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【第411話】ベラン
しおりを挟む「初めまして、英雄ガラルド殿。私はモードレッド様の後任ベランと申します。あなた方が自ら死地に飛び込んでくださり手間が省けました。ありがとうございます」
少し離れた位置から露骨に煽ってきている初老の男こそが第4部隊の兵士が言っていたベランのようだ。思っていた以上に性格が悪そうで、近寄られているにもかかわらず随分と余裕な態度とっていて癪にさわる奴だ、とりあえず言い返しておこう。
「死地という割には随分と楽に中心まで入ってこられたけどな。お優しいベラン殿はサービスしてくれたのか?」
俺が煽り返すとベランは鼻で笑い、指を天に向けて語り出す。
「ここまで一気に突破してくるとは思いませんでしたから、その点だけは驚かされたと認めましょう。ですが、どのみちシン国王が死ぬことには変わりありません。むしろ貴方達がここまで来てくれた事は私にとって好都合ですから」
「好都合だと? どういう意味だ?」
「同盟陣営にとってシン殿の死が致命的なダメージになることは確かでしょう。ですが、シン殿を暗殺できたとしても100%帝国・アスタロト陣営の勝利になるとは断言はできません。もしかしたら、シン殿ほどではないにしても後を継げるほどのカリスマ性を持つ者がいないとも限りませんからな。そんな存在が英雄ガラルド殿だとしたらここで確実に殺しておきたいですからね、そういった意味では好都合なのですよ」
「俺はそんな立派なもんじゃないが、あんたの狙いは分かった。だが、あんたは本当に俺達に刃を向けるのか? こっちには正気を取り戻したレックだっているんだぞ? それに、ここまで近づいた俺達をあんたや帝国兵が止められるとは思えないぜ?」
「強がりはよしてください。もう貴方達はボロボロでしょう? ガラルド殿もグラッジ殿もレック様ももはや戦える状態ではありますまい。生体兵器と化したレック様と戦った時点でろくに体力も魔量も残っていないのは明白でしょう? むしろ生きてここにいることの方が不思議です、特に変化の霧を投与されたレック様はね。レック様が変化の霧を克服し、生きられてしまうと私にとっても不都合なのです、申し訳ありませんが、ここで消えていただきますよ」
ベランが喋り終えるとベランの両横にいる二人の兵士がサクリファイスソードを構えた。あの二人はパッと見ただけでも屈強な肉体を持っていて、強い魔力を持っているのが分かる。そんな土台のしっかりした人間がサクリファイスソードで自己強化してきたら堪ったんもんじゃない。
すぐに動き出して強化を完了させる前に倒してやろうと俺は足裏に魔力を溜め始めたが、レックが腕を俺の前に出して制止させ、ベランに語り掛けた。
「待ってくれガラルド! 俺はまだベランに聞きたいことがある。聞いてくれベラン、今からでも遅くはないからアスタロト陣営との協力を破棄しないか?」
「何を馬鹿な事を……そうやって口を挟んで私から新皇帝の座を奪おうとしているのではありませんか? レック様が暴走を抑え、自我と理性を取り戻した以上、継承権を主張することが出来ると言いたいのですか?」
「俺はもう皇族の地位だとかそんなものはどうでもいいんだ! ベランから次期皇帝の地位を奪いたい訳じゃない。俺は戦争を終わらせたいだけなんだ。そもそも、アスタロトと組むことを決めたのは独善的なモードレッド兄さんだ。だから新皇帝であるベランがモードレッド兄さんの考えを引き継ぐのを止めて、新しい方針を打ち出してシンバード陣営と手を組みさえすれば人と人が殺し合うことはなくなるんだ」
「ふむふむ、実にレック様らしい生ぬるい考えですな。そんな貴方が帝国のトップになれば必ずや滅びる事でしょう。政治や戦争においてガラルド殿やレック様ほどコントロールしやすいお人好しはいません。そんな弱いあなたが上に立つ資格なんてありませんし、提案なんて聞き入れられるはずがありません」
「ガラルドと俺がコントロールしやすいだと? どういうことだ?」
