上 下
358 / 459

【第358話】魔人ブロネイルの戦い方

しおりを挟む


「やかましいハエどもめ……そんなに殺されたいならさっさと殺して差し上げますよ……」

 追い詰められて人相の変わったブロネイルは強い魔力を纏った体で殴りかかってくる……かと思ったが、何故か後ろへと下がっていき、リザードマンの群れの中に入ってしまった。

 このままリザードマンの群れを盾にして逃げるつもりだろうか? ブロネイルがザキールと同じように多くの魔獣を操れる魔人ならば自分が戦って消耗するよりも魔獣を使役した方が合理的だと考える可能性もある。

 だとしたら、先々の為にここで奴を倒しておきたいところだ。俺は疲れた体に鞭を打ち、リザードマンの群れの上を魔砂マジックサンドの足場を作って飛び越え、ブロネイルを追いかけた。

 しかし、上からリザードマンの群れを眺めてもブロネイルの姿が見当たらない。リザードマンが急に出現したのと同じ原理で、ブロネイルには姿を隠す能力があるのだろうか? 

 不可思議な現象を分析するのは群れの上空にいて俯瞰できる俺が一番適しているはず……そう考えて目に意識を集中させ、リザードマンの群れを眺め続けた。

「絶対に何かカラクリがあるはずだ……俺が何とかして見つけ――――」

――――ガラルドさん! 後ろです!――――

 俺の呟きをかき消すようにグラッジの大声が響き渡り、俺は慌てて後ろを振り向く。すると、そこには拳を振り下ろそうとしているブロネイルの姿があった。

 俺は慌てて魔砂マジックサンドを腕に纏ってガードしたが、足場の悪い俺では羽を持つブロネイルの空中攻撃を上手くガード出来ず、そのまま真下の地面に叩きつけられてしまった。

「ぐはっ!」

 背中と後頭部を同時に地面へぶつけた俺は呻き声を出すと同時に視界の揺らぎを感じていた。地面に落ちて二秒ぐらいで視界は冴えてきたけれど、リザードマンの群れの中心に落ちていた俺は気が付けば両手両足をリザードマンに押さえつけられていた。

 そんな俺の姿を上方から見つめるブロネイルは両手に力強い氷の魔力を溜めている。

「よしよし、トドメを刺すのでしっかりと押さえておきなさい我が下僕よ。消し飛べ、アイス・メテオ!」

 マズい……このままでは無防備な状態で魔術を受けてしまう……。両手足を上手く押さえられている以上、回転砂だけでも防御を展開したいところだが、頭と背中をぶつけた衝撃でスキルに意識を集中できず、上手くスキルを練られそうにない。

 急いで魔力を練る俺を見下ろしたブロネイルは口角を上げた笑顔で強大な氷塊を撃ちだす。奴はリザードマンごと俺をぶっ潰すつもりだ……。高速で近づく氷塊の痛みに耐えるべく俺はギュッと目を閉じると、俺の耳に窮地を救う声が飛び込む。

忌み黒猫のブラック 拒絶リジェクションズ! リベンジ!」

 俺の目先5メード程の位置まで近づいていた氷塊はリザードマンの間を縫って走ってきたであろう黒猫サクと衝突し、バラバラに砕け散った。久々に見たあのスキルは一度受けた衝撃を溜め込み、後に放出する事が出来るリベンジ&リリースという能力だ。

 これでサーシャは一撃だけだが、強力な攻撃手段を得た事になる。一方、ブロネイルはサーシャのスキルを知らないらしく、困惑した表情で俺とサーシャを交互に見つめている。

 ブロネイルはサーシャの方を見ながら舌打ちをすると、今度は両手の爪に魔力を集中させて、直接俺を攻撃する為に急下降してきた。

「何をしたかは分かりませんが、少し寿命が延びただけのこと。未だ拘束されている貴方を私の手で殺してあげましょう!」

 ブロネイルはザキールに負けず劣らずのキレっぷりで目を血走らせている。あの爪で攻撃されたら厄介そうだが、サーシャが時間を稼いでくれたおかげで今の俺は体を思い通りに動かせるはずだ。

 だから近づいてくるブロネイルにはお仲間のリザードマンをぶん投げてお見舞いしてやる。未だに俺の両手首を掴んで拘束しているリザードマンを俺は寝転んだ状態のまま、力任せに真上へ持ち上げた。

 二匹のリザードマンが作り出す肉の盾は爪を立てて急降下するブロネイルと衝突し、見事に止めてくれた。まさかリザードマンをぶん回すとは思っていなかったのか、俺の足首を押さえている残り二体のリザードマンもブロネイル同様、目を点にして驚いている。

 気を取られている今がチャンスだ! 俺は爪に刺されたままのリザードマンをブロネイルごと思いっきり地面に叩きつけた。

「うごあぁっっ!」

 初めて聞いたブロネイルの呻き声に確かな手ごたえを感じる、このまま連撃を加えて倒し切ってやる。俺は火を纏った魔砂マジックサンドを棍の先端に回転させて倒れているブロネイルの腹に叩きつけた。

