見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第416話】シンバードの現状

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※今回もグラッジ視点です

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「ハッハッハ! 流石はトルバートの代替品だ、君は本当に面白い。グラドに似た闘志と正義感、シルフィさんのような優しさ、アスタロトが直々に叩き潰したくなるわけだよ。それじゃあ予定を変更して、ガラルド君の挑発に乗ってあげよう。少しだけ暴れさせてもらおうかな」

 クローズは笑い声をあげているけど、本心から笑ってガラルドさんを認めているのだろうか? それとも挑発されて少なからず頭にきたから『少しだけ暴れる』なんて言いだしたのだろうか?

 どちらにしても疲弊している僕達が強敵であるクローズの相手をするのは危険だし、まずい状況になってきた……。僕だけじゃなく他の人達も緊迫した表情を浮かべているけど、ガラルドさんだけは真っすぐにクローズを睨み続けている、とんでもない精神力だ。

 だけど、クローズはガラルドさんのことなどお構いなしにきょろきょろと周りを見渡すと、リリスさんの方へ視線を固定し、恐ろしい言葉を口にする。

「折角、ドライアドまで来たことだし、アスタロトへの手土産にリーファを連れて行くのもいいかもしれないね。人攫いはこれでも得意でね、魔人の力を失った今でも十分可能だろう。それにアスタロトも最後の戦いを始める前にゆっくりリーファと話をしたいかもしれ――――ぐはっ!」

 下衆な顔で話を続けていたクローズが突然呻き声をあげると、鼻から血を出してよろけだした。

 まるで何かが顔に衝突したように見えた僕はクローズの正面方向を見つめると、そこには拳から煙を出しているガラルドさんの姿があった。

 ガラルドさんは大穴周辺で戦闘した時にサクリファイスソードを弾き飛ばした技レッド・バレットを目にも止まらぬスピードで繰り出したのだ。

 僕以上に驚いているクローズは垂れてくる血を拭き取ると、苦笑いを浮かべながら呟く。

「なるほど、大陸の英雄ガラルド殿は不意打ちを狙ってくるような男なんだね。思っていたより卑怯で驚いたよ」

 攻撃を喰らっても煽ってくるクローズに対し、ガラルドさんは冷たい表情と声色で言い放つ。

「何を甘っちょろいこと言ってんだ? 戦争はとっくの昔に始まってるし、お前がシンバード領に来た時点で戦いの鐘は鳴ってんだよ。今まで散々下衆な事をしてきただろうに自分がやられるのは勘弁してほしいってか?」

「まさかガラルド君に甘さを指摘されるとは……長い時を生きてきた私もまだまだ未熟なようだ。君はきっと根っこの部分は甘いままなのだろうけど、それでも今回の戦争で少しずつ戦士としての心構えが育ちつつあるのかもね、フフフ」

 ダメージを受けて笑っているクローズは今までの敵にはいないタイプの不気味さを感じる。クローズは被弾した箇所に手を当てて魔力を集中させると、何かの情報を噛みしめるように頷きながら奇妙な事を言い始めた。

「今、私の顔に飛ばしてきた魔力から察するに……赤子の頃とは魔力の質が変わっているね。なるほど……アスタロトが役立たずのゴミだと言い切った才能の欠片も無いガラルド君が何故ここまで強くなれたのか……その理由が分かったかもしれない」

 僕とレックさんがガラルドさんの成長速度について話し合っても何も得られなかったけれど、クローズは一撃受けただけで何かを掴んだようだ。

 ガラルドさんが「何をブツブツ言ってやがる」と言葉を返すと、クローズは戦闘態勢を解いて背中をこちらに向け、ジャッジメントを地面に捨てた。

「今のガラルド君なら廃王園はいおうえんで面白い戦いを見せてくれそうだ。だから私がここで戦うのはやめておくよ。私は今からアスタロトの元へ帰るから、ジャッジメントも返しておこう。アスタロトは明日の夕方までは待つと言っていたから精々準備を整えて廃王園はいおうえんに来るといい。もっとも今のシンバードは分厚い包囲網に覆われているけどね」

