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【第365話】アジト侵入

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「これは……厄介な溶岩洞窟ようがんどうくつですな……」

 ソル兵士長が渋い顔で呟くと、グラッジが初めて聞く言葉について尋ねた。

溶岩洞窟ようがんどうくつって何ですか? 眼下にはマグマの川と池と滝があって、岩場が広がっていますが、こういった条件が揃っている場所の事を指すんですか?」

「そうですね、現在進行形でマグマがある空間も該当しますし、マグマによって削られて今はマグマが無い洞窟も溶岩洞窟ようがんどうくつという場合があるらしいです。もっとも私は文献でしか見た事が無いので詳しくはないのですがね。確かモンストル大陸では活動中の火山がまだ三つしか発見されていないらしいので」

 確かに俺も火山の存在は三つしか聞いたことが無い。死の山を除けば、大陸北側の中部にある火山、そして同じく大陸南側の中部にある火山だったはずだ。

 高さ100メード幅200メード程の空間が南北にずっと続いており、マグマとマグマの光に照らされて反射する岩場が視界を赤一色に染めていて、とても綺麗だ。時間が無い事と暑ささえどうにかなればゆっくりと探検したいところだ。

 グラッジはソル兵士長の話を聞くと「なるほど、僕は海底火山しか見た事が無いので新鮮ですね」と呟いていた。この言葉を聞いた時、俺は『グラッジとの旅で海底火山を見た記憶はないぞ?』と疑問が湧いてきたから尋ねる事にした。

「ん? グラッジはいつの間に海底火山なんて見たんだ? 確か海底集落アケノスを案内された時に現地の者が海底火山の存在を教えてくれたような気もするが……」

「……あっ! いえ、何でもないです! それよりほら、皆さん! 向こうにマグマ滝がありますよ! もしかしたら過去視で見たクローズのアジトが隠れているかもしれません。暑さにやられちゃう前に行きましょう!」

 何だか強引に話を切られた気がする。もしかして海底集落アケノスで夜にゴソゴソしていた時にサーシャと二人で海底火山に出かけたのだろうか? だとしたらデートの事を突いてしまった事になる……すまないグラッジ……。

 俺は若干の自己嫌悪に陥りながら魔砂マジックサンドの足場を下降させ、地下空間の地面に降り立った。マグマが近くなり、余計に暑くなってきて苦しい……急いでアジトを見つけ出さなければ。

 俺達は過去視を体験した者が中心となって探索を続けた。結局、さっきグラッジが言った通りマグマ滝の裏側を探すのが良さそうだという結論に至り、俺達はマグマ滝の落下が始まる地点まで駆け上がり、マグマに触れないように慎重に滝の裏側へと回った。

 すると、そこには過去視で何度も見たアジトの入口扉が設置されていた。アジトの中で有益な物を見つける保証も敵に会える保証もないが、ここがアジトだった場所であることは間違いない。

「よし、ここからは慎重に行こう。まずは俺が扉を開けるぞ」

 俺は代表してアジト入口の扉を開けた。すると、溶岩洞窟とは打って変わって中はかなり涼しい空間となっていた。間違いない、ここに誰かがいるはずだ。とりあえず俺、グラッジ、サーシャ、ソル兵士長、他兵士5名の計9人で中を探索することになり、俺達は慎重に歩を進めた。

 中は過去視で見た通り、一本の長い廊下から枝分かれするように色々な部屋があり、シルフィが生きていた時代からほとんど変わっていないようだ。

 扉が開きっぱなしの部屋にはナフシ液に浸かった過去のクローズの転生体の姿も目に入った。過去視で見かけたものはそれだけではなくペッコ村の村長がディザールにあげた浄魔じょうまのネックレスも置かれている。

 どうやら随分と不用心なようだ、アジトに入られた時点で全て見られてしまうだろうと諦めているのだろうか?

 何だか空き巣みたいで気分はよくないが、アジトにある物は本や資料系を中心に何かしら戦争や戦争後に役立つものがあるかもしれない……兵士達に任せて色々と持ち出してもらう事にしよう。

 それと、戦争の有利不利には関係ないが浄魔じょうまのネックレスは持ち出しておくことにしよう。人類側がアスタロトを殺したその時は墓に備えてやりたいからだ。仮に俺達が負けたとしてもその時はアスタロトが俺の遺体から抜き取るはずだ……あまり考えたくはないが……。

 ここから俺達はまず、部屋の中を集中して調べるべきだろうか? それとも誰かいないか探すべきだろうか? どちらにすべきか話し合っていると、一番奥の部屋から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「いるんだろガラルド? 俺様は一番奥の部屋で待っている。早くこっちへ来い。全てを話してやる」

 この声はザキールだ。奴にしては落ち着いた声色というか、ぎらついていない喋りというか、何だか違和感を覚える。俺達は罠を警戒しつつ、ザキールに従いゆっくりと一番奥の部屋の扉を開けた。

 すると、大きな部屋の奥の椅子に腰かけたザキールが灯りすらつけていない薄暗い空間で苦笑いを浮かべながら俺を見つめていた。ザキールの様子も気になるが、他の魔人やアスタロト達がいないのも気になるところだ、俺はザキールへ問いかけた。

「どうしたザキール? 随分と元気がないじゃないか。他の仲間達はどうしたんだ? それに侵入してきた俺達に対して反応が薄いのも気になるな。このままだと俺達は何かを盗んで逃げていくかもしれないぜ?」

「最初から質問の多い奴だな。ここには俺様しかいねぇよ。それにこのアジトにはもう盗まれて困るような物はない。いや、正確に言えば貴様らにとって盗む価値のある物がないと言うべきか」

「そうか、それは残念だ。ところで話は変わるが今の戦況を話させてくれ。昨日、俺達はザキールの仲間であるブロネイルから色々と情報を聞かせてもらった。アスタロトを除き、魔人が四人いることや、ザキールが幻影魔術を施して地下空間に魔獣を溜めていることなど、詳細に教えてもらったぜ」

「フンッ、やっぱりブロネイルは吐いちまったか。屑のあいつに相応しい最期だな、いや、俺様も人の事は言えねぇか……ハァ……」

 さっきからザキールの腑抜けた態度は何なのだろうか? 気張られても困るが、腑抜けられてらそれはそれで何故かイライラする。それは俺がザキールの事を強敵であり、兄弟であると認識しているからかもしれない。

 気が付けば俺はザキールの肩を掴み、無理やり椅子から立たせ、語気強く言い放っていた。

「おい、ザキール! 抜け殻みたいな態度をやめろよ! 人類側に押されて白旗を上げたくなったか? それならそれでシャキッとしやがれ!」

「白旗……か、俺様にとってはもはやどうでもいいんだよ。ガラルド達が死の山の戦争に勝とうが負けようがアスタロト様が大陸の支配者になることは変わりねぇよ。特別に俺様がやる気を失った理由を教えてやる……それは、自分の価値と天井に気付いちまったからだよ」


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