見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第361話】最強の兵団

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 リザードマンの群れをほぼ壊滅させ、残りを兵士達に任せた俺はソル兵士長の応援へと向かっていた。蜘蛛の巣状になっている地下空間を飛び回り、脱出して外に出ると、そこには竜巻の中でブロネイルと互角に戦うソル兵士長の姿があった。

 目を開けるのも辛くなるほどに勢いのある竜巻は直径30メード程の大きさがあり、一切軸をズラさずにソル兵士長とブロネイルを囲み続けている。

 竜巻の周りでは兵士達が両手を前に出して魔力を放出しているようだ、恐らく兵士達が竜巻を作り出してブロネイルを逃がさないようにしているのだろう。

 ということは実質ソル兵士長とブロネイルの一騎討ちの形なのだろうか? と予想したが、すぐに撤回する事となった。それはソル兵士長の動きが兵士達の風魔術によって一層鋭くなっていて、逆にブロネイルの動きが悪くなっているからだ。

 よく目を凝らして竜巻の中を見てみると、強くて細い風が縦横無尽に竜巻の中を駆けまわっており、ソル兵士長の動きに合わせて風が剣撃を速め、ブロネイルの爪撃に合わせて向かい風で減速させているのだ。

 つまり兵士達はブロネイルを閉じ込める為の竜巻だけでなく『攻撃速度上昇』『攻撃速度低下』の風を生み出して合わせて三つの仕事をこなしているということだ。

 あまりにも完成され過ぎた支援戦術に俺は言葉を失ってしまい、同時に一つの疑問を抱いた。それはいくら兵士達が優秀とはいえ、高速で動くソル兵士長とブロネイルに対応した風を送れるとは思えない点だ。

 竜巻の外からそんな芸当が出来るなら、それこそ兵士一人一人がソル兵士長に匹敵する強さを持っているはずだ、強さの秘密が分からない。俺は加勢する隙間が無い高速の戦いにただただ見惚れ、二人の動きを見つめていた。

 ソル兵士長は必要最低限の動きで的確に斬撃を食らわし、妨害を受けているブロネイルも体術と近距離魔術を駆使して善戦している。割合で言えば3対2でソル兵士長が優勢といったところだろうか、それでもソル兵士長は時々優勢とは思えない不思議な挙動をしている時がある。

 ブロネイルがよろけたり仰け反ったりして追撃のチャンスが訪れた時でも追撃をしない時があるのだ。俺は改めてソル兵士長の動きを凝視し続けた。そして、見つめること一分――――ようやく答えを知る事ができた。

 今まで俺は兵士達が二人の戦いに合わせて援護と妨害の風を送っていると思っていたが、本当はソル兵士長が縦横無尽に動く風に合わせる形で攻撃をしていたのだ。

 だから剣を振るタイミングで良い風が来ていなければ振らないし、ブロネイルに隙がうまれても風が悪ければ深追いはしないのだろう。

 俺はソル兵士長の練度の高さに舌を巻くことしか出来なかった。ソル兵士長が風を読んで動けるということは仲間との連携が取りながら敵に対応し、目に見えていない位置の風も感じながら先読みして戦いを展開できているということだ。

 抜刀術である鎌穿れんせんを極めているソル兵士長はきっとひたすら剣術と風魔術を突き詰めて進化を遂げてきたのだろう、その結果が風魔術に特化した兵団であり、ソル兵士長のバトルスタイルに反映されている訳だ。

 過去に一度だけソル兵士長と戦った時はお互い敵同士で、彼は俺を殺すつもりだったと思うが、改めてよく生き残れたなと自分を褒めてやりたい。そんな事を考えているうちにソル兵士長は着々とブロネイルにダメージを与え続けており、とうとうブロネイルは片膝を地面に着いた。

「ハァハァ……。 ガラルドやグラッジならともかく、ただの兵士長一人に追い詰められるとは思いませんでしたよ。お見事ですよ、ソルさん」

「勘違いするな、サーシャ殿が与えたダメージや兵達の援護があったから私が貴様を追い詰められているに過ぎないのだよ。それより、貴様、追い詰められているというのに随分と余裕そうだな。さっきみたいに口調が悪くなっているわけでもないようだしな」

「ふふふ、どうしてだと思います? ソルさんに勝つことが出来ず、竜巻のせいで走って逃げる事も出来ない私が落ち着いている理由が気になって仕方ないですよね?」

「不気味な事を言って動揺を誘っているのか? それとも竜巻が維持できなくなるまで会話で時間を稼ごうとしているのか? だとしたら無駄だぞ、私の兵達はそんなにヤワではないからな」

「クククッ、そんな手段はとりませんよ、そんな手段は……ね!」

 傍から見ていても不可解なブロネイルの言葉の意味が次の瞬間判明する事となった。なんとブロネイルは垂直に囲んでいる竜巻を真上に飛ぶことで逃亡を図ったのだ。

 奴が言っていた「竜巻のせいで走って逃げる事も出来ない」という言葉は裏を返せば走りじゃなければ逃げられるという余裕のあらわれだったようだ。逃亡防止用に縦長の竜巻が作られているものの、ブロネイルは凄まじい上昇スピードでぐんぐんと空へ駆けていく。

 このままでは空中移動に長けたブロネイルが逃げきってしまう……何も出来ない歯痒い思いで竜巻を見つめていると、ソル兵士長は落ち着いた様子で剣を鞘に納めて真上を睨んだ。

 一体何をする気なんだ? とソル兵士長を眺めていると、彼は真上へ飛び上がると同時に「一閃追風いっせんついふうの陣 展開!」と叫び、納めた剣の柄に手を掛けた。

 すると、ソル兵士長の真下へ周囲から強風が送られ、一点に集まった強風はぶつかり合う荒波のように真上へと跳ね上がる。凄まじい強風をその身に受けて上昇したソル兵士長は5メード程まで近づいたブロネイルを一層強く睨み、最強最速の抜刀を繰り出す。

「悪しきを墜とせ! 鎌穿れんせん!」

 以前よりも完成度の高まった鎌穿れんせん、そして兵士達の支援が加わった風の斬撃は目で追うのがやっとの速度で上昇し、逃げ切れた気になっていたブロネイルの右羽を音もなく切り落とした。

「ぐあああぁぁっっ! わ、私の羽がぁぁっっ!」

 ブロネイルは空中での制御を失い、竜巻の中を勢いよく落下する。既に戦う事も逃げる事も出来なくなったブロネイルにソル兵士長が剣先を向けた。

「お前の負けだ。敵軍の重要なポストを務めているであろうお前には聞きたいことが山ほどある。千切れた羽が痛いだろうが、皆のところへ来てもらうぞ」

「ク、クソッ! 私が負けたのか……大陸を統べる一角となるはずの私が……」

 完全に戦闘意欲を失ったブロネイルは大人しく従い、ソル兵士長に引っ張られて俺のいるところまで連れてこられた。

 地下空間でリザードマンと戦っていた他の者達も無事、目に見える範囲のリザードマンを全滅させてくれたようで、皆が晴れやかな笑顔を浮かべながら俺のところへと集まった。

 さて、魔人であるブロネイルからまずはどんな情報を聞き出すべきか。色々と情報を持っているであろう奴に自害でもされたら堪らないし、敵とはいえ極力は死なせたくない。慎重に尋ねる事にしよう。


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