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【第414話】力の謎
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※今回はグラッジ視点です
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「レック様、グラッジ殿、間もなくドライアドに到着いたします。熟睡中のガラルド殿はこのままドライアド診療所のベッドにお運びしてもよろしいでしょうか?」
第4部隊の兵士が小声で僕とレックさんに指示を仰いできた。兵士の言う通りガラルドさんは連戦の疲れで泥のように眠っているからちゃんと柔らかいベッドの上で休ませてあげたほうが良さそうだ、僕もレックさんもすぐに兵士に指示を出した。
ようやく休息の地であるドライアドに到着だ。僕は数回しか来た事がないけれど果樹園が多くて人も優しく、凄く落ち着く大好きな町だ。
戦争が始まる50日前ぐらいまでは帝国に拉致されていた旧ドライアド民達が順番に帰ってきていて賑わいは増すばかりだったけれど、今は戦争中だから流石に緊張した空気が張りつめている。
ドライアドの周辺にはモードレッド兄弟のミストルティンから解放された魔獣達が指令元を失った状態で放置されている。魔獣によってはドライアドを襲ったり、四方に散ったりと行動はバラバラだ。
そのせいで帝国との戦争が止まった今でもドライアドには最大級の警戒態勢がしかれている。町の外では帝国兵、ハンター、そしてシンバードから逃れてきた一部住民などがドライアドを覆う並んで魔獣と戦っている。
ホントは今すぐにでも彼らに加勢したいところだが、僕達はこれからの行動について話し合いをする必要がある。今は町の中心にある集会所へ行かなければ。僕とレックさんは馬車から降りると徒歩で集会所に向かい、正面扉を開けた。
集会所の中には既にシンさん達主要メンバーが揃っていて、拘束したベランと三人の魔人、そして布で目を塞がれて手足も縛られているバイオルとミニオスの姿があった。
バイオルとミニオスだけ目を塞がれているのは恐らくミストルティンを使わせない為だろう。対人にせよ対魔獣にせよ彼らにスキルを使われたら非常に厄介だ、少なくとも戦争が終わるまでは大人しくしといてもらおう。
レックさんは全員が揃っているのを確認すると椅子に座り、早速今後の事について話しを始める。
「シンバードの方々に助けられたおかげで我々は多くの血を流さずに済み、俺も命を救われた、本当にありがとう。激戦が終わってすぐのところ申し訳ないが、早速今後の事について話し合おう。人間同士の争いを終えた今、我々はすぐにアスタロトを止めに行かなければならない。誰か良い作戦を思いついた者はいるか?」
レックさんが問いかけたものの誰も作戦を思いつけるものはいなかった、戦争が始まってからアスタロトを見かけた情報が無いのだから仕方がないだろう。そんな中、唸りながら何かを考えていたリリスさんがゆっくりと挙手し、自信なさげに自分の考えを述べた。
「この意見は私のフィーリングでしかないのですけど聞いてもらえますか? 多分、ディ……アスタロトはそう遠くない内に私達へ接触してくる気がするんです。彼は負けず嫌いで繊細で執念深い性格なので」
リリスさんの言葉に対してレックさんが「どういうことだ? 詳しく聞かせてもらえるか?」と尋ねると、リリスさんは頷き、言葉の真意を語り始めた。
「彼はクローズの影響でグラドへの憎しみを増大させ、人類そのものを恨み始めました。その執着は捻じれに捩じれて今はかつての仲間である五英雄の私やシリウス、そしてグラドの息子であるガラルドさんにまで及んでいます」
「確かに奴の執着は相当なものだ。帝国と一時的に手を組んだのも合理的に人間の総数を減らせると考えての事だろうしな。まぁモードレッド兄さんの言動は人間離れしたところがあったからその点を気に入っている可能性もあるが……」
