384 / 459
【第384話】5番目の能力
しおりを挟む魔人ソニアから情報を聞き出す事が出来た俺達はリヴァイアサンの上で休みつつ、ドライアドに到着するのを待っていた。次に戦うのはバイオルとミニオスになると思うがモードレッドがいる可能性もある、しっかりと準備をしておかなければ。
俺は旋回の剣とレストーレを背負い、頭の中で戦いをイメージして集中力を高めていた。すると、サーシャが俺の肩をつついて話しかけてきた。
「集中しているところごめんね、ガラルド君。死の山で酷使した身体はもうどこも痛みはない? 疲れは大丈夫?」
「ああ、全然大丈夫だ、心配してくれてありがとな。サーシャこそ皆にアクセラを使ってばかりだから体を休めたほうがいいんじゃないか?」
「ううん、平気だよ。むしろ緊張で体より心の方が参っちゃいそうだよ。このパーティーだとサーシャはどうしても力不足だし、もしかしたら忌み黒猫の拒絶の最後の能力も使わなきゃいけないかもしれないから……あの能力は使い慣れていないしちょっと怖いの」
忌み黒猫の拒絶には複数の能力がある。肉体の時間経過を早めて回復を促す『アクセラ』 対象に重力をかける『グラビティ』 重力とは逆の斥力で反発する『リパルシブ』 黒猫サクが受けた攻撃を吸収して解き放つ『リベンジ&リリース』 4つの能力に俺達パーティーメンバ―は何度も助けられた。
しかし、サーシャは出会った頃から忌み黒猫の拒絶には5つの能力があると言っていて、今までの戦いでは4つの力しか使っていない。それはサーシャの言う通り『リスキーで使いどころの難しい能力』だからだ。
俺とサーシャが話しているのを横で聞いていたシンが「サーシャ君の最後の能力はどんな能力なんだい?」と尋ねると、サーシャは渋い顔をしながら説明を始める。
「五つ目の能力の名前は『リジェクション』です。後天スキル名にも重なる第五の能力は視覚・嗅覚・聴覚が遮断される代わりにサーシャが透明になれる能力です。元々、後天スキル忌み黒猫の拒絶はサーシャが遠ざけたいと思う拒否の心とトラウマが原点となって発現したものですから……五つ目の能力のことはその……」
「分かっている、他言するつもりはないよ。言い辛い事を教えてくれてありがとう。それにしてもサーシャ君は本当に凄い子だな、普通の人間ならトラウマレベルの苦痛を味わったら中々前には進めないものだ、それなのに君は小さい頃から逞しく生き続けて、痛みを伴う過去すら武器に変えている。心から尊敬するよ」
シンの言う通りで本当にサーシャは心が強い子だ。苦痛やコンプレックスを燃料に後天スキルを発現する人間はサーシャ以外にも時々現れるけれど、ここまで数多くの能力・希少性・強さを持った人間はサーシャぐらいだろう。俺なんて自分由来の能力なんて一つもないというのに。
単純な戦闘力で言えば体が丈夫で遺伝的要因もある俺やグラッジの方が強いけれど、個人の精神力や創意工夫はやっぱりサーシャが凄いと思う。
シンから褒められて顔を赤くしたサーシャは話を5個目の能力に戻して戦いの打ち合わせを始めた。
「人間であるバイオルとミニオスとモードレッドが戦争で勝つ為に『変化の霧』や『吸収の霧』で自身を強化してくる可能性は充分にあるから、彼らと戦う時はきっとレストーレでの強化状態解除が勝利の鍵を握ると思うの。だからサーシャの透明化を使って優位に戦いを進めたいのだけど……」
そう言ってサーシャは俺に作戦を耳打ちしてきた。作戦の内容を小声で話したのはソニアに内容を聞かれない為だろう。サーシャが伝えてくれた作戦は中々過激なものだったが俺達ならきっと成功させられるはずだ。
迫りくる戦いの時に胸の鼓動が早くなるのを感じていると、リヴァイアサンの移動が止まった。どうやらドライアド近くの海に到着したようだ。
俺はソニアに巻き付けた縄をパープルズに任せると出発の掛け声をあげた。
「遂にドライアドへ到着……つまりバイオル達のいる帝国と戦う時がきた。この戦いもアスタロト戦と同じく人類の未来を左右する戦いだ。何があっても勝って生き残るぞ!」
――――オオォォォ!――――
海中の泡の中で全員が一際大きな声をあげた。リヴァイアサンは俺達を覆っている泡をゆっくりと海面へ浮上させると白鯨モーデックが俺達を乗せて一気に海岸へと飛んでいった。
砂浜へ上陸した俺達はすぐにモーデックを消失させ、自分達の足で北にあるドライアド周辺の平原へと走った。砂浜から北上すること十分、俺達の視線の先には列になって歩く大量の魔獣の姿があった
魔獣達はまるでよく躾けられた犬の様に統率の取れた移動でドライアドのある西側へ移動している。俺達のいる位置からでも後5分ほど走ればドライアドに着くはずだ、このまま魔獣に見つからないように隠れながら進み、バイオル達と接触する事にしよう。
少しずつ大きくなってくる鼓動に戸惑いつつも西への移動を続けた俺達は魔獣に見つかることなく、ドライアドのすぐ南にある平原へと辿り着いた。そこには他のエリアより多くの魔獣と帝国兵が待機している集まりがあった。
