを放ち、拳サイズの熱砂の螺旋が一直線にアスタロトへ向かっている最中、レストーレを水平に構えたリリスが俺とアスタロトの間の位置に瞬間移動して、レストーレの持ち手の底部分……つまり、柄頭つかがしらにレッド・バレットを当てさせたのだ。

 結果、中距離攻撃を被弾する前提でレックの攻撃を抑えていたアスタロトは射出されたレストーレに貫かれてしまったわけだ。

 もし、俺がレストーレを持ってレッド・ステップで斬りかかったり、リリスがアイ・テレポ―トで背面に飛んでから突き刺そうとしても、攻撃の動き出しを読まれて防がれていただろう。回避や防御を成功させるのに最も重要な要素は動き出しを見る事だからだ。

 その点、既に放たれたレッド・バレットの前にノータイムで瞬間移動してレストーレを押し出させる手法は、さながら茂みの中から銃弾や矢を放たれるのに等しい回避難度だ。ましてや、アスタロトは中距離攻撃を被弾する前提で動いていたから尚更だ。

 毒以上に強力なレストーレを喰らったアスタロトは堪らず地面に膝を着き、荒ぶる呼吸を抑えきれず、うつ伏せになって倒れた。

「ば、馬鹿な、私が……負けるのか……グラドの血と……シリウスの置き土産レストーレなんぞに……」




=======あとがき=======

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