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【第396話】執念を背負ったレストーレ

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「これでもうモードレッドさんは変化の霧による強化を失いました。大人しく拘束されてください」

 レストーレを刺してモードレッドの弱体化に成功したサーシャが降参を促した。すると、モードレッドは膝を震わせながらも何とか立ち上がり状態変化の分析を始めた。

「こ、これが過去にヨハネス軍を苦しめたレストーレの効果か。なるほど、変化の霧で上乗せされた力が湯気の様に抜けていくのを感じる。だが、妙だな……強化状態を解除するだけのレストーレが何故私の膝を震わせている? まるで魔力の制御を狂わされているような」

 モードレッドが呟くとサーシャはモードレッドに見えるようにレストーレを掲げた。レストーレの先端からは複数の色が混ざりあった液体が滴り落ちている。奇妙な液体を食い入るように見ているモードレッドに対しサーシャが説明を始めた。

「サーシャ達はレストーレの持つ強化解除特性だけでは地力の強いモードレッドさんを倒せないかもしれないと考えました。だから、追加で強力な毒を付与する事にしたんです。その毒には魔力制御を狂わせる花『コンフ』 そして纏っている魔力を離散させる花『ヴァリアン』を配合しています」

「ヴァリアン? コンフ? 聞いたことのない花だ……シンバードの学者たちはいつの間にか凶悪な植物を開発していたのか……」

「いいえ、改良を加えたのはシンバードの学者ではなく主にゼロさんとリリスちゃんです。そして、この花を大事に保護していたのは長年帝国に強い恨みを持つ森の女神フローラさんと精霊ノームなのです。だから、モードレッドさんはシンバードの人達だけに負けた訳じゃありません。協力してくれた女神や精霊たちの執念も敗因に繋がっているんです!」

 サーシャが珍しく語気を強めて語っている。七恵しちけいの楽園にいた女神フローラは過去に野盗組織が流した猛毒で楽園を破壊された過去があり、猛毒を提供していたのが帝国だという事実もあって相当帝国を恨んでいる。だからサーシャは意志を引き継ぎたかったのだろう。

 俺達の戦いは遥か昔の因縁と他種族の想いも背負っている。故に尚更負けられない戦いであり勝つことが出来て本当によかった。

 モードレッドは何とか立っているものの、とてもじゃないが戦える状態ではない。このまま拘束してドライアドかシンバードに預けた方が良さそうだ。その時にジャッジメントを使って聞き出せる情報を引き出す事にしよう。

 俺はモードレッドの両腕を縛るべくロープを取り出して準備をしていると突然モードレッドが高笑いを始め、戦争について語り始めた。

「ハッハッハ! 見事だシンバードの戦士達よ。特にガラルドは以前から真の革命家足り得るオーラを感じていたからな、戦う事が出来て本当によかった。だが、私が死んでも帝国リングウォルドが負けるわけではない。この言葉の意味が分かるか、ガラルド?」

「お前は何を言ってるんだ? 魔獣をけしかけることが出来るミストルティンを持った三人は全員倒したんだぞ? その時点で相当な戦力減のはずだ、帝国が勝てるわけがないだろう?」

「ガラルドは二つ見落としている点がある。一つは今回の戦争において帝国がアスタロト陣営と組んでいるという点だ。ミストルティンを封じられようともアスタロトがシンを殺してシンバード陣営を中枢から壊せば最終的な勝利者は手を組んでいる我々となるわけだ。単純な数字対数字で測れる戦いではないということなのだよ」

「……奇襲でも何でもとにかくシンを殺し、アスタロトが勝てば帝国の勝ちでもあるって理屈だな。それじゃあもう一つ俺が見落としている点っていうのは何だ?」

「二つ目は帝国の指揮権についてだ。仮に私を含む四兄弟が全員死ねば指揮権は次の者へと移っていく。帝国リングウォルドは頭を潰されてもすぐに新たな頭が生まれる。長い歴史が紡いできた魂は永遠に消される事は無い」

「だったら受け継ぐ奴がいなくなるぐらい片っ端から倒してやるよ」

「クックックッ、実にガラルドらしいシンプルな啖呵だな。だが、残念ながらそれは不可能だ。シンバードの主戦力であるお前達は今日、この場所で消えるのだからな」

「強がりはよせ、モードレッドが動けなくなった今、暴走したレックしか強力な戦力はいないし指示系統も半壊状態だ。そんな帝国に負けるわけがねぇよ。ただの帝国兵を何千人差し向けようとも俺達は蹴散らしてやるぜ?」

「いいや、お前達を殺すのは……この私だ。今、この瞬間、私は皇帝としての責務を捨て、一つの駒になるとしよう。命を賭してお前達を消す、狂戦士の駒になッ!」

 モードレッドはミストルティンの圧力を噴火の如く溢れさせると、後ろに飛んで距離を取り、懐から新しい剣を取り出した。あの剣はさっきまで使っていた戦闘用の剣ではない……俺の視界には二度と見たくないと思っていた剣型の兵器……サクリファイスソードが映っていた。

「やめろ! モードレッド!」

 俺はモードレッドを止めるべく急いで飛び出したが遅かった。モードレッドはかなり離れた位置で馬車と共に待機していた兵士達から大量の魔力を吸い取りはじめた。二十人以上いた兵士達は次々と倒れだすと魔力を激しくモードレッドに流し込んでいる。

 過去にビエードがサクリファイスソードを使った時でも兵士二人分の魔力を吸っただけで凄まじい強さを手に入れていた事を考えると今のモードレッドの強さは想像する事すら恐ろしい。

 兵士達から根こそぎ魔力を奪ったモードレッドは全身に血管を浮かべながら狂猛とも神々しともとれる桁違いの魔力を放っている。今のモードレッドの強さはアスタロトにすら匹敵するのではないだろうか?

 モードレッドは自身を纏う魔力を見つめて勝利を確信すると、低く威圧的な声で呟く。

「これが限界を超えた力か、自分が纏っているとは思えない凄まじい魔力だな。時間も限られていることだ、早速お前達を一人一人着実に消していく事にしようか」





=======あとがき=======

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