 包囲網に覆われているという事はストレングさん達はやられてしまったのだろうか? シンバード軍と帝国の争いはベランが拘束された時点で終わりなったけれど、休戦を伝えるべく東西に走った兵士達はまだ帰ってきていない現状では向こうの状況が分からない。

 それに加えて、まだ停戦の情報が伝わっていないアサシン達が暴れている可能性もあるし、アスタロト自身が操れる魔獣達がシンバードを制圧している可能性もある。嫌な予想ばかりが頭をよぎる中、ガラルドさんは冷静に言葉を返す。

「まだ俺達は廃王園はいおうえんに行くとは言ってないぜ? そもそも俺達は既に帝国とは決着をつけていて、手を取り合う関係になっている。だから既にアスタロト陣営は孤立しているわけだ。無理に急いで戦いに行かなくてもしっかりと準備を整えて、数の力でアスタロトを潰す事こそが合理的だ」

「いいや、明日になったら君は必ず廃王園はいおうえんに向かうはずだ。ガラルド君は甘い男だからね」

「なに? どういうことだ?」

 クローズが再び意味深な言葉を呟き、ガラルドさんが困惑している。ガラルドさんに言葉の真意を問われたクローズは一瞬だけシンさんの方に視線を向けてすぐに戻すと、自分の考えを述べた。

「君達はシンバードで戦っていた四聖や仲間達が上手く逃げきり、もぬけの殻になったシンバードをアスタロト陣営が制圧していると思っているのではないかな? それは概ね間違ってはいない……だが、逃げ切れたのは一般兵や民衆だけだ。君達と特に親交の深いストレングや南からきた仲間達はアスタロトが人質として廃王園はいおうえんに捕らえている。シン国王なら切り捨てる判断を出来るかもしれないが、ガラルド君には絶対無理だろう? フフフ」

 クローズは今日一番の楽しそうな顔でガラルドさんを煽っている。クローズの言葉を受けてガラルドさんは何も言えなくなっている。そんなガラルドさんを見たシンさんはクローズの前まで歩いて近づき、睨みつけながら宣言する。

「これ以上、俺の可愛い部下を虐めるのはもらおうか。仮にガラルド君が人質を見捨てる判断をしたとしても国王である俺が人質を救出するように命令させてもらうつもりだ。何もかも見透かしたような物言いは馬鹿が露呈するぞ?」

「ふーん、賢い王様だと思っていたけど情に流されやすい王様なんだね。まぁ君達が廃王園はいおうえんに来ることが私にとってもアスタロトにとっても都合が良いから、これ以上は何も言わないよ。今回の計画は何十年もの時をかけて0から多くの魔獣を死の山で育てて使役し、帝国をはじめとした多くの人間に介入してきた私史上最大の大仕事だ。仮に戦いから逃げて、また0から大陸支配の大仕事をやり遂げるのは流石に骨が折れるし、時間も限られているからね。私の望みを叶えてもらう為にも必ず戦ってもらわないとね」

 クローズの言う通り、高度な知能と技術を持つアスタロトとクローズがいれば今回の戦いを全て放り投げて、0から再起を図る手も取れなくはないと思う。

 それでもクローズは『時間が限られている』『私の望みを叶えたい』という意味深な言葉を残し、この戦争で全ての決着をつけたがっているのが気になるところだ。

 クローズは話したいことは全て話せたのか満足気な笑みを浮かべると、魔力の羽で浮き上がり、最後の言葉を残す。

「アスタロトからの伝言も届けられた事だし私は帰る事にするよ。明日は遂に君達とアスタロトの因縁に決着がつく日だ、私は楽しみにしているよ。だから廃王園はいおうえんに着く前に死ぬなんてことはないようにね。シンバードの包囲網はアスタロトから課せられたテストみたいなものだ、それすら突破できないようじゃ顔を合わせる資格が無いからね。それじゃあまたね」

 クローズは楽しそうに手を振ると、高速で東に飛んでいった。分かってはいたけれどやっぱり掴みどころのない不気味な男だ。明日の戦いではアスタロトだけじゃなくクローズにも注意しなければ。

 クローズが来た事で微妙な空気になった僕達はとりあえず明日の事を話し合う為に再び集会所の中に入ることにした。




=======あとがき=======

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