「それらの行動に加え、アスタロトは死の山とディアトイルで二度私達に接触してきましたし、二度目には戒めの為に付けていた仮面すら外していました。ガラルドさんを自身の手で殺そうともしていましたし、私に対しては……何と言いますか……殺意とは違う執着をみせていたようにも思えます」
リリスさんが言葉を詰まらせた理由が僕には何となく分かる。恐らくアスタロトの攻撃がリリスさんの体を貫いた際にアスタロトの精神が暴走した件を思い返していたからだろう。
少なくとも過去のアスタロトはリリスさんに対し友情以上の気持ちを持っていたと思うし、今のアスタロトもリリスさんを大切に想う気持ちがあるのだろう。
その後もリリスさんはアスタロトの性格について自身の意見を語り続けた。その結果、僕達は近々アスタロトと接触できるはずだという結論に至り、各々休息や準備を進める流れとなった。
話し合いも一区切りついたところでシンさんが「一旦、30分ほど休憩を挟むことにしよう」と提案してくれて僕達は休むことにした。
とは言っても30分では外の空気を吸ったりお茶を飲んだりするぐらいしかやれることはなさそうだ。僕は集会所のテラスにある椅子に座って自分で淹れた紅茶を飲んでいると、横の椅子にレックさんが座り、神妙な面持ちで僕に話しかけてきた。
「休憩中にすまないが少し話したいことがある、お時間いただいて構わないかなグラッジ殿?」
「あ、はい、大丈夫ですよ。それで話って何ですか?」
「俺が話したいのはその……ガラルドの事だ。戦闘においてアイツが強いことは前から分かっていたが、それにしたって最近のガラルドは強すぎないか? 何か強くなるきっかけみたいなものがあったのか? グラッジ殿が一番ガラルドと一緒に戦闘訓練をしてきたはずだよな? 何か知っていたら教えてほしい」
「いつも真面目に一生懸命特訓をしてますけど、何か特別な事をしているとは思いませんが。ですが、確かに異常な成長速度ですよね。幼少期にガラルドさんの体を調べたアスタロトによると個人の成長速度をあらわす才能値という値があるらしいのですが、ガラルドさんは一般の魔術を使える人より低かったらしいです」
「そうなのか……だが、今のあいつは人間というカテゴリーの中では間違いなく最強クラスだ。仲間と協力しながらとはいえモードレッド兄さんに勝利し、変化の霧を使って兵器と化した俺すらも止めたんだからな。それに加えて連戦を戦い切る異常な体力と回復力……ハッキリ言って化け物だ。初めて会った時は全然そんな素養は見受けられなかったというのに……」
レックさんが化け物だと言いたくなる気持ちは分かる。特に死の山や帝国との戦争中にみせた回復力は常時アクセラをかけられているかのような凄まじい回復力だ。
ガラルドさんの中で何かが目覚めようとしているのだろうか? 何かガラルドさんの強さに繋がる情報が無いだろうかと頭の中を探っているとレックさんが自身の仮説を唱えた。
「もしかして、ガラルドは後天スキルが目覚めたんじゃないか? 確かガラルドの魔砂は先天スキルのはずだろ?」
「あ! 確か以前に海底集落アケノスでガラルドさんのスキル鑑定をしてもらった時にほとんど解読できない後天スキルの記述があったんです。部分的に読み取れた古代文字には『変化』『起動』という文字が書かれていたみたいですが」
「『変化』と『起動』? 変化って単語を成長と読み取れば急成長と解釈できなくもないが『起動』がさっぱり分からないな。それに異常な回復力に繋がる単語でもない気がするしな」
「そうですね、思い出したものの、手掛かりにはならなさそうですね。他にガラルドさんならではの個性的な何かがあるかと言われると……戦闘や肉体には関係なさそうな素材図鑑しか思いつかないですね」
「素材図鑑……確か、初めて見る素材でも詳細な情報が分かる場合があるというガラルドの不思議な特技だな? スキル鑑定でも出てこない技能は謎めいてはいるものの、関係はなさそうだな」
「僕もそう思います。ところでレックさんは随分とガラルドさんの成長を気にかけているようですね。その……失礼を承知で尋ねますが、変化の霧に侵されていた時に言っていたようにライバル心や嫉妬心がざわついて知りたくなった感じですか?」
