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【第397話】限界突破と絶望
しおりを挟む「これが限界を超えた力か、自分が纏っているとは思えない凄まじい魔力だな。時間も限られていることだ、早速お前達を一人一人着実に消していく事にしようか」
まるで神獣にでもなったかのような桁違いの魔力を放ち始めたモードレッドは視線を俺からサーシャへと移した。まずい……このままでは移動速度が上昇したであろうモードレッドが確実に各個撃破の為に動き出すだろう。
俺はレッド・ステップですぐにサーシャの横へ行って守ろうとしたが、そんな移動を嘲笑うかのようにモードレッドは後ろから俺を抜き去り、一瞬でサーシャの前に立ってしまった。
「まずはレストーレを手に持つ小娘、お前からだ。サクリファイスソードによる強化状態を解除されては厄介だからな」
「ぜ、絶対に貴方には渡さない! リパルシブ!」
サーシャは攻撃を貰う覚悟で斥力を発生させるスキル『リパルシブ』を自身の体に発動させた。
現状サーシャのスキルの中で一番肉体防御力を高める技ではあるが、それでも体自体が頑丈ではないサーシャでは焼け石に水となる可能性は高いだろう。
それはモードレッドも分かっているらしく、サーシャを鼻で笑った。
「脆弱な小娘が少し防御を固めたぐらいでどうにかなる訳ないだろう。それを今から証明してやろう」
そう呟くとモードレッドは拳を胸の前に構えた。今すぐにでも拳撃を繰り出しそうだ……絶対にサーシャを殴らせる訳にはいかない。ようやくレッド・ステップでモードレッドの背後まで近づいた俺は渾身の力でレッド・インパクトを放った。
しかし、モードレッドは背中を向けた直立の姿勢のまま、片手で難なく俺のレッド・インパクトを受け止めてしまった。そして、俺の拳を掴んだモードレッドは溜息を吐いて呟く。
「ハァ……邪魔をするなガラルド。お前は後でゆっくり殺してやる。今は地面で寝ていることだなッ!」
モードレッドは俺の拳を馬鹿げた力で握ると、俺の体ごとぶっきらぼうに地面へ叩きつけた。
「ぐはっっ!」
背中から叩きつけられたにもかかわらず俺は口から血を吐いていた……もしかして、たった一度の投げで内臓がやられてしまったのだろうか? あまりの衝撃に地面へめり込んだまま動けなくなった俺を尻目にモードレッドはサーシャの方へ向き直った。
「邪魔が入ったが次はお前の番だ。小娘にはこの程度の打撃で充分だろう」
傲慢な態度を続けるモードレッドは再び拳を胸の前に構えると、目に止まらぬスピードで裏拳を放った。高速の裏拳はサーシャが腕のガードをする余裕すら与えてくれず、横腹へめり込むと、聞いたことのない破壊音を放ち、サーシャを遠くへ吹き飛ばしてしまった。
俺以上に大量の血を吐き出しながら声も出さずに転がったサーシャは体を痙攣させながらうつ伏せで倒れている……それでもサーシャは気合でレストーレだけは離さなかった。そんな姿を見たモードレッドは感心しながらゆっくりとサーシャの元へ近づいている。
「ほほう、非力な肉体ながらもレストーレだけは意地でも離さないか、見上げた根性だな。小娘、いや、ドライアドの聖女よ、お前に敬意を払い、これ以上苦しまぬように一息で殺してやろう」
ゆっくりと歩いているモードレッドの右手には氷の力を宿した剣が握られている。あれを振り下ろされたら今度こそサーシャは殺されてしまう。俺は痺れる体の中に無理やり火のエネルギーを循環させて体を起こし、モードレッドに向かって走り出した。
だが、吹き飛んだサーシャの距離が遠いのか、それとも俺の移動が遅くなったのか、モードレッドの背中が遠く感じる。俺が必死に走っている間にモードレッドはサーシャの前へ到着し、禍々しい氷の剣を自身の頭上へ振り上げた。
「さらばだ、ドライアドの聖女よ」
俺の全力疾走も虚しくモードレッドは氷の剣を振り下ろした。瞬きを終えた次の瞬間にはきっとサーシャが殺されている……と絶望しかけたその時――――
「させません!」
モードレッドとサーシャの間に瞬間移動したリリスが現れた。リリスは錫杖を頭上に構えた姿勢のまま魔力を全解放してモードレッドの振り下ろしを受けた。錫杖と剣がぶつかった瞬間、あまりの衝撃に三人のいる地面が弾けとんだ。
「くっ、お前はリリスか!」
モードレッドはサクリファイスソードを使い始めてから初めて苛立ちの表情を浮かべている、リリスの動きが奴の虚を突けたのだ。
だが、全力で防御したリリスも無事ではなかった。リリスではモードレッドの振り下ろしの勢いを消し切る事は出来ず、斬られた左肩から大量の血を流している。
リリスは青白い顔で激痛に顔を歪めながら、か細い声で囁いた。
「ごめんなさいシンさん、サーシャちゃん、護衛どころか……逃がす事も出来ませんでした……」
「リリスちゃん!」
血を流しながら両膝を着いたリリスを倒れた姿勢のサーシャが涙目になって叫んだ。大事な仲間二人に大怪我をさせたモードレッドに対し、俺の中で殺意に似た感情が渦巻いてくる。怒りで力を増幅させた俺は音を置き去りにするほどの高速移動でモードレッドに近づいた。
リリスとサーシャに気を取られているモードレッドは背後へ近づいた俺に対し、かなり反応が遅れている。俺はありったけの魔力を旋回の剣に込めて、モードレッドの背中へ振り下ろした。
「絶対に許さないぞ……喰らえ、旋回の剣ッッ!」
「くっ……しまった……ぐあああぁぁっっ!」
モードレッドは超回転を纏う剣によって首から腰にかけて大きな傷を負った。いくらサクリファイスソードで強化されたモードレッドでも旋回の剣による渾身の一撃ならダメージを与える事が出来るようだ。
モードレッドがダメージによって仰け反っている今がチャンスだ! 俺はモードレッドの背後から横を通って移動し、サーシャの手からレストーレを預かった。あとは、この手で握っているレストーレで貫けばモードレッドを止める事が出来る。
俺はレストーレを握り、足裏に熱砂のエネルギーを溜め、地面を蹴った。
「当たれ! レストーレ!」
最低限の動作と最速の踏み込みで突いた俺は空を切った剣先に言葉を失ってしまった。なんとモードレッドは横や後ろに避けるのではなく真上へ跳んで避けたのだ。
あとほんの少しでもモードレッドが仰け反るか、俺の突きが速ければ刺せていただろう。そう思うと悔しさで頭がどうにかなりそうだ。
俺は怒りに満ちた目で真上へ跳び上がったモードレッドを睨んだ。しかし、モードレッドはジャンプしたあと風魔術で空中に停止し、俺の事などお構いなしに上空にいるシンを見つめていた。
モードレッドは子供の様な無邪気な笑顔で唇を舐めると、足と背中に風魔術のエネルギーを溜めて呟いた。
「フッ、リリスが感情に任せてシンの護衛を放棄してくれて助かったぞ。リリスが倒れた今、これで確実にシンを殺す事が出来る」
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