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【第430話】例外

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「ガラルド……お前はレストーレを当てることだけを考えて隙を見つけ出して刺せ。その隙は俺とフィル殿で作り出す」

 アスタロトに圧倒的な力の差を見せつけられた直後だというのにレックが大胆な作戦を提案してきた。三人の一斉攻撃ですら難なく防がれたというのに二人になってしまったらますます手数も火力も減ってしまう事になる。

 それでもレックの言葉からは不思議と成功しそうな予感を覚える。フィルも同じ感想を抱いたようで、賛成の言葉を返す。

「面白いね、レック君の作戦に乗るよ。攻め方は左右から挟み撃ちにする感じでいいかな?」

「いや、フィル殿は俺の斜め後ろから遠距離攻撃で支援してほしい。遠距離だとアスタロトに魔術を撃たれるかもしれないが、それは俺のスキル『バニッシュ』で何とかしてみせる。バニッシュは消失力を上回る魔術を撃たれたら超過分を消し去る事は正直できない……だから、頼み辛いが消し切れなかった分はフィル殿が耐えてくれ……」

「やれやれ骨が折れそうな仕事だね。でもやり遂げてみせるよ、それじゃあいくよ!」

 前衛後衛どちらにも負担の大きい作戦が始まった。レックは自身の握る剣に氷を宿してリーチを長くすると、突進の勢いを乗せて剣を振り下ろした。アスタロトはレックの長剣を杖で軽々と受けると、離れた位置から植物の弓を構えているフィルに魔力を宿した左手を向ける。

「まずはフィル、お前からだ。吹き飛べ、ファイアーストーム!」

 なんとアスタロトは水属性魔術の素養を持っているのにも関わらず反対属性の火炎を宿した高温の突風を解き放った。

 この世界の魔術における絶対的な仕組みとして『自身の持つ魔術属性と対になる属性は使えない』というものがある。アスタロトは過去視を見た限りだと確か水属性・風属性・闇属性を使っていた筈だから、それぞれの対となる火属性・地属性・光属性は使えないはずだ……どういうことだろうか?

 対属性を扱える唯一の例外として思い当たるのはグラッジとグラドが使える属性武器を生み出すスキル虹の芸術レインボーアーツぐらいだが、そもそもあれは魔術ではなくスキルだし、武器の形状にしかできないから話も違ってくる。

 俺が驚きの事実に困惑している間にアスタロトの放ったファイアーストームはフィルを丸々飲み込もうとしていた。しかし、レックが片手を後ろに向けると、フィルの目の前に光り輝くバニッシュの波紋が飛び出し、アスタロトのファイアーストームを大きく減衰させた。

 少しだけかき消せなかったファイアーストームがフィルの体を襲ったものの、ほとんどノーダメージでフィルはピンピンとしている。素早いレックのフォローを見たアスタロトは舌打ちをした後、バニッシュについて語る。

「チッ、話には聞いていたがバニッシュは厄介なスキルだな。先にレックを潰しておくのがよさそうだ。魔術ではなく私自らの手で叩きのめすとしよう。お前に個人的な恨みはないが、覚悟するのだな、レック」

「厄介なスキルか、褒めてもらえて光栄だ。だが、俺から言わせれば相反する属性を扱える貴方の方がよっぽど厄介だけどな。その特性は魔人化したことによって得られたものなのか?」

「魔人になったところで相反する属性が使えない法則は変わらない。私が六属性を扱えるようになったのは合成の霧による副産物に過ぎない。合成の霧ほどイレギュラーを生み出すものはない。特にそこのガラクタは例外だらけだ、自分でも何となく気付いているだろうな」

 アスタロトは俺の方を向いて呟いている。ガラクタと言われるのは腹が立つが、俺が『例外』とはどういうことだろうか? 俺は六属性どころか火属性と地属性しかろくに使えないし、ほんの少しだけ素養のある光属性なんて初級魔術すら発動できない不器用な人間だ。