「うぐぅっぁ!」

 投げと棍撃の完璧な二連撃だ! 持ち手に響いた感触、そして熱砂が生み出す蒸気が確かな手ごたえを確信させてくれる。だが、油断は禁物だ、俺は続けてもう一撃加えるべく棍を振り下ろした。しかし、今度はブロネイルに当たった感触はなく、地面にめり込んだ感触が持ち手に響いた。

 ブロネイルは転がって避けたのだろうか? 熱砂が生み出した蒸気が晴れ、ブロネイルが倒れている地点を目視すると、何故かそこにブロネイルの姿はなかった。

 ブロネイルは特別肉弾戦が強いわけではないが、さっきから瞬間移動のような動きを繰り出している気がする。

 俺は周りを囲んでいるリザードマンをサンド・ストームで吹き飛ばし、再びブロネイルの姿を探し始める。すると、今度は離れた位置にいるサーシャとグラッジの方に黒い影が高速で飛んでいった。さっき遠目から見た黒い影はブロネイルの高速移動技だったのだ!

 このままではサーシャがやられてしまう……俺は急いで助けに行こうとしたが、距離が遠すぎて間に合いそうにない。ブロネイルはサーシャの前で手を突き出すと、勝ち誇った顔で詠唱する。

「さっきはよくも止めてくれましたね、御嬢さん。今度は確実に消し飛ばします、アイス・メテオ!」

 さっき俺に放った時と同じぐらい強力な魔術がブロネイルから放出される。反応が遅れたサーシャは魔術でもスキルでも迎撃できる状態ではない……万事休すかと思えたその時、近くにいたグラッジが一心不乱にサーシャの前に飛び出して庇い、アイス・メテオをもろに喰らってしまった。

 グラッジは潰れた声をあげ、額から血を流し、衝撃で遠くへ転がってしまった。グラッジの動きがいつもより明らかに悪い……パープルズと同様に相当疲労が溜まっていたから防御もままならなかったようだ。

 ブロネイルは満足気な表情を浮かべると、指を一本立てて呟く。

「ターゲットには当たりませんでしたが、まずは一人、片付けられましたね。次に消してさしあげるのはもちろ――――」

 ブロネイルが喋り切るよりも先にソル兵士長が爆風を背に飛び出していた。その出足は凄まじく速く、レックのバック・ガストやグラッジのウィンド・ダッシュを彷彿とさせる風の移動技だ。

 どうやら暫く会っていない間にソル兵士長も相当な訓練を積んできたようだ。この速さには流石のブロネイルも危険を感じ、上空へと飛んで距離を置いた。額の汗を拭ったブロネイルは大きな吐息と共にソル兵士長を褒め始める。

「いやはや、見事な高速移動です。シンバードや帝国以外にもここまで腕の立つ者がいたのですね。確かイグノーラ兵団にいるソルという名前の兵士長でしたかね?」

「ああ、私が兵士長のソルだ。褒めてもらって褒め返してやりたいところだが、貴殿には尊敬できるところが一つも無いな。コソコソ隠れ、背後から攻撃し、魔獣の扱いも煙に巻くような使い方だ。恐らく黒い影となって移動しているのもスキルか何かだろう? 大体性質の予想はついているのだよ。だからこれまでのような戦い方は止めた方がいい。貴殿に武人としての誇りが少しでもあるのなら今からでも地上降りてきて正々堂々と戦ってみてはどうかね?」

「私は喧嘩バカのザキールとは違って近接戦はあまり好きではないですし、これまで通りヒット&アウェイでいかせてもらいます。ですからソルさんの挑発に乗るつもりはございませんよ。それより、皆さん、私に視線を向けていてもいいのですか? 貴方達にとって再び厳しい状況が出来上がっていますよ?」

 再び厳しい状況が出来上がる――――という言葉の意味が分からなかった俺はすぐさま周りを見渡した。すると、最悪な事にリザードマンが更に30匹ほど増えてしまっていた。本当に無限に出現させることが出来るのかと疑ってしまいたくなるほどに厳しい状況だ。

 ここは一旦ソル兵士長とサーシャに合流し、グラッジを守りつつ、戦い方を話し合った方が良さそうだ。俺は素早くリザードマンの間を縫ってサーシャ達と合流し、グラッジを担いでリザードマンの群れから少し距離を取った。

 俺がグラッジを地面に寝かせ、サーシャがスキルのアクセラでグラッジを回復させている間、ソル兵士長は兵達に俺達を守って時間を稼ぐよう指示を送ってくれた。これで少しは時間を稼げるが、兵士達の体力は有限だ、早めに打開策を見つけ出さなければ。

 ひとまずブロネイルの能力についてソル兵士長に意見を伺っておこう。

「教えてくれソル兵士長。さっき貴方はブロネイルのスキルがどんなものか予想がついていると言っていたよな? 外れていてもいいから予想を聞かせてくれ」




=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...