「はっはっは、随分と切り込んだ質問をしてくるではないかグラッジ殿。少し壁が無くなったようで個人的に嬉しいぞ。で、話を戻すが正直、そういう気持ちも無いことは無い。だが、ガラルドのことを知りたい一番の理由はアスタロトとの戦いで少しでも役に立ちたいからだ。最終的に何処でどのタイミングでアスタロトと対峙するかは分からないが、俺はガラルドの横に立って共に戦うつもりだ。その時に足手まといにはなりたくないし、グラッジ殿以上にガラルドの助けになれる存在でありたいと思っている」
レックさんは真っすぐな目で僕を見ている。今のレックさんは変化の霧に侵されていた時のような歪んだライバル心ではなく、純粋な気持ちで僕にライバル心を抱いてくれているようだ。
勿論、僕だって負けるつもりはない。レックさんは新しくなった帝国の頂点に立つかもしれない目上の存在かもしれないけれど、今は戦友としての言葉を返させてもらおう。
「僕だって負けませんよ、レックさんにもガラルドさんにもね。最後の戦いは今までのどの戦いよりもギリギリになると思いますし、全員が強固な連携をとらなければ勝てないと思います。無茶ばかりするガラルドさんを僕とレックさんで見守りつつ、お互い切磋琢磨していきましょう」
「ああ、よろしく頼む!」
話を終えると僕達は互いの右拳を突き出して合わせた。この会話でガラルドさんの強さの謎が一層気になってしまったけれど、レックさんと仲良くなることが出来て良かった。
ガラルドさんはどんどんと強くなっているし、レックさんも確実に一皮むけている。僕も彼らに置いて行かれないよう気を引き締めなければ。
僕は残っている紅茶を飲み干し、自身の頬を軽く叩いて気合を入れ直した。そして、会議の場に戻ろうと集会所入口のドアノブに手をかけたその時――――空の上から突然男の声が飛び込んできた。
――――英雄の孫と皇族の友情か、うんうん、とても素晴らしいね――――
慌てて空を見上げた僕は視界に映る男の姿に驚いた。なんとワン……クローズが魔力の翼を広げて空に浮かんでいたのだ。一瞬で戦闘態勢に入った僕とレックさんを尻目にクローズは肩をすくめながら呟いた。
「嫌だなぁ~、今日の私は戦いに来た訳ではないのだよ? アスタロトから伝言を預かってきただけなんだけどね~」
=======あとがき=======
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「レック様、グラッジ殿、間もなくドライアドに到着いたします。熟睡中のガラルド殿はこのままドライアド診療所のベッドにお運びしてもよろしいでしょうか?」
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ようやく休息の地であるドライアドに到着だ。僕は数回しか来た事がないけれど果樹園が多くて人も優しく、凄く落ち着く大好きな町だ。
戦争が始まる50日前ぐらいまでは帝国に拉致されていた旧ドライアド民達が順番に帰ってきていて賑わいは増すばかりだったけれど、今は戦争中だから流石に緊張した空気が張りつめている。
ドライアドの周辺にはモードレッド兄弟のミストルティンから解放された魔獣達が指令元を失った状態で放置されている。魔獣によってはドライアドを襲ったり、四方に散ったりと行動はバラバラだ。
そのせいで帝国との戦争が止まった今でもドライアドには最大級の警戒態勢がしかれている。町の外では帝国兵、ハンター、そしてシンバードから逃れてきた一部住民などがドライアドを覆う並んで魔獣と戦っている。
ホントは今すぐにでも彼らに加勢したいところだが、僕達はこれからの行動について話し合いをする必要がある。今は町の中心にある集会所へ行かなければ。僕とレックさんは馬車から降りると徒歩で集会所に向かい、正面扉を開けた。
集会所の中には既にシンさん達主要メンバーが揃っていて、拘束したベランと三人の魔人、そして布で目を塞がれて手足も縛られているバイオルとミニオスの姿があった。
バイオルとミニオスだけ目を塞がれているのは恐らくミストルティンを使わせない為だろう。対人にせよ対魔獣にせよ彼らにスキルを使われたら非常に厄介だ、少なくとも戦争が終わるまでは大人しくしといてもらおう。
