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【第395話】サーシャの作戦

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「今度こそレストーレを当てさせてもらうぜ、モードレッド!」

 サーシャから作戦を授けられた俺は両手に魔力を溜め、モードレッドに向かって走り出した。一方、モードレッドは後ろに下がりつつも冷静に遠距離魔術を放ち始める。

「何か作戦を考えたようだが無駄だと教えてやろう。氷の弾丸よ、ガラルドを退けろ……アイス・バレット!」

 モードレッドの手から頭ほどのサイズはある氷塊が横殴りの雨の様に飛んできた。余りに数が多くてとてもじゃないが避けられそうにない。いつもならサンド・ストームを展開して防御しながら進むところだが、サーシャに授けられた作戦を実行する為に両手の魔力を解き放つわけにはいかない。

 俺は氷塊の雨を急所への被弾を極力避けながら痩せ我慢で直進しつづけた。俺の姿を見たモードレッドは「何故防御しない……気が狂ったか?」と困惑した声を漏らしている。

 きっと痣だらけになっているであろう自分の体をひたすら前に進め、モードレッドの手前10メードまで到達した俺は作戦を実行する為に両手の魔力を解き放った。

「俺とモードレッドを囲め、サンド・トルネード!」

 俺は直径30メード程の縦に長い砂の竜巻を作り出して俺とモードレッドを囲んだ。砂が視界を塞いで上空の様子は見えないが、きっと白鯨モーデックで浮遊しているシン達のすぐ横まで砂の竜巻は到達している筈だ。

 竜巻を前にしたモードレッドは自身の顎に手を当てると、唸りながら作戦の内容を推測し始める。

「この縦に長い砂の竜巻の狙いは何だ? 外からサーシャに攻撃させるにしてもここまで縦に長くする必要はないはずだ」

「さあな、何でだろうな? 精々時間をかけて悩んでくれよ」

「……これだけ消耗の激しそうな竜巻を展開しているにもかかわらず、閉じ込めた私をすぐさま攻撃してこない点から察するに……もしや、サーシャをシンのいる上空へ避難させる気か?」

「…………」

「沈黙は肯定と取らせてもらうぞ。すこぶる甘いガラルドの事だ、このままサーシャをシンに預けて自分を犠牲に仲間を避難させる可能性も充分考えられる。悪いが思い通りにはさせぬぞ!」

 モードレッドは自分なりに結論付けると、風の魔術で真上へと上昇した。竜巻の上端へ到達したモードレッドは剣に風の魔力を宿すと豪快な回転斬りで爆風を発生させ、強引に竜巻の上端を吹き飛ばした。

 砂の竜巻は俺自身から距離の離れた上端部分が一番強度が弱く、とてもじゃないがモードレッドの回転斬りに耐えられるものではなかった。視界がクリアになったモードレッドはすぐさま周りを見渡して白鯨モーデックを見つけると困惑した表情で呟く。

「……サーシャが竜巻の外にもいなければモーデックの上にも乗っていないだと? 一体サーシャをどこに避難させたんだ、ガラルド!」

 モーデックはまだサーシャの事を侮っているのか避難させたと決めつけている。だが、この竜巻は俺とサーシャが協力してレストーレを当てる為に生み出したものだ、だからサーシャは逃げてなどいない。

 自身の予想が外れて渋い表情を浮かべたモードレッドはまだ残っている竜巻の根元――――俺の立っている場所まで降りてくると、再び質問を投げかけてきた。

「縦に長い竜巻は上方向に逃げたと思わせるフェイクであり、本当は横移動でサーシャを逃がしたのか? この遮蔽物が少ない平原では私や他の帝国兵がすぐに見つけてしまうかもしれないぞ?」

「ご忠告どうも。だが、竜巻を作り出した本当の狙いは別かもしれないぜ? 例えばモードレッドを閉じ込めて無理やり近接戦に持ち込む為とかな」

「単に接近戦に持ち込みたいなら半球状に砂嵐を展開するはずだろう? わざわざ縦に長い竜巻で上に移動できるような形にしないはずだ。結局、私にはガラルドの真の狙いが分からないが問題はない。シンプルにお前を潰せばレストーレを受ける事はなくなるはずだ」

 迷いの無くなったモードレッドは俺を潰すべく再び魔術の詠唱を始めた。狭い竜巻の中なりに距離を取って中距離魔術でダメージを与えてくるつもりなのだろう。

 サーシャが提案した『あの作戦』を実行する為にはもう少し時間を稼ぎたいし、極力モードレッドを竜巻の外周側へ追い込みたいところだ……だから俺は肉体への負荷に目を瞑り、竜巻とレッド・モードを同時に使う事にした。

