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【第403話】暗い穴の底で

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 ドライアド商人の厚意によって馬車で運んでもらえた俺達はグラッジとレックが落ちたと思われる大穴の入り口へ辿り着いた。

 俺を回復させる為に無茶をしたリリスとサーシャは気を失っているから連れて行くのは無理そうだ、馬車の中に置いて行った方がいいだろう。

 パープルズもまだ気を失っているようだし、シンも気こそ失っていないものの戦うのは厳しそうだ。そもそもシンが一番守らなければいけない存在なのだから馬車の中にいてもらう事にしよう。

 俺は馬車に乗せてくれたドライアドの商人たちに礼を告げると、最後にシンと別れの挨拶を交わした。

「それじゃあ行ってくるよ。シンはリリス達のことをよろしく頼む」

「ああ、俺達のことは気にせず、ガラルド君はグラッジ君を救う事だけに意識を集中して頑張ってくれ。最悪、グラッジ君を大穴から出すことが出来ればレック君とは戦わずに放置してもいい」

「えっ? 暴走したレックを放っておいたら体力と魔量を回復させて見境なく周囲を攻撃しちまうぞ? 最悪の場合、近くのドライアドが襲撃される可能性も……」

「いや、あれだけの暴走状態で知性を失っていれば大穴から出る事すら出来ない可能性が高いと俺は考えているよ。モードレッドのミストルティンによる命令で今のレック君はモードレッド以外の人間を見境なく襲う獣となっているだろう。言いたくはないが完全にレック君としての心と知性を捨ててしまっているはずだ。厳しい事を言わせてもらうが大穴で何も出来ずに餓死して息絶えてくれたら、それが一番シンバード軍としては楽な展開になる」

 シンは申し訳なさそうな顔で俺を見つめ、シビアな現実を語っている。シンの言っていることは確かに正しい。だが、やっと本当の仲間になれたレックとそんな別れ方はしたくない。どうにかして不意を突いてレストーレを刺し、暴走状態を解除できるよう頑張ってみよう。

 表面上はシンの言葉に従って了解の返事を返した俺は早速一人で大穴の方へ向かった。大穴はカリギュラのアビスロードを思い出すような底の見えない恐ろしい場所だった。落下によって二人が亡くなってしまうという最悪の想像が頭から拭い去れない。

 だが、幸い大穴は完全な垂直になっている訳ではなく入口から少しだけ斜めになっている。これなら魔砂マジックサンドで浮遊する足場を作らなくても滑り降りることができそうだ。

 早速俺は足裏を斜面につけて真っ暗な大穴を滑り降りていった。当たり前だが下に行けば行くほど視界が暗くなっていてとてもじゃないが普通に歩ける状態じゃない。あまり魔力を使いたくはなかったけれど俺は仕方なく魔術で手の平の上に火を灯して進んでいった。

 およそ50メードほど降りたところだろうか? 滑り降りていた斜面が終わり、俺は何事も起きないまま地面に足を着くことができた。もしかしたら降りている途中で暗闇からレックに襲われるかもしれないとも考えていたが、レックどころか人の気配すら全く感じない。

 軽い火の灯りでは照らす範囲が狭いとはいえ、大穴の底で灯りを照らしている以上、周りに人がいたら俺を見つけて何かしらのアクションを起こすはずだがどういう事だろうか? 俺は仕方なく灯りを手にしたまま大穴の底を巡回していると、目の前に大きな横穴があるのを発見した。

 もしかしたらレックとグラッジは大穴の底に落ちた後、横穴を進んでいったのだろうか……グラッジ達に繋がる手掛かりが横穴ぐらいしかない現状、先に進むしかなさそうだ。仕方なく俺は何処に繋がっているかも分からない横穴を進み続けた。

 駆け足で進むこと3分――――横穴は進むにつれて高さと幅を広げ、道の数も増えている。天然の光魔石によって火を灯さなくても薄っすらと周りが見えるようになってきた。すると視界の端に倒れている人影を発見した。

 まだ顔を確認できる程明るくないから誰かは分からないが、倒れている人影は激しく息切れしており、低く野太い息遣いから察するにレックでもグラッジでもない男性だと分かる。

 何故レックでもグラッジでもない人間がここにいるのか分からない。少し話しかけるのは恐いけれど何か情報を得られるかもしれないから話しかける事にしよう。

「おい、こんなところで何をしているんだ、体は大丈夫か? 悪いが火の灯りで顔を確認させてもらうぞ」

 俺は自身が発生させた火の灯りを男性の顔へと近づけた。すると、男性は鎧と兜を装着しており、怪我こそしていないものの相当バテている。印章を見る限り帝国第4部隊の兵士のようだ。兵士は俺の顔を知っていたらしく、息を乱しながら薄い笑みを浮かべて言葉を返す。

「ハァハァ……ガラルド様……もしや、レック様とグラッジ様のことを追いかけてここまで来てくださったのですか?」

「ああ、ドライアドの商人や仲間達から崩落に巻き込まれたと聞いたんだ。何で第4部隊の兵士がここにいるんだ? レックとグラッジは無事なのか?」

「……結論から申しますとレック様は無事です。ですが、グラッジ様は激しく消耗しており危険な状態です。ハァハァ……私達兵士はグラッジ様と共に暴走するレック様を止めるべく戦っていました。ですが、レック様の強さは圧倒的で……なので私は這いずりながら外へ助けを求めようと移動していたのです」

「そうか、第4部隊は戦いの途中でグラッジに合流して加勢してくれていた訳だな。ここまで頑張ってくれてありがとな、後の戦いは俺に任せてくれ。だから貴方には俺をレックのいるところまで案内してほしい。ボロボロの貴方を俺が背負うから道順だけを教えてくれればいい」

「……分かりました。それでは道順を教えつつ、私達第4部隊がグラッジ様と合流してから何があったのか説明させてもらいます」

「ああ、よろしく頼む」

 兵士をおんぶした俺は早速奥に向かって走り出した。


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