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【第433話】魔砂の使い方
しおりを挟む「ハァハァ……気を失っていてごめんなさいガラルドさん。ハァハァ……ようやく助けに来れました」
俺がアスタロトの放ったブルー・シージで殺されそうになっているところをリリスがアイ・テレポートで助け出してくれた。クローズに殴られて大きく吹き飛び、気を失っていたリリスがまさか危機を救ってくれるとは思っていなかった俺はすぐにこれまでのことを尋ねた。
「大丈夫だったのかリリス! 俺は心配して――――」
「シーッ! 静かに! 今は物陰に隠れてください!」
リリスは姿勢を低くして俺の腕を引っ張ると建物の中へと連れ込んだ。気が動転して周りがよく見えていなかったが、ここはシンバードで言うところの王宮殿のバルコニーにあたる場所のようだ。
もっともトルロ族サイズの建築だからシンバードよりもずっと大きいようだ。すぐにリリスが姿勢を低くしたのもバルコニーより低い位置にいるアスタロトの視界に入らないようにする為だったようだ。
状況が把握できて息も整ってきた俺はリリスに何があったのかを尋ねた。
「助けてくれてありがとな、リリス。早速で悪いがクローズに殴られて吹き飛ばされた後、何をしていたか教えてくれるか?」
「はい、分かりました。おぼろげな記憶ですけど、私の意識自体はすぐに戻っていたんだと思います。倒れた状態で意識を取り戻した私は薄く目を開けました。するとガラルドさん、レックさん、フィルさんの三人が一斉に大技を放って、ディザールがダメージを与えている場面を目撃しました」
「なるほど、って事はアスタロトが放った闇属性魔術にフィルとレックがやられてしまったところは見ていたって事だな?」
「そうです。なので、すぐに加勢に入りたかったのですが、まだダメージが重く、まともに動けそうになかった私は体を丸めて自分自身を治癒魔術で癒していました。まだ肋骨は折れていますが魔術やスキルぐらいは使えます」
リリスは戦う意思を見せてくれてはいるものの、顔色も悪く、身に纏う魔力も弱弱しくなっている。もう、ここから出ずに休んでいて欲しいところだが、リリスは目に強い意志を宿したまま、更に説明を続ける。
「ガラルドさんが二つの剣を拾い、離れた位置で戦い始めた頃、私はディザールに見つからないように静かに移動してレックさんの元へ向かいました。私自身怪我をしているので、そのままガラルドさんの援護に行っても役に立てないと思ったからです。ですので、私は闇属性魔術を被弾したレックさん達を回復させることにしました。幸い魔量はほとんど消費していなかったので」
「回復させに行ってただって!? それで、レック達はどうなったんだ?」
「結論から言いますとレックさんもフィルさんも無事です。ディザールの放った闇属性魔術は毒に近い性質をもっていまして、私の施した解毒魔術で快方に向かってます。ですが、動けるぐらいまで回復するにはまだ10分ほどかかると思います」
過去視でカッツ達に恐ろしい闇属性魔術を放っていたアスタロトはカーズ・ウェーブに相当強い毒性を持たせていたはずだ。そんな技を短い時間で解毒できるリリスはとんでもない治癒魔術の使い手なんだと改めて思い知らされる。
厳密に言えばレックはバニッシュでカーズ・ウェーブを減衰し、フィルの受けた魔術は無詠唱だったから毒性が弱まっていたとは思うが、それでもリリスの解毒と的確な判断は素晴らしいといえるだろう。
そんなリリスが怪我を負った状態とはいえ戦線に復帰してくれたことは心強い。まだアスタロトに見つかっていない今のうちに次の作戦を練らなければ。
俺はとりあえず『リリスが後方から氷魔術で援護して、俺が前衛で戦う』オーソドックスな提案を持ち掛けた。すると、リリスは首を横に振って別の提案を持ちだした。
「その戦い方ではきっとジリ貧でやられてしまうと思います。私の作戦を聞いてください、実はレックさんとフィルさんの解毒をしている時にある作戦を思いついたんです。本当はこんな作戦を提案したくないのですが……」
「俺達は仲間じゃないか、どんな作戦だって決行するから聞かせてくれ!」
「この作戦は後天スキルで魔砂を生み出したシルフィちゃんの優しい心に泥を塗る様な使い方になります……だけど、シルフィちゃんならきっと分かってくれますよね……。覚悟を決めて説明します。この作戦の鍵は毒です。私達がレストーレに付着させている植物の毒を使います」
「毒を使う……なんて言い方をするって事はレストーレを当てる訳じゃないって事か?」
「その通りです。私達にとって一番避けたい事態がレストーレを止められて、奪われる事です。今はまだ確実にレストーレを当てられる時じゃありませんから、毒で弱らせてからの方がいいでしょう。幸いレストーレを納めている剣鞘には七恵の楽園で頂いた植物の毒を液状にして入れてありますよね? それをディザールに当てるんです」
「毒を当てるって……下手すればレストーレを当てるより難しいんじゃないか? 皮膚に付着させるだけじゃそこまで毒は回らないと思うが……」
「その為の過程を最初から順を追って説明します。まず最初にガラルドさんは距離を詰めてアスタロトの正面で剣を振るって戦ってください。私はガラルドさんの後ろではなく横に並び、レストーレを握った状態で戦います。そして、次に――――」
リリスが説明してくれた作戦はサーシャでも舌を巻きそうな程に良く考えられた作戦だと感心させられた。それと同時にリリスがシルフィに謝っていた理由も理解できた。今までとは違う魔砂の使い方をするわけだが、これも大陸を救うためだから全く問題はないはずだ。
俺達が作戦を話し終えると、同じタイミングで南方向から大砲を撃ったような大きな音が聞こえてきた。俺達は屋内からバルコニーに出てゆっくりと顔を出すと、さっきまで戦っていた武舞台の中心にアスタロトが立っており、眉間に皺を寄せながら俺達の名を叫んだ。
「どこに消えたんだ、ガラルド、リーファ! さっさと姿を現わせ! さもないと、ここに倒れている仲間達がトドメを刺されることになるぞ!」
どうやらあと少しで俺を殺せるところを邪魔されたこともあり、アスタロトは相当腹を立てているようだ。
今のアスタロトなら倒れているレック達を本当に殺しかねない。早く姿を現わした方がいいだろう。俺は作戦に備えて、先にレストーレを鞘から抜いてリリスに渡しておいた。
そして、俺とリリスはバルコニーの端に行き、アスタロトが見つけやすいように手すりの上へ立ち「こっちへ来い、アスタロト!」と俺が大声で呼びかけた。
すると、アスタロトは狙い通りこちらへ飛んできた。これで倒れているレック達が戦闘の衝撃に巻き込まれる事もなくなり、毒気が徐々に抜けていることもバレずにすみそうだ。
アスタロトは魔人の羽を広げて、ゆっくりとバルコニーの中央へ降り立つと怒りを含んだ笑みをこちらへ向けて呟く。
「やっと隠れるのをやめたか。やはり、お前らをおびき出すには仲間の命に刃を突き立てるに限るな。どうだ、お前達? 隠れている間に私を倒す算段はたてられたか?」
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