レックさんは全員が揃っているのを確認すると椅子に座り、早速今後の事について話しを始める。
「シンバードの方々に助けられたおかげで我々は多くの血を流さずに済み、俺も命を救われた、本当にありがとう。激戦が終わってすぐのところ申し訳ないが、早速今後の事について話し合おう。人間同士の争いを終えた今、我々はすぐにアスタロトを止めに行かなければならない。誰か良い作戦を思いついた者はいるか?」
レックさんが問いかけたものの誰も作戦を思いつけるものはいなかった、戦争が始まってからアスタロトを見かけた情報が無いのだから仕方がないだろう。そんな中、唸りながら何かを考えていたリリスさんがゆっくりと挙手し、自信なさげに自分の考えを述べた。
「この意見は私のフィーリングでしかないのですけど聞いてもらえますか? 多分、ディ……アスタロトはそう遠くない内に私達へ接触してくる気がするんです。彼は負けず嫌いで繊細で執念深い性格なので」
リリスさんの言葉に対してレックさんが「どういうことだ? 詳しく聞かせてもらえるか?」と尋ねると、リリスさんは頷き、言葉の真意を語り始めた。
「彼はクローズの影響でグラドへの憎しみを増大させ、人類そのものを恨み始めました。その執着は捻じれに捩じれて今はかつての仲間である五英雄の私やシリウス、そしてグラドの息子であるガラルドさんにまで及んでいます」
「確かに奴の執着は相当なものだ。帝国と一時的に手を組んだのも合理的に人間の総数を減らせると考えての事だろうしな。まぁモードレッド兄さんの言動は人間離れしたところがあったからその点を気に入っている可能性もあるが……」
「それらの行動に加え、アスタロトは死の山とディアトイルで二度私達に接触してきましたし、二度目には戒めの為に付けていた仮面すら外していました。ガラルドさんを自身の手で殺そうともしていましたし、私に対しては……何と言いますか……殺意とは違う執着をみせていたようにも思えます」
リリスさんが言葉を詰まらせた理由が僕には何となく分かる。恐らくアスタロトの攻撃がリリスさんの体を貫いた際にアスタロトの精神が暴走した件を思い返していたからだろう。
少なくとも過去のアスタロトはリリスさんに対し友情以上の気持ちを持っていたと思うし、今のアスタロトもリリスさんを大切に想う気持ちがあるのだろう。
その後もリリスさんはアスタロトの性格について自身の意見を語り続けた。その結果、僕達は近々アスタロトと接触できるはずだという結論に至り、各々休息や準備を進める流れとなった。
話し合いも一区切りついたところでシンさんが「一旦、30分ほど休憩を挟むことにしよう」と提案してくれて僕達は休むことにした。
とは言っても30分では外の空気を吸ったりお茶を飲んだりするぐらいしかやれることはなさそうだ。僕は集会所のテラスにある椅子に座って自分で淹れた紅茶を飲んでいると、横の椅子にレックさんが座り、神妙な面持ちで僕に話しかけてきた。
「休憩中にすまないが少し話したいことがある、お時間いただいて構わないかなグラッジ殿?」
「あ、はい、大丈夫ですよ。それで話って何ですか?」
「俺が話したいのはその……ガラルドの事だ。戦闘においてアイツが強いことは前から分かっていたが、それにしたって最近のガラルドは強すぎないか? 何か強くなるきっかけみたいなものがあったのか? グラッジ殿が一番ガラルドと一緒に戦闘訓練をしてきたはずだよな? 何か知っていたら教えてほしい」
「いつも真面目に一生懸命特訓をしてますけど、何か特別な事をしているとは思いませんが。ですが、確かに異常な成長速度ですよね。幼少期にガラルドさんの体を調べたアスタロトによると個人の成長速度をあらわす才能値という値があるらしいのですが、ガラルドさんは一般の魔術を使える人より低かったらしいです」
「そうなのか……だが、今のあいつは人間というカテゴリーの中では間違いなく最強クラスだ。仲間と協力しながらとはいえモードレッド兄さんに勝利し、変化の霧を使って兵器と化した俺すらも止めたんだからな。それに加えて連戦を戦い切る異常な体力と回復力……ハッキリ言って化け物だ。初めて会った時は全然そんな素養は見受けられなかったというのに……」
