見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

文字の大きさ
上 下
363 / 459

【第363話】心意気

しおりを挟む


 グラドを侮辱され、人が変わったかのように殺気を放ち始めたグラッジの影響でブロネイルの心が折れた。予想外の事態にはなったけれど、これでようやく情報を聞き出せる状態になった。

 俺はグラッジが攻撃しないか警戒しつつ、ブロネイルに質問を投げかける。

「……じゃあ、改めて聞かせてもらうぞ。まずは地下空間の数、配置、そして魔獣の数だ。こっちには発せられた言葉の真偽を判断するアーティファクトもあるから、全部本当の事を言ってくれ」

「はい……承知しました……。まず、地下空間の数ですが、死の山全体で60箇所ありまして、場所は南からまず――――」

 グラッジを恐れたブロネイルは全て正直に答えてくれた。結果、俺達が得られた情報は『地下空間が死の山全体で60箇所あること』『全ての地下空間に300匹から2000匹までの幅広い数の魔獣が待機していて地下空間から別の地下空間へは移動できないこと』『死の山全体にいる魔獣の数は60万匹』というものだった。

 地下空間の存在によって昨日の予測よりも魔獣の総数は増えてしまったけれど、それでも当初の予想である90万匹よりはずっと少ない数である。アーティファクト『ジャッジメント』で本当かどうか確認してみたが、刀身は真実を告げる青の光を放っている。

 一応ブロネイルに「なんで60万匹しか魔獣がいないんだ?」と尋ねてみたが、元々魔人達はエリア毎に魔獣を管理しているだけだから総数を知っているのはアスタロトだけだという情報も知る事ができた。本当に同盟陣営の勝利が近いかもしれない。

 有益な情報を得られたから次は地下空間の仕組みについて尋ねておこう。

「じゃあ次の質問に答えてくれ。双蒸撃そうじょうげきによって姿を現わした地下空間には光属性魔術と地属性魔術が施されていたようだが、どんな仕組みになっていて誰が作り出したものなんだ?」

「地下空間は元々窪地や谷になっているポイントに特殊な幻影魔術を掛けたものです。あくまで小規模から中規模の穴を利用しているだけなので、大穴だけは変わらず集落のままの外観になっています。性質としては魔人と死の扇動クーレオンの刻印が施されている魔獣だけは幻影魔術で作られた地面や壁をすり抜けることが出来る仕組みになっています。勿論、魔獣達の意思次第で触れる事も可能です」

「だから地下空間の真上で神出鬼没に動けた訳か、腑に落ちたぜ。じゃあ、この厄介な魔術で広範囲にわたって下準備をしていたのは一体誰なんだ? お前達魔人全員の仕業か?」

「……いえ、この幻影魔術はザキールが時間かけて一人で準備したものです。奴は他の魔人とは違い、赤子の頃に取り込んだ細胞によって稀有な幻影魔術を行使できる才能を得たらしいです」

 まさか粗暴で短絡的なザキールがここまで繊細な技術を持っているとは思わなかった。ブロネイルの言葉から察するに恐らく幻影魔術に長けたシルフィの細胞を取り込んだ結果得られた才能だと思う。もしかしたらシルフィを超えるレベルで幻影魔術を使いこなしているんじゃないだろうか?

 俺自身の出生を知った今となっては親の得意魔術を強く引き継いでいるザキールが正直羨ましい。まぁ、そんな事を言っていたらスキルも魔術もシルフィに似ていないフィルに怒られてしまいそうだが。

 何はともあれ戦争において重要な情報を得ることが出来た。もしかしたら今、この瞬間にも地下空間の存在に振り回されている軍もいるかもしれない。もう少し情報を得られたら伝達兵に情報を運んでもらうことにしよう。

 俺は続いてザキールや他の魔人について質問を投げかけた。

「じゃあ次は魔人が合計で何人いるか、そして魔人はそれぞれどこにいるか教えてくれ」

「……アスタロト様を除く魔人は私とザキールを含めて四人です。場所については正直分かりません。我の強い私達は成果をあげて抜きんでる為にほとんど交流していないので」

「なるほどな、じゃあ最後に幻影魔術の性質について深堀しておくとしよう。この地下空間を隠蔽している魔術はザキールさえ倒せば解除されるのか?」

「……ザキールが意識を失う事があれば消滅するはずです」

「つまり、ザキールを早めに倒す事が戦争の勝利に大きく繋がるわけだな。敵とはいえブロネイルのおかげで色々分かったよ。今後も色々と聞くかもしれないから、このまま戦争が終わるまではジッとしててもらうぜ。それじゃあ暗くなってきたことだし伝達兵以外の皆は一旦野営地に帰るとするか」

 俺達の最初の目的はクローズのアジトを探す事だったが、結果的にそれ以上の収穫を得られといえるだろう。クローズのアジトも恐らく幻影魔術で隠されているだろうから、明日になったらまたアジトのあった位置に行って地下を掘りだせばいいだろう。

 俺達は移動と戦闘で疲れた体を癒すべく、南東軍の野営地がある方向へ足先を向けた。しかし、何故かグラッジが「ちょっと待ってください」と俺達を制止して、ブロネイルに最後の質問を投げかける。

「ブロネイル、最後に僕の質問に答えろ。お前はさっき『人類を滅ぼした後』もやるべきことがあるような言い方をしていたな? あれはどういう意味だ」

 グラッジが再び強烈な圧力を纏って問いかけたが、何故か今のブロネイルは震えてはおらず、真っすぐな目で見つめ返し、首を横に振った。

「その質問だけは答えるつもりはありません。例え私が殺されようとも」

「…………また痛い目をみたいか? 今度は頬の傷では済まないかもしれないぞ?」

 グラッジが一際強い殺気を放っているが、今度のブロネイルには確固たる信念があるようだ。

 俺はグラッジの肩を掴み、追い込むのを止めるよう伝えると、ジャッジメントを握ってブロネイルに尋ねた。

「死んでも教えないという言葉に嘘はないか確かめさせてもらうぞ、ブロネイル。お前は秘密を守る為なら本当に死を覚悟しているのか?」

「はい、アスタロト様の為ならば私の命も野望も惜しくはありません」

 力強く即答するブロネイルの意思はジャッジメントの青く光る刀身で証明された。こうなった以上、何をしても無駄だろう。グラッジも殺気を納めて諦めてくれたみたいだが、最後に冷ややかな目でブロネイルに問いかける。

「ブロネイル、お前が何故今回の戦いで負けたか分かるか?」

「……単に貴方達の方が強かっただけではないのですか?」

「違う。お前が負けた原因は意志が軽いからだ。他三人の魔人より偉くなってアスタロトに評価されたいという私欲まみれな点もそうだが、自分の命惜しさにぺらぺらと自軍の情報を漏らすような覚悟も責任感もないような奴は総じて弱い。そんな奴に僕達が負けるはずがない」

「クッ……」

「だけど、お前は最後の質問だけは自分の命を顧みず秘密を守ろうとした。そこだけは評価してやる。牢屋の中でゆっくりと反省に励むことだな」

「……」

 グラッジはブロネイルに対する怒りを抱きながらも『戦う者としての心意気』を説いてやる優しさを見せた。ブロネイルの心に響いたかどうかは分からないが、最後にグラッジは怒りを抑えて頑張ったと思う。

 これから先の戦いは心身共に乱される展開が起きるかもしれない、一人の戦士としてグラッジの頑張りを見習おうと思う。

 俺達はブロネイルの両腕を後ろ側に拘束したまま立ち上がらせると、そのまま南東軍の野営地へと向かった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

処理中です...