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【第384話】5番目の能力
しおりを挟む魔人ソニアから情報を聞き出す事が出来た俺達はリヴァイアサンの上で休みつつ、ドライアドに到着するのを待っていた。次に戦うのはバイオルとミニオスになると思うがモードレッドがいる可能性もある、しっかりと準備をしておかなければ。
俺は旋回の剣とレストーレを背負い、頭の中で戦いをイメージして集中力を高めていた。すると、サーシャが俺の肩をつついて話しかけてきた。
「集中しているところごめんね、ガラルド君。死の山で酷使した身体はもうどこも痛みはない? 疲れは大丈夫?」
「ああ、全然大丈夫だ、心配してくれてありがとな。サーシャこそ皆にアクセラを使ってばかりだから体を休めたほうがいいんじゃないか?」
「ううん、平気だよ。むしろ緊張で体より心の方が参っちゃいそうだよ。このパーティーだとサーシャはどうしても力不足だし、もしかしたら忌み黒猫の拒絶の最後の能力も使わなきゃいけないかもしれないから……あの能力は使い慣れていないしちょっと怖いの」
忌み黒猫の拒絶には複数の能力がある。肉体の時間経過を早めて回復を促す『アクセラ』 対象に重力をかける『グラビティ』 重力とは逆の斥力で反発する『リパルシブ』 黒猫サクが受けた攻撃を吸収して解き放つ『リベンジ&リリース』 4つの能力に俺達パーティーメンバ―は何度も助けられた。
しかし、サーシャは出会った頃から忌み黒猫の拒絶には5つの能力があると言っていて、今までの戦いでは4つの力しか使っていない。それはサーシャの言う通り『リスキーで使いどころの難しい能力』だからだ。
俺とサーシャが話しているのを横で聞いていたシンが「サーシャ君の最後の能力はどんな能力なんだい?」と尋ねると、サーシャは渋い顔をしながら説明を始める。
「五つ目の能力の名前は『リジェクション』です。後天スキル名にも重なる第五の能力は視覚・嗅覚・聴覚が遮断される代わりにサーシャが透明になれる能力です。元々、後天スキル忌み黒猫の拒絶はサーシャが遠ざけたいと思う拒否の心とトラウマが原点となって発現したものですから……五つ目の能力のことはその……」
「分かっている、他言するつもりはないよ。言い辛い事を教えてくれてありがとう。それにしてもサーシャ君は本当に凄い子だな、普通の人間ならトラウマレベルの苦痛を味わったら中々前には進めないものだ、それなのに君は小さい頃から逞しく生き続けて、痛みを伴う過去すら武器に変えている。心から尊敬するよ」
シンの言う通りで本当にサーシャは心が強い子だ。苦痛やコンプレックスを燃料に後天スキルを発現する人間はサーシャ以外にも時々現れるけれど、ここまで数多くの能力・希少性・強さを持った人間はサーシャぐらいだろう。俺なんて自分由来の能力なんて一つもないというのに。
単純な戦闘力で言えば体が丈夫で遺伝的要因もある俺やグラッジの方が強いけれど、個人の精神力や創意工夫はやっぱりサーシャが凄いと思う。
シンから褒められて顔を赤くしたサーシャは話を5個目の能力に戻して戦いの打ち合わせを始めた。
「人間であるバイオルとミニオスとモードレッドが戦争で勝つ為に『変化の霧』や『吸収の霧』で自身を強化してくる可能性は充分にあるから、彼らと戦う時はきっとレストーレでの強化状態解除が勝利の鍵を握ると思うの。だからサーシャの透明化を使って優位に戦いを進めたいのだけど……」
そう言ってサーシャは俺に作戦を耳打ちしてきた。作戦の内容を小声で話したのはソニアに内容を聞かれない為だろう。サーシャが伝えてくれた作戦は中々過激なものだったが俺達ならきっと成功させられるはずだ。
迫りくる戦いの時に胸の鼓動が早くなるのを感じていると、リヴァイアサンの移動が止まった。どうやらドライアド近くの海に到着したようだ。
俺はソニアに巻き付けた縄をパープルズに任せると出発の掛け声をあげた。