本当に人間が魔獣を使役しているんだな……と恐怖と関心が入り混じる感情で見つめていると、集合する魔獣と帝国兵の中から一際派手な金色の鎧を着た男が姿を現わした。
その男はレックに似た顔をしていて、レックより少し丸みのある目元と銀色の短髪が特徴的な端正な顔立ちをしている、確か新聞で少しだけ顔を見た事がある、あれがバイオル殿下……つまりモードレッド達4兄弟の次男だ。
あの男を倒す事が出来ればミストルティンの一端が止まり、魔獣群の勢いを減少させられる筈だ。後は三男であるミニオス殿下を見つける事が出来れば戦争は勝利へ一気に近づくはずだ。
確かミニオスは次男のバイオルとは逆で長い赤髪と鋭い糸目が特徴の男だった筈だ。そう考えると四兄弟は似ている部分こそあれど、髪色は全員バラバラということになるみたいだ。
モードレッドとアーサーは黒髪でレックは金髪だから、前皇帝アーサーの好色による影響で全員母親が違う可能性も考えられそうだ。
いや、今はそんな余計な事を考えるよりミニオスを見つける事が先だ。俺は意識を集団に戻して監視を続けていると、グラッジが驚きの声をあげて指を差した。
「ガラルドさん! 帝国兵の集団から銀色の鎧の男が出てきました、あれはミニオスですよね? そのまま東側へ飛び出してしまいましたよ!」
グラッジに言われて目線を向けると確かに三男ミニオスと思わしき派手な鎧の男が馬に乗って走り出してしまった。それと同時に次男のバイオルは逆方向の西へ移動を始めてしまった。
どうやら奴らは一度話し合いをする為にドライアドの近くへ集合したものの、すぐに次の行動に移ったみたいだ。奴らがこの後どんな行動に出るのかは分からないが、このまま逃げられて見失うわけにはいかない、ここは分かれて行動する事にしよう。
「バイオルとミニオスが離れすぎてしまう前に二手に分かれて追うぞ! メンバー分けは……」
早く人選をしなければと頭を回転させていると、俺より早くシンが提案をはじめた。
「リリス君、俺の護衛の事はいいからガラルド君と一緒に西側のバイオルを追ってくれ。俺はグラッジ君とサーシャ君をモーデックに乗せて東側のミニオスを追う。理由としては瞬間的な機動力を持つリリス君とモーデックによる持続的な機動力を持つ俺が固まるのは良くないと判断したからだ。パープルズはフレイム君とアクア君がガラルド班へ、ブレイズ君とレイン君はグラッジ班についていってくれ」
シンはもう完全に一人の戦士として戦うつもりのようだ。国王である自分も戦わなければ勝てないぐらいギリギリの戦いになると言っていたシンの言葉に重みが増してきた。
俺達はすぐさま二手に分かれ、東西に散ったバイオルとミニオスを追いかけた。
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
==================
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
旅の道連れ、さようなら【短編】
キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。
いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。
『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~
川嶋マサヒロ
ファンタジー
ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。
かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。
それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。
現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。
引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。
あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。
そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。
イラストは
ジュエルセイバーFREE 様です。
URL:http://www.jewel-s.jp/
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる
とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。
そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。
絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。
そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる