見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第431話】緑と氷

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「フッ、単純なことよ。バニッシュで減衰しきれない程に強力な魔術を撃ちこめばいいだけの話だ。その間、ガラルド達に攻撃されようとも耐えきるのみよ」

 力押しを宣言するとアスタロトは両手に禍々しい闇のエネルギーを溜め始めた。元々、光属性魔術と闇属性魔術を使える者は他属性と比べると遥かに少なく、どんな闇属性魔術を放ってくるのか想像がつかない。

 おまけに相手は最強の魔術師アスタロトだ、その威力は桁違いだろう。少しでも威力を軽減できるよう補助に入らなければ。俺とフィルは急いでレックの方へ走り、スキルを放つ。

「レッド・ストーム!」

「グリーン・ウォール!」

 レックの前方に一瞬で熱砂の竜巻と巨木の防壁が出来上がった。二つの防御に加えてレックのバニッシュがあれば、アスタロトが放とうとしている闇属性魔術も耐えられるはず……そう考えていた俺達は甘かった。

 アスタロトは両手に溜めた魔力をみるみる上昇させると、奴らしくない大声と共に魔術を解き放った。

「全てを飲み込め! カーズ・ウェーブ!」

 アスタロトの両手からサンド・テンペストを漆黒にしたような波動が飛び出した。その波動はレッド・ストームとグリーン・ウォールなどまるで存在しないかのようにあっけなく貫いていき、レックの展開したバニッシュに衝突する。

 バニッシュの白い光とカーズ・ウェーブの黒き波動は一瞬互いを押し合うように停止したが、すぐにカーズ・ウェーブの圧倒的パワーが上回り、氾濫した川の濁流の如くあっという間にレックを飲み込んでしまった。

 レックは声をあげる暇なく闇に押し流されていき、俺達が登ってきた長い階段を意識を失ったままゴロゴロと転がっていってしまった。

「レック!」

 焦った俺はレックの名を叫ぶとすぐに階段の方へ走り出したが、その判断がよくなかった。一瞬、俺が背中を向けたのをアスタロトは見逃さなかったのだ。

「後ろだ、ガラルド君!」

 俺の後方からフィルの叫び声が聞こえると共に何かが飛んできている音が聞こえた。アスタロトはバニッシュの使い手がいなくなって俺が慌てている状況を好機と捉え、俺の背中目掛けて強力な魔術を放ってきていたのだ。

 俺は一瞬の間に両腕に防御の魔力を纏い、後ろを振り返った。すると、目の前には俺を庇おうと横から跳びこみ、アスタロトの闇属性魔術をもろに受けてしまったフィルの姿があった。

 フィルの受けた闇属性魔術は無詠唱で放たれた事もありレックが受けた魔術より格段に威力が下がっている。しかし、それでも相当な威力をもっていたようで、フィルは一発で膝をつき、倒れてしまった。

「お、おい! 大丈夫か、フィルッッ!」

「だ、だいじょう、ぶ、だよ。ガラ……ルド君を……守れて……よかった」

 フィルは外傷こそ見当たらないものの、明らかに消耗している。恐らくアスタロトが放った闇属性魔術は二発とも『体力を削る魔術』もしくは『毒状態にする魔術』なのだろう。俺のせいでレックだけでなくフィルまで戦闘不能にしてしまった……。

 冷静さに欠けた自分が本当に嫌になる……。次に打つ手を考えなければいけないというのに俺の頭の中は自己嫌悪と後悔でひしめいている。そんな俺をアスタロトは嘲笑った。

「フッハッハッハ! 仲間のピンチですぐに動揺して動きが鈍くなるところはグラドとよく似ているな。何がシンバードの英雄だ、何が五英雄だ。ピンチの時こそ冷静に動けない奴は戦士として失格だ。潔く諦めたらどうだ、ガラルド?」

「俺の事はいくら侮辱してくれてもいい。だが、自分の命を賭けて最後まで立派に戦ったグラドを笑うのはやめろ。それに、リリスを刺してしまった時に精神崩壊を起こしたお前が言える立場じゃないだろ」

「フッ、口だけは達者なようだな。だが、現実はどうだ? レックもフィルも倒れた今、戦況は3対1から1対1に様変わりだ。ガラルド一人で何ができる? お前一人ではレストーレを当てるどころか、まともにダメージを与えることすらできまい」

 悔しいがアスタロトの言っている事はもっともだ。三人いれば様々な戦術を駆使することが出来たかもしれないが、一人で出来る事なんて限られている。一人になって手数もパワーも戦術幅も縮小した今、俺にできることはなんだろうか?

 どうにかグラッジ達と合流出来れば持ち直せるかもしれないが、遠くで戦っているグラッジ達も爆音を響かせながら死闘を繰り広げているようだ、とてもじゃないが合流なんてできそうにない。

 ゆっくりとこちらへ歩いてくるアスタロトに死が間近まで迫っているのを感じていると、俺の足元で倒れているフィルが消え入りそう声で囁いた。

「ガラルド……君……これを……」

 フィルが渡してきたのは刀身から柄まで全てが植物で出来ている剣だった。刀身は薄い緑の葉が長い包丁のような形状をしており、柄の部分は植物の根っこをグルグル巻きにしたような指になじむ薄茶色の柄になっている。

 緑の剣を握ってみると、見た目からは想像もつかない程に高密度の魔力が込められているのを感じる。この緑の剣を使ってアスタロトと戦えと言いたいのだろう。そして、フィルは更に言葉を続けた。

「ガラルド……君の後ろには……レック君の魔力が込められた……氷剣ひょうけんも落ちている。僕の作った緑剣りょくけんも使って……アスタロトを倒すんだ。絶対に最後まで諦めないで……きっと何か……打てる手が……あるはずだから」

 フィルは言葉を言い切ると気を失ってしまった。顔色もさっきより悪く、唇が紫色になっている。そんな状態になってでも俺に武器と助言を残してくれたのだから絶対に窮地を脱しなければ。

 俺はフィルの指示に従って後ろに落ちているレックの氷剣ひょうけんを拾った。元々フィルとレックの魔力が込められている剣に俺の魔力を纏わせれば威力は大きく上昇するし、リーチが伸びて距離をとった近接戦にのぞめるだろう。

 だが、未だにレストーレを当てるビジョンは浮かんでこない……それでも、今はやれることをやりながら策を探し続けるしかない。俺は緑剣りょくけんを右手、氷剣ひょうけんを左手に持ち、剣先をアスタロトに向けて宣言する。

「俺は二人の意思を継ぎ、二刀の型でお前を斬る。覚悟するんだな、アスタロト」


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