「遂にドライアドへ到着……つまりバイオル達のいる帝国と戦う時がきた。この戦いもアスタロト戦と同じく人類の未来を左右する戦いだ。何があっても勝って生き残るぞ!」
――――オオォォォ!――――
海中の泡の中で全員が一際大きな声をあげた。リヴァイアサンは俺達を覆っている泡をゆっくりと海面へ浮上させると白鯨モーデックが俺達を乗せて一気に海岸へと飛んでいった。
砂浜へ上陸した俺達はすぐにモーデックを消失させ、自分達の足で北にあるドライアド周辺の平原へと走った。砂浜から北上すること十分、俺達の視線の先には列になって歩く大量の魔獣の姿があった
魔獣達はまるでよく躾けられた犬の様に統率の取れた移動でドライアドのある西側へ移動している。俺達のいる位置からでも後5分ほど走ればドライアドに着くはずだ、このまま魔獣に見つからないように隠れながら進み、バイオル達と接触する事にしよう。
少しずつ大きくなってくる鼓動に戸惑いつつも西への移動を続けた俺達は魔獣に見つかることなく、ドライアドのすぐ南にある平原へと辿り着いた。そこには他のエリアより多くの魔獣と帝国兵が待機している集まりがあった。
本当に人間が魔獣を使役しているんだな……と恐怖と関心が入り混じる感情で見つめていると、集合する魔獣と帝国兵の中から一際派手な金色の鎧を着た男が姿を現わした。
その男はレックに似た顔をしていて、レックより少し丸みのある目元と銀色の短髪が特徴的な端正な顔立ちをしている、確か新聞で少しだけ顔を見た事がある、あれがバイオル殿下……つまりモードレッド達4兄弟の次男だ。
あの男を倒す事が出来ればミストルティンの一端が止まり、魔獣群の勢いを減少させられる筈だ。後は三男であるミニオス殿下を見つける事が出来れば戦争は勝利へ一気に近づくはずだ。
確かミニオスは次男のバイオルとは逆で長い赤髪と鋭い糸目が特徴の男だった筈だ。そう考えると四兄弟は似ている部分こそあれど、髪色は全員バラバラということになるみたいだ。
モードレッドとアーサーは黒髪でレックは金髪だから、前皇帝アーサーの好色による影響で全員母親が違う可能性も考えられそうだ。
いや、今はそんな余計な事を考えるよりミニオスを見つける事が先だ。俺は意識を集団に戻して監視を続けていると、グラッジが驚きの声をあげて指を差した。
「ガラルドさん! 帝国兵の集団から銀色の鎧の男が出てきました、あれはミニオスですよね? そのまま東側へ飛び出してしまいましたよ!」
グラッジに言われて目線を向けると確かに三男ミニオスと思わしき派手な鎧の男が馬に乗って走り出してしまった。それと同時に次男のバイオルは逆方向の西へ移動を始めてしまった。
どうやら奴らは一度話し合いをする為にドライアドの近くへ集合したものの、すぐに次の行動に移ったみたいだ。奴らがこの後どんな行動に出るのかは分からないが、このまま逃げられて見失うわけにはいかない、ここは分かれて行動する事にしよう。
「バイオルとミニオスが離れすぎてしまう前に二手に分かれて追うぞ! メンバー分けは……」
早く人選をしなければと頭を回転させていると、俺より早くシンが提案をはじめた。
「リリス君、俺の護衛の事はいいからガラルド君と一緒に西側のバイオルを追ってくれ。俺はグラッジ君とサーシャ君をモーデックに乗せて東側のミニオスを追う。理由としては瞬間的な機動力を持つリリス君とモーデックによる持続的な機動力を持つ俺が固まるのは良くないと判断したからだ。パープルズはフレイム君とアクア君がガラルド班へ、ブレイズ君とレイン君はグラッジ班についていってくれ」
シンはもう完全に一人の戦士として戦うつもりのようだ。国王である自分も戦わなければ勝てないぐらいギリギリの戦いになると言っていたシンの言葉に重みが増してきた。
俺達はすぐさま二手に分かれ、東西に散ったバイオルとミニオスを追いかけた。
=======あとがき=======
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