見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

文字の大きさ
上 下
406 / 459

【第406話】心の奥

しおりを挟む


「ううぅぅぐぅっ……に、逃げろ……ガラルド……」

 暴走したレックは俺の首を締めながらも名前を呼んでくれている。どうやら僅かに残った理性で俺の事を認識し、守ろうとしてくれているようだ。

 レックに名前を呼ばれた事で俺は改めて『真の敵は霧の力を利用する帝国の体制であり、レックではない』のだと怒りが燃え上がってきた。

 無理やり暴走させられたレックが必死に抗ってくれているのだから今回の戦いは誰かと誰かの戦いではない……『帝国の意志』対『俺、レック、グラッジ、第4部隊』の戦いなのだ。

 膂力の差でレックに抗えない以上、今は力でレックの手を離させるのは難しい。一瞬でいいからレックの締め付けを緩ませる隙を作らせなければ。俺はレックの理性へ語り掛ける事にした。

「ぐっ……レ、レック、この手を離せ……もう、お前に命令する……モードレッドは……負けた……死んだんだ……」

「グルルルゥゥッ……兄さん……が……死……ぐああぁぁっっ!」

 一瞬だけ力が弱まった気がするが、それでも首を掴む手を離させることは出来なかった。モードレッドが負けて散っていったという事実ですら暴走するレックはちゃんと認識できないのだろうか? それともしっかり認識したうえでそれでも暴走が上回っているのだろうか?

 まずい……本当に打つ手がない。グラッジも周りの兵士もまともに動ける状態ではないし、レックの力が弱まる様子もない。このままでは確実に俺が窒息させられてしまう。

 死が近づいてくるのを感じる……折角わだかまりも溶けてレックと友になれたというのに俺がレックに殺されるなんてあまりにも皮肉が効きすぎている。呼吸が出来ず、頭が回らない状況だから余計な事を考える暇なんてないというのにレックとの思い出ばかりが蘇る。

 ヘカトンケイルでパーティーを追放されるまでの仲の悪かった期間もあったが、ドライアドで再会して模擬試合を行ったり、樹白竜じゅはくりょうの洞窟で死に掛けのレックを助けたりと少し溝を埋めることができた。

 モードレッドに威圧されて何も出来なくなっていたレックとタッグを組み、戦闘訓練でモードレッドに一撃喰らわせて認めさせることが出来た過去も印象深いし、共にイグノーラを守るために九頭竜ヒュドラやザキールを倒した思い出なんて一生忘れる事のない大切な思い出だ。

 気が付けば俺の目からは涙が流れていた。この涙は痛みからくる涙ではなく悲しみと悔しさの涙だ。そして、泣いているのは俺だけではなかった。俺の首を絞め続けるレックもまた暴走に抗いながら涙を流していたのだ。

 レックに友殺しの業を背負わせるわけにはいかないし、死なせるわけにもいかない。レックが悲しむ顔を見たくないし、レックが死んで悲しむ人の顔も見たくない。

 まだ生きているバイオル達兄弟もきっと悲しむはず――――そんな想像をしていた俺の脳にレックの手を止める言葉が舞い降りた。

 もしかしたらレックが大切にしているあの人の名を口にすれば手を緩めてくれるかもしれない……一縷の望みに賭けて、俺は言葉を発する。

「ぐっ……お前が……暴走し続けて……人を殺せば……きっとネイミーが……悲しむぞ……」

「グルルルゥゥ…………ネ、ネイ、ミー? 姉さん? うっ! あ、頭がッッ!」

 レックが元パーティーメンバーであり腹違いの姉であるネイミーの存在を思い出した瞬間、俺の首を絞めていた手は嘘のように力を弱めた。その隙を逃さず体を捻って首絞めから脱出した俺は距離を取って息を整えた。

「ハァハァ……ハァハァ……いいぞ、その調子だ、レック。このまま理性で暴走を抑え込んで変化の霧の力を弱めるんだ!」

「ううぅぅっっ……ううぅっ……」

 レックは小さくうめき声をあげると地面に膝をついてうずくまった。レックの体の中で破壊衝動と理性がどのくらいの割合で戦っているのか分からないが、確実に理性が割合を増やしてきているのは分かる。

 俺は喉が千切れそうなくらい必死になって「頑張れ!」と叫び続けた。周りの兵士達も俺に続いて正気を取り戻すように叫んでいる。

 レックは何度も叫び、唸り、地面を殴り、自分自身と変化の霧に向き合って戦っている。レックが地面を殴る度に重低音が腹まで響き、周囲が穴だらけになっていく。

 時間にして三十秒も経ってはいないが苦しくて長く感じる状況が続いたところでレックは突然ピタリと動きを止め、全身に強い魔力を纏い始めた。

 何か嫌な予感を覚えた俺は反射的に「みんな伏せろ!」と叫び、全員に防御を促した。すると、レックは自爆したのかと思うほどの爆風を全方位に放出し、周囲の地面は直径10メードほど跡形も無く消し飛んでしまった。

 変化の霧の暴走に抗った結果、魔力が暴発したのだろうか? 爆風によって盛り上がった土からそっと顔をのぞかせると、レックの体は光る紋章が右半身に偏り、左半身からは紋章が消えていた。

 半分とはいえ紋章が消えたのだから、ある程度理性を取り戻した可能性もあるだろう。俺は恐る恐るレックへ声を掛けた。

「大丈夫かレック? 暴走を抑え込めたのか?」

「…………」

 俺の問いかけに対しレックは言葉を返さなかった。だが、今すぐ攻撃を加えてきそうな気配もない。もう少し近づいて様子を見てみようと歩み寄ると、レックは手から氷の刃を生み出し、剣先をこちらへ向けて静かに呟いた。

「近寄るなガラルド。俺は結局変化の霧を抑え込むことが出来なかった。自分の中にある邪念に勝てなかったんだ」

「な、何を言ってるんだ? 暴走の影響でさっきまで喋る事すらままならなかったのに今は普通に喋れているじゃないか。くだらない冗談はよしてくれ」

「冗談なんかじゃないさ。魔力の暴走こそ抑えられたが最後の最後で俺は誘惑に負けたんだ。内なる自分へ語り掛けてくる変化の霧の誘いにな」

「誘いだと? お前は何を言ってるんだ? さっぱり分からないぞ?」

 問いかける事しかできず困惑していた俺とは対照的にレックは静かに呼吸を整え、氷剣を両手に構え、着々と戦闘態勢を整えている。未だ戦う覚悟の出来ていない俺に対し、レックは容赦なく斬りかかってきた。

 レックの氷剣を棍で受け止めた俺はフリーになっている足でレックの腹を真っすぐに蹴った。しかし、レックは微動だにしない。足に伝わる感触は大岩でも蹴ったかのように強堅だ。

 レックは一旦後ろへ下がり、腹についた土汚れを払うと少し寂しげな表情で話し始めた。

「肉体と魔力の暴走はある程度抑えることが出来たものの、変化の霧は心の奥底に閉じ込めていた感情をこじ開けてきた……それはガラルドに対するライバル心……いや、嫉妬の心だ」





=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...