「最後までもってくれよ俺の体力……いくぞ! レッド・ステップ!」

 俺はモードレッドの照準を絞らせないようにジグザクにレッド・ステップを繰り出しながらモードレッドに近づいた。そんな俺の動きを見たモードレッドは再びアイス・バレットを放ってきたが、さっきと比べると明らかに氷塊の数が減っている……疲れているのかもしれない。

 俺は氷塊を数発被弾しながらも少しずつモードレッドに近づいていき、あと少しで手が届く距離まできたところでレッド・ステップの出力を強めた。モードレッドはここにきて俺が加速するとは思っていなかったようで反応が遅れている。

 今がチャンスだと判断した俺はモードレッドの脇の下に腕を回す形でタックルし、そのまま竜巻にぶつける勢いで押し続けた。一方、両脇に腕を回されて両手をあげた状態で押され続けているモードレッドは地面を踏みしめて抵抗しながら俺に真意を尋ねてきた。

「まるで子供みたいなタックルだな。そんな事をしてガラルドに何のメリットがある? とうとうやけになったか? これでは互いに腕を使えず攻撃が出来ないではないか」

「さあな、案外本当にヤケになっているのかもしれないぜ?」

「フッ、ガラルドの諦めの悪さは散々噂に聞いている。どうせ何か企んでいるのだろう? だが、いくら策を練り、私の腕の動きを封じようともガラルドの負けは揺るがない。腕を固定されても魔術自体は放てるからな」

 上擦った声で勝ちを宣言したモードレッドは自身の体に強い魔力を纏い始めた。抱きついた姿勢のまま押し続けている俺からは死角になってモードレッドの手先が見えないけれど、恐らく頭上に上がった手先から魔術が放たれようとしているのだろう。

 モードレッドが手先で魔力を練り始めてから数秒後、モードレッドは勝ち誇った声色で魔術を叫ぶ。

「さあ、ゼロ距離で私の魔術を受け、息絶えるがいい。喰らえっ! アイシクル・ソ――――うぐっ!」

 モードレッドは魔術を放つ直前に呻き声をあげた。何故モードレッドが今、この瞬間に呻き声をあげて動きを停止したのか、その理由を俺は知っている。

 俺は砂の竜巻を解除し、モードレッドから離れると奴は背中を抑えながら後ろを振り返り、答え合わせをするように呟いた。

「た、竜巻の外側から私の背中にレストーレを刺したのか……な、何故サーシャがレストーレを持っている! それに、姿は完全に消えていたはず……だ……ぞ……」

 後ろからの刺突の正体が分かったモードレッドは鬼の様な目でサーシャを睨みながらその場で膝を着いた。どうやらレストーレが効いているようで、奴の体を覆っていた紋章の光が少しずつ弱まっている……作戦成功だ。

 俺とサーシャが実行した作戦はサーシャの五番目の能力『リジェクション拒否』を使って、一旦モードレッドの視界から消え、その後にサーシャが後ろからレストーレを刺すというものだ。

 リジェクション拒否は透明になれるという強力な特性を持っているものの視覚・嗅覚・聴覚が遮断されて移動すらままならない使いどころの難しいスキルだ。だから頭の回転が悪い俺ではリジェクション拒否の使い方なんて到底思いつけはしなかったがサーシャは違った。

 サーシャの考えた作戦は3つのフェーズに分かれている。一つ目は俺が縦に長い竜巻を作り、サーシャをシンのいる位置へ逃がそうと企んでいるとモードレッドに思い込ませるフェーズだ。

 二つ目は一度モードレッドを上空に浮かせて平原を俯瞰で見下ろさせてから竜巻の周囲にサーシャはいないと思わせるフェーズである。

 三つ目は狭い竜巻の中でモードレッドに抱きつき位置を固定するというフェーズだ。ここが俺にとって一番難しいフェーズだった。

 俺の仕事は竜巻を維持しながらタックルで抱きついてモードレッドの位置を固定するだけではない。薄く線状に伸ばした魔砂マジックサンドでサーシャが進む方向へ引っ張る仕事もあったのだ。

 リジェクション拒否で視覚も聴覚もなくなっているサーシャにとってレストーレを確実に刺す為には正確な誘導が必要になるうえに、モードレッドに誘導がバレない様にしなければいけない。

 その為に役に立ったのが最初に発動した竜巻だ。竜巻は轟音をたてるうえに視界も悪くする効果がある。魔砂マジックサンドをこっそり浮かせてレストーレを刺す位置にサーシャを誘導するに至って補助の役割を果たしてくれたのだ。

 サーシャは地面に横たわるモードレッドを見下ろすと勝ちを宣言した。

「これでもうモードレッドさんは変化の霧による強化を失いました。大人しく拘束されてください」


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