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【第376話】国の中心

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「た、大変です! シンバード西門と西エリアが燃えています!」

 グラッジの口から衝撃の事実が飛び出した。帝国は既にシンバードに直接攻撃できる位置まで来ていたのだ。このままでは宮殿にいるシンとリリスがやられてしまうのも時間の問題だ。俺は指示を出して船を全速力で南港へと走らせ、陸地に足をつけた。

 シンバード南港に着いてからは街中から人々のざわめきが聞こえてくる、街全体がパニックになっているのかもしれない。俺は一足先に港から街中に入り、駆けまわっている若い男のシンバード兵を掴まえて話を聞く事にした。

「待ってくれ、そこの兵士! 俺達はシンバード南港から上陸したばかりなんだが、街は今どうなっているんだ?」

「え? ガラルド様! どうしてここに? 死の山へ行ったはずでは? いや、今は詮索より情報伝達が優先ですね。実は大量の魔獣と少数の帝国人と思われる者がシンバードの西側から攻め込んできたのです!」

 魔獣ということはアスタロトがモードレッドに提供した魔獣で間違いなさそうだ、ということは近くに魔人がいるかもしれない。得られる情報は全て教えてもらっておこう。

「魔獣群が一斉に来たということは魔人が近くにいるという事か?」

「いえ、まだ存在は確認しておりません……仮に今日が魔日まじつだとしても魔獣の数が多過ぎると考えた私達はガラルド様と同じく魔人の存在を探しましたが、全く見当たりませんでした。それどころか魔獣の体からは死の扇動クーレオンを発動する為に必要な刻印すら見つかりませんでした。ですが魔獣の動きはまるで死の扇動クーレオンで操られているかのように統一され過ぎているのです……正直訳が分かりません……」

「ってことは魔人の力を使わずとも魔獣を操る方法があるって事なのか……いや、今は答えを見つけるには材料が少な過ぎるし後回しだ。それじゃあ次はシン達の居場所を教えてくれ」

「シン国王は襲撃を受けてすぐにシンバード東門から街を出て、そのまま東の同盟国に向かいました。理由は自身を保護してもらう為でもありますが、リリス様の力で他国へ素早く情報を伝達する狙いもあるようです」

「そうか、ならストレング達もシンを護衛しているのか?」

「いえ、アイ・テレポートの性質上人数が増えるのは良くないと考えたようで四聖は街で魔獣を退けるよう指示を受けたようです。ちょうど、ストレング様は宮殿の方で防備を固めていますのでお話を伺ってみては如何でしょうか?」

「分かった、色々教えてくれてありがとう」

 俺は兵士との会話を終わらせると、後から駆けてきたサーシャ達に事情を伝えつつ宮殿へと向かった。走っている間も戦争で傷ついた兵士達がいたるところで治療を受けており、民衆たちが不安そうな顔で避難ポイントへ走っている姿を幾度となく見かけた。

 心苦しい思いを抱えながら走り続け、宮殿の前に着くと俺は早速ストレングの姿を発見した。ストレングは戦力の中心、そして為政者として街の中心から各エリアへ指示を出しているようだ。

 俺は一直線にストレングの元へ駆け寄り声を掛けた。

「ストレングさん! 無事だったんだな!」

「ガ、ガラルド! どうしてここに?」

「死の山で色々あってな、実は――――」

 それから俺は『モードレッドとアスタロトが組んでいること』『シンバード兵から聞いた話』など伝えられることをかいつまんで話した。俺の話を聞き終えたストレングはより詳細にこれまでの事を話してくれた。

「なるほど、ガラルド達も大変だったようだな。俺達は見ての通り攻めこんできた魔獣群に手こずっている。だが、魔獣以上に厄介な奴らがいてな。それがシンバード兵の言っていた『少数の帝国人』ってやつだ」

「もしかして、その『少数の帝国人』ってやつが魔獣を操っているのか?」

「いや、それはどうか分からない。だが、奴らは百名にも満たない人数ながら一人一人がかなりの強さを持っていてな。表立って襲撃してきた魔獣でシンバード兵達の意識を向けているうちに少数精鋭でシンを直接殺しにきたんだ、まるでアサシン暗殺者の如く静かにはやくな」

「シンさえ殺せば同盟陣営がガタガタになるからだろうな。もしかしたら、そのアサシンは帝国が『変化の霧』で鍛え上げた精鋭かもしれないな……。それでシンは怪我をせずに逃げ切れたのか?」

「ああ、街を出るところまでは四聖である俺やリーメイが守り切ったから心配はない。ただ、街を出た後はシンとリリスの二人しかいないからアサシンに襲われている可能性もある。それに東の国々と合流出来たところで敵の規模と個々の強さから考えるにシンが安全だとは言い切れない」

 俺達の置かれている状況は最悪だ。シンバードもシンも両方が危険な状態で逆転の兆しも見つかっていない。

 シンとリリスを追いかけた方がいいのだろうか? それともストレング達と共に魔獣群を相手した方がいいのだろうか? それとも第三の選択があるのだろうか?