 アスタロトの言っていることが気になるところだが、今はとにかくレストーレを当てる事だけを考えよう。アスタロトに対して一定距離を保ちながら戦い続けているレックとフィルを尻目に俺はレストーレを当てる隙を探し続けた。

 今のアスタロトはとにかくレックを潰す為に杖と拳による慣れない近接攻撃で戦っている。レックは的確にアスタロトの隙をついて攻撃を加えているが、アスタロトの体が頑丈過ぎてほとんどダメージが入っていない。

 一方でアスタロトの攻撃はレックの体に掠るだけでも大きな衝撃を与えているようで、既にレックの両腕はかなり痺れているようだ。

 とにかく俺が一秒でも早くレストーレを当てなければ……俺はアスタロトから見て右側を走り、牽制をかけることにした。右側を狙った理由はアスタロトの目は右目が見えないからだ。こんな弱点を突くような戦い方はしたくなかったが、大陸の未来が懸かっている今、そんな甘い事は言っていられない。

 俺は拳に熱を纏い、中距離から連続で攻撃を放つ。

「数撃てば当たるだ! 喰らえ、レッド・バレット!」

 俺は極限まで集中していたのか、それともまた成長したのか、一瞬のうちに三発のレッド・バレットを放つことが出来た。レックの相手をしている今のアスタロトなら側面からレッド・バレットを命中させることが出来る……そう、考えていた俺だったがアスタロトは余裕の表情で呟いた。

「甘い!」

 なんとアスタロトはレッド・バレットの直線軌道上に無詠唱で小さな氷塊を3つ浮かせたのだ。必要最低限のサイズで高密度の魔力を込めた氷塊はきっと高熱・高出力のレッド・バレットですら溶かしてしまうだろう。

 俺もアスタロトもレッド・バレットが消えると確信していた……だが、レックだけは違った。レックは再び手のひらを向けると「バニッシュ」と呟き、消失のエネルギーで氷塊だけを削り取ってしまったのだ。

「なんだと!」

 虚を突かれたアスタロトが驚きの声をあげた。レッド・バレットは3つの氷塊が浮かんでいたポイントを高速で通過すると、勢いをそのままにアスタロトの顔と肩と腹に熱砂の螺旋が直撃する。

「うぐああッ!」

 3発のレッド・バレットが完璧に命中した。レックの機転と繊細なスキルコントロールがアスタロトの予想を上回った。ダメージを受けてよろけたアスタロトは隙だらけだ。俺、レック、フィルの三人は合図を送り合ったかのように走り出すと、一斉にアスタロトへ追撃を放った。

「グリーン・アロー!」

絶氷閃ぜっひょうせん!」

「レッド・テンペスト!」

 三つの高火力技がアスタロトへ集中すると凄まじい爆炎があがった。これほどのパワーが一点に集中する事は中々ないだろう。

 確かな手ごたえを感じた俺は徐々に晴れていく煙を見つめていると、中から全身に血を流しているアスタロトが現れた。かなり良い調子だ、例えレストーレを刺していないアスタロトでも高火力技を同時に当てればダメージを負わせることが出来るようだ。それが分かっただけで相当大きな収穫だ。

 アスタロトは口の中に溜まった血を勢いよく地面へ吐くと、レックを強く睨み、杖の先を向けて呟く。

「まさかモードレッドの弟がここまで巧みにスキルを使いこなすとはな……。お前達三人の中で主軸になるのは一番火力のあるガラルドだと思っていたが、もっともバランスがとれていてスキルに汎用性があるレックこそが中心だと気付かされた。だから多少のリスクを払おうともお前から潰さないといけないようだな」

「褒めてもらえて光栄だな。だが、俺のバニッシュを前にしてどうやって潰すつもりだ? 近接攻撃のみに集中して殴りにきても俺は距離をとるし、ガラルドとフィル殿はお前を追いかけるぞ?」

「フッ、単純なことよ、バニッシュで減衰しきれない程に強力な魔術を撃ちこめがいいだけの話だ。その間、ガラルド達に攻撃されようとも耐えきるのみよ」




=======あとがき=======

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