レックさんが化け物だと言いたくなる気持ちは分かる。特に死の山や帝国との戦争中にみせた回復力は常時アクセラをかけられているかのような凄まじい回復力だ。
ガラルドさんの中で何かが目覚めようとしているのだろうか? 何かガラルドさんの強さに繋がる情報が無いだろうかと頭の中を探っているとレックさんが自身の仮説を唱えた。
「もしかして、ガラルドは後天スキルが目覚めたんじゃないか? 確かガラルドの魔砂は先天スキルのはずだろ?」
「あ! 確か以前に海底集落アケノスでガラルドさんのスキル鑑定をしてもらった時にほとんど解読できない後天スキルの記述があったんです。部分的に読み取れた古代文字には『変化』『起動』という文字が書かれていたみたいですが」
「『変化』と『起動』? 変化って単語を成長と読み取れば急成長と解釈できなくもないが『起動』がさっぱり分からないな。それに異常な回復力に繋がる単語でもない気がするしな」
「そうですね、思い出したものの、手掛かりにはならなさそうですね。他にガラルドさんならではの個性的な何かがあるかと言われると……戦闘や肉体には関係なさそうな素材図鑑しか思いつかないですね」
「素材図鑑……確か、初めて見る素材でも詳細な情報が分かる場合があるというガラルドの不思議な特技だな? スキル鑑定でも出てこない技能は謎めいてはいるものの、関係はなさそうだな」
「僕もそう思います。ところでレックさんは随分とガラルドさんの成長を気にかけているようですね。その……失礼を承知で尋ねますが、変化の霧に侵されていた時に言っていたようにライバル心や嫉妬心がざわついて知りたくなった感じですか?」
「はっはっは、随分と切り込んだ質問をしてくるではないかグラッジ殿。少し壁が無くなったようで個人的に嬉しいぞ。で、話を戻すが正直、そういう気持ちも無いことは無い。だが、ガラルドのことを知りたい一番の理由はアスタロトとの戦いで少しでも役に立ちたいからだ。最終的に何処でどのタイミングでアスタロトと対峙するかは分からないが、俺はガラルドの横に立って共に戦うつもりだ。その時に足手まといにはなりたくないし、グラッジ殿以上にガラルドの助けになれる存在でありたいと思っている」
レックさんは真っすぐな目で僕を見ている。今のレックさんは変化の霧に侵されていた時のような歪んだライバル心ではなく、純粋な気持ちで僕にライバル心を抱いてくれているようだ。
勿論、僕だって負けるつもりはない。レックさんは新しくなった帝国の頂点に立つかもしれない目上の存在かもしれないけれど、今は戦友としての言葉を返させてもらおう。
「僕だって負けませんよ、レックさんにもガラルドさんにもね。最後の戦いは今までのどの戦いよりもギリギリになると思いますし、全員が強固な連携をとらなければ勝てないと思います。無茶ばかりするガラルドさんを僕とレックさんで見守りつつ、お互い切磋琢磨していきましょう」
「ああ、よろしく頼む!」
話を終えると僕達は互いの右拳を突き出して合わせた。この会話でガラルドさんの強さの謎が一層気になってしまったけれど、レックさんと仲良くなることが出来て良かった。
ガラルドさんはどんどんと強くなっているし、レックさんも確実に一皮むけている。僕も彼らに置いて行かれないよう気を引き締めなければ。
僕は残っている紅茶を飲み干し、自身の頬を軽く叩いて気合を入れ直した。そして、会議の場に戻ろうと集会所入口のドアノブに手をかけたその時――――空の上から突然男の声が飛び込んできた。
――――英雄の孫と皇族の友情か、うんうん、とても素晴らしいね――――
慌てて空を見上げた僕は視界に映る男の姿に驚いた。なんとワン……クローズが魔力の翼を広げて空に浮かんでいたのだ。一瞬で戦闘態勢に入った僕とレックさんを尻目にクローズは肩をすくめながら呟いた。
「嫌だなぁ~、今日の私は戦いに来た訳ではないのだよ? アスタロトから伝言を預かってきただけなんだけどね~」
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