 この判断で同盟陣営の未来が決まってしまう可能性すらあると考えると嫌な汗が噴き出て止まらない。どんな選択をしても最悪の未来が待っているような気がしてネガティブな感情に支配されそうになっていると突然俺の背中に強烈な衝撃と破裂音が響き渡った。

 その衝撃と音の正体はストレングが俺の背を叩いたものだった。ストレングは今までに見せた事がない険しい顔を見せると、低い声で怒鳴りはじめる。

「しっかりしろガラルド! シンのいない今、お前が国の中心なんだぞ? 強がりでもいいからお前がどっしりと構えてなきゃいけないんだ!」

 ストレングの言う通りだ、トップが不安な顔を見せたら他の者まで不安になってしまうものだ。例えトップである俺の心が重圧で潰れそうでも強がって大丈夫だと自信ありげにしていれば、皆の心が軽くなり、最高のパフォーマンスを発揮できるはずだ。

 俺は物理的な強さこそ身に付いたものの、心ではまだまだストレングやシンに追いつけていなかったようだ。だが、弱い自分とはここでおさらばだ。ここからは戦いが終わるまで不屈の闘志を貫いてやる。

 迷いの無くなった俺は自分なりに次に取るべき行動を考えて皆へ伝えた。

「ありがとう、ストレングさん。もう俺は心を揺らがせはしないよ。だから、ここからはシンとシンバードを守るために俺の考えた案を実行してくれ。その案はひとまずシンバードをストレングさん達に任せて、俺達はシンを追いかけるというものだ。シンと合流できるのは東の同盟国に着いてからか、それとも道中なのかは分からない。だけど合流さえ出来ればシンを守り切れるはずだ」

 俺が言い切るとストレングは薄く笑みを浮かべて親指を立てて作戦に乗ってくれた。一方でサーシャは俺の作戦で大丈夫なのか不安だったらしく俺に尋ねてきた。

「ガラルド君は『シンさんを守り切れるはずだ』って言い切っているけど、どうして大丈夫だと言い切れるの?」

「シンはシンバードから離れて東方向に行ってしまったけど、それでも比較的海に近いエリアを移動しているはずだし、同盟国に合流してもその事実は変わらない。つまり、シンと合流して護衛しながら海岸にさえ辿り着けばリヴァイアサンに乗り込み、海中を移動してシンを逃すことが出来るはずだ」

「確かにリヴァイアサンに乗り込むことさえ出来ればシンさんを守れるかも……だけど、魔獣群が迫っている今、大きな戦力となるガラルド君やグラッジ君がシンバードを離れても大丈夫なのかな?」

「その点はもう四聖を信じて頑張ってもらうしかないさ。それに最悪シンバードが魔獣群の圧力に耐えられなくなった時は街を捨てて散らばって逃げればいい。とにかく今は民衆とシンの両方の命を守る選択をとろう」

「で、でもシンバードが魔獣群や帝国に制圧されちゃったら……」

「シンバードの街は大切だけど、それ以上に大切なのは人の命だ。シン達が十年以上かけて築き上げてきたシンバードが帝国に占領されたら悔しいどころの話じゃないが、シンと民衆の命さえあればシンバードは復活できる。国っていうのは命と絆と意思の三つがあれば大丈夫なものさ。そうだろ? ストレングさん」

 俺が声を掛けるとストレングは「お前の決断はシンバードの決断だ、思うがままに進め」と言い残し、自分の仕事へ戻っていった。サーシャ達も不安げではあるものの一応納得してくれたようだ。

 慌ただしい状況ではあるが俺達の方針は定まった。後は全力でシンとリリスを追いかけるだけだ。俺達は早速東門から街を出るべく動く事にした。するとソル兵士長が「待ってほしい」と言って止めてきた。

「ガラルド殿、拘束して連れてきているザキールをどうするかが決まっていませんぞ。このままガラルド殿と共に連れて行っても弱らせて拘束している以上、移動面で遅れが出ることは間違いないでしょう」

「しまった、すっかり忘れてたぜ。このままシンバードでストレングさん達に預かってもらっても帝国やアスタロトに奪われるかもしれないな。かと言って連れて行く訳にもいかないし……」

「ここはザキールを私に預からせてはくれませんか? 幸い魔獣群は西側からのみ攻めてきています。ですので一度南側の海へ移動し、膨らむように西側へ行ってドライアドから比較的近い海岸に船を止めてからドライアドへ預けようと思うのです。ザキールを人質のカードとして使うことはできなくなりますが、敵軍に奪われて戦力を増大させてしまう事態になるよりはいいでしょう」

 最悪の事態を回避するという意味ではソル兵士長の案がベストかもしれない。ドライアドがシンバードの西にある以上、確実に安全とは言い切れないがシンバードよりは安全なはずだ、ソル兵士長の案に従うとしよう。

「分かった。ザキールの事をよろしく頼むぞソル兵士長。それじゃあ3つのグループに分けて行動するぞ。俺とグラッジとサーシャとパープルズは急いでシン達を追いかけよう。ルドルフ、トーマスさんはソル兵士長を手伝ってくれ。死の山からついてきてくれた他の兵士達はソル兵士長達の護衛とシンバードの防衛と分かれて守り、10人だけ俺のグループについてきてくれ」

 全員が次に取るべき行動が決まったところで俺、サーシャ、グラッジ、そして死の山からついてきてくれた兵士達は東門近くの厩舎きゅうしゃで馬を借り、シン達に追いつくべく東の平原を駆けだした。




=======あとがき=======

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