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【第392話】力の上乗せ
しおりを挟む「さあ、戦いを楽しもうではないか、英雄ガラルド!」
国の存亡を賭けた戦いにもかかわらず、モードレッドは今までに見せた事が無い無邪気な笑顔で斬りかかってきた。俺はすぐさま両手で棍を構えてモードレッドの振り下ろしを受け止めたが、あまりの膂力に俺の足は地面にめり込み、振動で両手は痺れていた。
大陸会議で少しだけモードレッドの力に触れた時と同じ恐怖が俺の心を潰そうとしてくる。だが、あの頃と比べて俺は大きく成長を遂げたはずだ。
絶対に反撃を決めてみせる……そう心で念じた俺は押し合っている棍と剣の周りに魔砂を出現させ、武器同士を砂で八の字に絡ませて結束させた。そして、服の襟を掴んで投げる要領で絡まった棍と剣ごとモードレッドの体を豪快に振り回した。
「ぬっ! 砂を絡めたか!」
モードレッドは冷静に呟きながらも体を浮かせられて困惑しているようだ、この隙に武器ごとモードレッドを地面に叩きつけてやる。俺は体を斜め下に捩じって武器とモードレッドを地面に叩きつけようとした。
しかし、モードレッドは体を浮かせたまま驚異的な身体能力で体ごと強引に剣を回転させた。人間の肉体とは思えない旋回力は棍と剣を絡めていた砂を捩じりの力だけで強引に千切ってみせた。結果、俺が目論んでいた剣の強奪と投げ技は不発に終わってしまった。
俺達は互いに距離を取ると、モードレッドは再びシンの方を見つめ、笑いながら呟く。
「ふむふむ。シンの弟子、いや、部下と言えども戦い方はまるで違うようだな。シンは貴族の生まれではないものの、所作も戦い方も貴族以上に品のある男だった。だが、ガラルドの戦い方は野生児や荒くれ者を彷彿とさせる。にもかかわらず意外と合理的で読み辛い戦い方だ。ますます楽しくなってきたな」
「こっちは全く楽しくねぇよ、それどころかお前に腹が立ちっぱなしだ。俺は少しでも早くレックを救い出したいんだ、無駄口叩いてないでサッサと決着をつけさせてもらうぞ」
俺は単純なパワーでは負けてしまうと判断し、棍での防御捨てて、回避と手数重視の拳撃スタイルに切り替えた。モードレッドが俺の動き方に適応してしまう前に一気にダメージを与えてやる……俺は全身に二種の魔力と火のエネルギーを循環させる。
「速攻でいかせてもらうぜ! レッド・ラッシュ!」
俺はフェイントを織り交ぜた高速の拳撃をモードレッドに繰り出した。モードレッドは剣と手甲で防ごうとしているが、距離を詰めれば防御もやり辛くなるはずだ。俺はひたすら前進し、蹴りも加えた四つの打撃で圧力をかけ続けた。
「ぐっ……何て手数だ!」
モードレッドから初めて苦しむ声を聞いた気がする。ここはダメージを与える最大のチャンスだ。少しずつ防御が追い付かなくなってきたモードレッドは遂に腹部の守りを甘くする。俺は右拳に渾身の魔力を込めて正拳を放った。
「ここだ! レッド・インパクト!」
鎧越しに大ダメージを与えた感触が俺の拳に響き渡る。モードレッドは体をくの字にして体液を吐き出した。
「ぐはっ!」
モードレッドが後ろによろけた今がチャンスだ。俺は足裏に魔力を練りレッド・ステップを繰り出した。高速移動で勢いを乗せた俺の拳はモードレッドに更なるダメージを与える――――はずだった。
なんとモードレッドはよろけた状態のまま加速した俺の拳を片手で受け止めたのだ。瞬時に動きを見極め、防御の為に手を開いて出した事にも驚きだが、それ以上に驚いたのがモードレッドのパワーだ。
いくらモードレッドといえど整っていない体勢から片手で俺のレッド・ステップを止められるとは思えない。なにか奴の中で変化が起きているのでは? と考えた俺はすぐにバックステップで距離を取った。
俺はモードレッドの体を凝視すると、その変化に驚かされた。なんとモードレッドの両手にレックと同じ光る紋章が浮き出ているのだ。レックと違って紋章が光っている範囲は肘から指先までだが、それでも魔人よりも数段上の力強い魔力を纏っている。
驚いている俺を見てクスクスと笑いだしたモードレッドは御丁寧に紋章についての説明を始めた。
「私の手にある紋章に驚いているようだな。見ての通り私の肉体にはレックと同じ『変化の霧』が取り入れられている。とはいえ『変化の霧』を高密度で利用しているレックとは違い、私は自我を保てる程度の少量に抑えてあるがな」
「なんだ、結局モードレッドは恐くて少量しか使えないビビり野郎だったんだな。弟には自我を失う程に取り入れさせているっていうのによ」
「挑発しても無駄だぞガラルド。私が変化の霧を少量しか取り入れていないのは戦争で指揮を執り続ける為だ、自我を失えば指揮をとることが不可能になるからな。それに私の場合、少量でも問題ないからな」
「問題ないだと? どういう事だ?」
「レックよりもずっと上の基礎能力を持っているからだ。故に少しのパワーアップでガラルド達を葬れるということだ。それを今から証明してやろう」
カッと目を見開いたモードレッドは更に速くなった突進を俺に繰り出してきた。俺はレッド・モードを発動しているにもかかわらず、防御するのが精一杯だ。体を押された影響で俺の足裏は10メード以上ズルズルと後ろ側へ地面を削っている……恐ろしい推進力だ。
身体能力がワンランク上昇したモードレッドは剣と拳を交互に繰り出してきて、俺は拳撃で応戦したものの奴についていくのがやっとだ。俺が攻撃を一発当ててもモードレッドは二発当ててくる厳しい時間が続いている……。なんとか致命傷こそ避けられているが倒されるのも時間の問題だ。
「どうした? 英雄と名高いガラルドの力はこんなものか? これならすぐにお前を倒してレックに加勢できそうだなァ!」
=======あとがき=======
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