382 / 459
【第382話】敬意なき魔人
しおりを挟む「はじめましてぇ、シン国王、そして英雄ガラルド。アタシの名前はソニア。アスタロト様、クローズ様の次に偉くなる予定の魔人よぉ。悪いけど貴方達にはここで死んでもらうわねぇ」
ねっとりとした喋りで耳が疲れるタイプだが、これでも一応魔人のようだ。ザキールの言っていたソニアがコイツだ、名前的に女性かと思っていたがどうやら男のようだ。いや、そもそも魔人の性別はどんなふうになっているのだろうか?
いや……今はそんなどうでもいい事を考えている暇はない。ソニアがシンバードにいた理由やアスタロト陣営の事を探れるだけ探っておくことにしよう。俺は早速ソニアへ尋ねる。
「お前が死の山から飛び立ってアスタロトと帝国に情報を運んだという魔人ソニアか。お前の仕事は死の山の大戦が始まったことを伝えるだけじゃなかったのか?」
「アタシがそんな簡単な仕事だけしかやらない訳ないでしょ。移動を終えてアスタロト様とモードレッドに情報を伝えた後はアタシもシン国王を探していたわ。でも中々見つからなくて焦っていたんだけどぉ、まさかそっちから現れてくれるなんてね、おかげで手間が省けたわ」
「なるほどな、移動に索敵に大忙しだったわけか、働き者だな。ソニアもブロネイル、ダンザルグ、ザキールと同じようにアスタロトに認められて出世したいと考えているのか?」
俺が問いかけるとソニアはわざとらしく大きな溜息を吐いた。そして、鼻につく儚げな表情で髪をかき上げると、自分の理想を語り始める。
「もちろんアスタロト様に認めてもらいたいという気持ちはあるわ。でも野蛮な三魔人とアタシを一緒にしないでくれるかしら。アタシはダンザルグみたいな忠義バカの武人ではないし、ザキールやブロネイルみたいに短絡的でもないの。アタシは生き方も容姿も戦い方も全てが誰よりも美しいわ。だからアタシの美しさを大陸全土に知らしめるのがアタシの夢なの」
「う、美しさぁ? 何だか今までの魔人と違ってよく分からない奴だな」
「フフフ、貴方みたいなゴツゴツしたデカい男にはアタシの事なんて理解できるはずがないわ。アタシは人類がどうとか、魔人が最強とか、そんなことはどうでもいいわ。アタシはただ魔人の中で一番活躍してアスタロト様に認めてもらった後に『合成の霧』で永遠の美と若さを提供してもらいたいだけなのぉ。その目的の為に貴方達には死んでもらうわ」
そう呟くとソニアはモーデックの背に降り立ち、両手の爪をこちらへ向けてきた。どうやら本当に一人でシンを殺せるつもりのようだ。
向こうの出方を伺うべきか、こちらが先に仕掛けるべきか、俺達と敵の間に数秒の沈黙が流れると、グラッジが突然俺の肩に手を当てて「戦いの前にソニアに聞きたいことがあります、少し時間をください」と言い、戦いの中断を申し出た。
「僕からもう一つ質問させてくれ魔人ソニア。君が語った『夢』とやらは全て自分の利益ばかりが目に付いたが、仲間の為とかアスタロトへの忠義とかそういう気持ちは全然ないのか?」
「……敵なのに変な事を聞いてくるのね。そんな気持ちある訳ないじゃない。まぁアスタロト様は美しさを兼ね備えた強者だから尊敬する部分はあるけど、その程度の気持ちだわ。他の三魔人なんて今頃どうなってても全然気にならないもの」
「ザキールとブロネイルは今、人類側で拘束しているし、ダンザルグは忠誠心を燃やして自害してしまったよ。この事実を聞いても本当に何も思わないのか?」
「しつこいわね貴方。何度言われようと気持ちは変わらないわよ、アタシが大好きなのはアタシだけだもの」
「……そうか、分かった、もういいよ。お前には微塵も尊敬できるところはないし、迷いなく倒せそうだ」
グラッジは小さく低い声で呟くと、再び俺に耳打ちしてきた。その内容は『僕達の連携技を使って一発で勝負を決めましょう』というものだった。
俺達は戦争前の準備期間にそこそこ程度連携をとる練習をしてきたから連携技を出すこと自体は問題ない。ただ、耳打ちをしてきたグラッジが相当キレている感じだったから、グラッジの動きに遅れないよう注意しなければ。
俺とグラッジは早速両足に魔力を集中させた。
「レッド・ステップ!」
「千色千針! 三色一閃!」
互いが超高速移動から勢いを乗せた拳で空気を切った。ソニアは目で追うのがやっとだったらしく「えっ?」と呟く事しか出来なかった。俺とグラッジは左右からソニアの横腹に拳撃を喰らわせ、同時に叫んだ。
「「クロス・ブロウ!」」
二つの拳がソニアの腹を挟み込み、岩と岩がぶつかり合ったような衝撃音と共にソニアが断末魔をあげる。
「ぎぃやああぁぁっっ!」
ソニアは断末魔と同時に白目を剥くと、両膝を着き、口から血の泡を吹きながらどさりと倒れた。グラッジは仲間を蔑ろにしたり、私利私欲だけで動く奴が大嫌いだから怒らせるとこうなるんだぞ! と説教してやりたかったがソニアは気を失っているから無理そうだ。
まさか相手が一人だけとはいえ魔人との戦いが一瞬で終わるとは思わなかった。それに連携技がこんなにもピッタリ決まるとも思っていなかった。
クロス・ブロウは以前俺とレックがモードレッドと模擬試合をした時に咄嗟に放った連携技を元に作り出した技だから、グラッジとも上手く連携がとれて正直凄く嬉しい。確実にチームとしても強くなっているのを感じる。
俺達は下方に見える街からソニアの敗戦を見上げている敵軍たちを尻目にモーデックに乗って南の海へと逃げていった。これで無事シンの体を張った陽動は成功したわけだ。
余裕の勝利に加えて、新技と陽動も大成功と文句なしの成果だ。後はソニアから情報を聞き出せればいいのだが。気を失ったままソニアを乗せたモーデックは何事もなく海へと潜り、そのままリヴァイアサンの泡に包まれて沈んでいった。
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
==================
0
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる