見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第363話】心意気

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 グラドを侮辱され、人が変わったかのように殺気を放ち始めたグラッジの影響でブロネイルの心が折れた。予想外の事態にはなったけれど、これでようやく情報を聞き出せる状態になった。

 俺はグラッジが攻撃しないか警戒しつつ、ブロネイルに質問を投げかける。

「……じゃあ、改めて聞かせてもらうぞ。まずは地下空間の数、配置、そして魔獣の数だ。こっちには発せられた言葉の真偽を判断するアーティファクトもあるから、全部本当の事を言ってくれ」

「はい……承知しました……。まず、地下空間の数ですが、死の山全体で60箇所ありまして、場所は南からまず――――」

 グラッジを恐れたブロネイルは全て正直に答えてくれた。結果、俺達が得られた情報は『地下空間が死の山全体で60箇所あること』『全ての地下空間に300匹から2000匹までの幅広い数の魔獣が待機していて地下空間から別の地下空間へは移動できないこと』『死の山全体にいる魔獣の数は60万匹』というものだった。

 地下空間の存在によって昨日の予測よりも魔獣の総数は増えてしまったけれど、それでも当初の予想である90万匹よりはずっと少ない数である。アーティファクト『ジャッジメント』で本当かどうか確認してみたが、刀身は真実を告げる青の光を放っている。

 一応ブロネイルに「なんで60万匹しか魔獣がいないんだ?」と尋ねてみたが、元々魔人達はエリア毎に魔獣を管理しているだけだから総数を知っているのはアスタロトだけだという情報も知る事ができた。本当に同盟陣営の勝利が近いかもしれない。

 有益な情報を得られたから次は地下空間の仕組みについて尋ねておこう。

「じゃあ次の質問に答えてくれ。双蒸撃そうじょうげきによって姿を現わした地下空間には光属性魔術と地属性魔術が施されていたようだが、どんな仕組みになっていて誰が作り出したものなんだ?」

「地下空間は元々窪地や谷になっているポイントに特殊な幻影魔術を掛けたものです。あくまで小規模から中規模の穴を利用しているだけなので、大穴だけは変わらず集落のままの外観になっています。性質としては魔人と死の扇動クーレオンの刻印が施されている魔獣だけは幻影魔術で作られた地面や壁をすり抜けることが出来る仕組みになっています。勿論、魔獣達の意思次第で触れる事も可能です」

「だから地下空間の真上で神出鬼没に動けた訳か、腑に落ちたぜ。じゃあ、この厄介な魔術で広範囲にわたって下準備をしていたのは一体誰なんだ? お前達魔人全員の仕業か?」

「……いえ、この幻影魔術はザキールが時間かけて一人で準備したものです。奴は他の魔人とは違い、赤子の頃に取り込んだ細胞によって稀有な幻影魔術を行使できる才能を得たらしいです」

 まさか粗暴で短絡的なザキールがここまで繊細な技術を持っているとは思わなかった。ブロネイルの言葉から察するに恐らく幻影魔術に長けたシルフィの細胞を取り込んだ結果得られた才能だと思う。もしかしたらシルフィを超えるレベルで幻影魔術を使いこなしているんじゃないだろうか?

 俺自身の出生を知った今となっては親の得意魔術を強く引き継いでいるザキールが正直羨ましい。まぁ、そんな事を言っていたらスキルも魔術もシルフィに似ていないフィルに怒られてしまいそうだが。

 何はともあれ戦争において重要な情報を得ることが出来た。もしかしたら今、この瞬間にも地下空間の存在に振り回されている軍もいるかもしれない。もう少し情報を得られたら伝達兵に情報を運んでもらうことにしよう。

 俺は続いてザキールや他の魔人について質問を投げかけた。

「じゃあ次は魔人が合計で何人いるか、そして魔人はそれぞれどこにいるか教えてくれ」

「……アスタロト様を除く魔人は私とザキールを含めて四人です。場所については正直分かりません。我の強い私達は成果をあげて抜きんでる為にほとんど交流していないので」

「なるほどな、じゃあ最後に幻影魔術の性質について深堀しておくとしよう。この地下空間を隠蔽している魔術はザキールさえ倒せば解除されるのか?」

「……ザキールが意識を失う事があれば消滅するはずです」

「つまり、ザキールを早めに倒す事が戦争の勝利に大きく繋がるわけだな。敵とはいえブロネイルのおかげで色々分かったよ。今後も色々と聞くかもしれないから、このまま戦争が終わるまではジッとしててもらうぜ。それじゃあ暗くなってきたことだし伝達兵以外の皆は一旦野営地に帰るとするか」

 俺達の最初の目的はクローズのアジトを探す事だったが、結果的にそれ以上の収穫を得られといえるだろう。クローズのアジトも恐らく幻影魔術で隠されているだろうから、明日になったらまたアジトのあった位置に行って地下を掘りだせばいいだろう。

 俺達は移動と戦闘で疲れた体を癒すべく、南東軍の野営地がある方向へ足先を向けた。しかし、何故かグラッジが「ちょっと待ってください」と俺達を制止して、ブロネイルに最後の質問を投げかける。

「ブロネイル、最後に僕の質問に答えろ。お前はさっき『人類を滅ぼした後』もやるべきことがあるような言い方をしていたな? あれはどういう意味だ」

 グラッジが再び強烈な圧力を纏って問いかけたが、何故か今のブロネイルは震えてはおらず、真っすぐな目で見つめ返し、首を横に振った。

「その質問だけは答えるつもりはありません。例え私が殺されようとも」

「…………また痛い目をみたいか? 今度は頬の傷では済まないかもしれないぞ?」

 グラッジが一際強い殺気を放っているが、今度のブロネイルには確固たる信念があるようだ。

 俺はグラッジの肩を掴み、追い込むのを止めるよう伝えると、ジャッジメントを握ってブロネイルに尋ねた。

「死んでも教えないという言葉に嘘はないか確かめさせてもらうぞ、ブロネイル。お前は秘密を守る為なら本当に死を覚悟しているのか?」

「はい、アスタロト様の為ならば私の命も野望も惜しくはありません」

 力強く即答するブロネイルの意思はジャッジメントの青く光る刀身で証明された。こうなった以上、何をしても無駄だろう。グラッジも殺気を納めて諦めてくれたみたいだが、最後に冷ややかな目でブロネイルに問いかける。

「ブロネイル、お前が何故今回の戦いで負けたか分かるか?」

「……単に貴方達の方が強かっただけではないのですか?」

「違う。お前が負けた原因は意志が軽いからだ。他三人の魔人より偉くなってアスタロトに評価されたいという私欲まみれな点もそうだが、自分の命惜しさにぺらぺらと自軍の情報を漏らすような覚悟も責任感もないような奴は総じて弱い。そんな奴に僕達が負けるはずがない」

「クッ……」

「だけど、お前は最後の質問だけは自分の命を顧みず秘密を守ろうとした。そこだけは評価してやる。牢屋の中でゆっくりと反省に励むことだな」

「……」

 グラッジはブロネイルに対する怒りを抱きながらも『戦う者としての心意気』を説いてやる優しさを見せた。ブロネイルの心に響いたかどうかは分からないが、最後にグラッジは怒りを抑えて頑張ったと思う。

 これから先の戦いは心身共に乱される展開が起きるかもしれない、一人の戦士としてグラッジの頑張りを見習おうと思う。

 俺達はブロネイルの両腕を後ろ側に拘束したまま立ち上がらせると、そのまま南東軍の野営地へと向かった。


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