「私はガラルド殿とレック様が戦って両者が生きていれば必ずシン殿を助けにここへ戻ってくると思っていました。ガラルド殿は仲間の為に平気で命を賭けるような甘い男だと噂に聞いていましたし、レック様も友情や恩義の為なら必ずやガラルド殿について此処へ来るとね」
「見事に性格を読まれてしまったという訳だな……」
「ええ、その通りです。まぁ一番の理想はガラルド殿とレック様が相討ちで死ぬ未来だったのですがね。どっちにしても貴方達は全員死ぬことでしょう。ボロボロのガラルド殿とレック様は大量の兵士に押しつぶされ、空に浮かぶシン殿も広範囲に広がった我々の陣形を抜けきる前に魔量切れを起こして白鯨を墜落させるでしょう。それに、この陣形は広範囲に展開することでアイ・テレポート対策も兼ねていますからな」
「……分かってはいたが、俺は皇帝モードレッドの弟という立場でありながら本当に盤上の駒だったんだな。自分より継承権が低い男にここまで舐められていちゃ世話がないな……」
「まぁまぁ、そこまで自分を責めなくてもいいではないですか、レック様。元々私は誰も信用していませんし、敬意もありませんから結果は同じだったはずです。まだ敵国の長であるシン殿の方がドライな判断が出来るぶん尊敬できる要素はあるでしょうね。甘くて善に偏った人間は総じて思考が読みやすいものです。そして、思考が読みやすいという点では今は亡きモードレッド様も同様です」
「何だと? 頭の良いモードレッド兄さんの思考が読みやすいはずがないだろう、デタラメを言うな!」
「モードレッド様が知略にも腕っぷしにも長けているのは認めましょう。ですが、いくら力を持っていても馬鹿が付くほど真面目過ぎる人間は貴方達同様思考が読みやすいものです。モードレッド様が『帝国の為』を口癖に主戦力である御自身で敵主戦力を潰しにいき、倒される可能性を私は予想していて結果その通りになりました。ああいう人間は志がどうだとか御大層な言葉を並べて散っていくのがセオリーですからね。本当に馬鹿な皇帝ですよ」
レックはベランの煽りに手を震わせながら怒りを堪えている。俺やグラッジが同じ立場なら我慢ならずに胸倉を掴みにいっているかもしれない。
流石は皇族の精神力というべきなのだろうか? それとも殴りかかる余力すら残っていないのだろうか? 俺には答えが分からないけれど苦しんでいるレックを守ることぐらいは出来るはずだ。今度は俺がレックの代わりにベランと話をして奴の考えを聞き出す事にしよう。
「死者を愚弄するのは止めろ、ベラン! それよりお前に聞きたいことがある。仮に帝国がシンバードや同盟陣営を全て潰す事ができたら、その後はどうするつもりだ? 残った帝国陣営とアスタロト陣営で戦争をして決着をつけるのか?」
俺が尋ねるとベランは肩をすくめながら鼻で笑い、自身の考える未来を語る。
「決着? そんなものつけるはずがないでしょう? アスタロトのような人知を超えた化け物と戦っては新皇帝である私が殺される恐れがありますからね。全面戦争となれば帝国陣営に幾らか勝機があるかもしれませんが、それでも死ぬ可能性のある選択は御免です。アスタロトが支配する大陸下で帝国が程よく二番手になれるように立ち回るでしょうね。これからの世は狡猾で合理的に且つ無駄に目立とうとしない者が生き残るのです」
「……つまり傘下になるって事か……随分と弱気で保身的な新皇帝様だな。モードレッドは一時的にアスタロト陣営と組むことはあっても、最終的にはアスタロトを倒し、帝国が大陸を統治する未来を夢見ていたんだぞ? モードレッドはベランの考えや本性を知っていたのか?」
「さあ? どうでしょうね。私は少なくともモードレッド様の前では従順なフリをしていましたからね。そうしないと皇帝権の継承に不都合が生じる可能性がありますからね。私が成り上る為にはある程度の演技力がありませんとね」
どうやらベランは想像以上に屑で芯のない男のようだ。こんな奴に倒されてしまったら死んでも死にきれないだろう。帝国人ではない俺ですら怒りがグツグツと煮えたぎってくるのを感じる。気が付けば俺はベランを煽っていた。
「これじゃあ歴代の皇帝が気の毒だな。最後の皇帝ベランがここまで無能では長年の苦労も水の泡だ」
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