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【第357話】謎の増加

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「ガ、ガラルド殿! 今戦っている魔獣達と既に倒れている魔獣を見てくだされ……明らかに数が増えています……」

 驚きの言葉を口にしたソル兵士長に従い、俺は視線を向けた。すると、そこには魔獣の死体が30体ほど倒れていたが、兵士達と戦っている魔獣はまだ90匹ほどいるようだ。

 確か最初に魔獣群を見た時は合計で100匹程度だったはずだ、ハンター歴の長い俺や兵士歴の長いソルが魔獣の数を大きく数え間違えるとは思えない。

 だが、目の前の魔獣一匹一匹に集中している兵士達は不可思議な状況に気付けていない……ここは一旦攻めの手を緩めて分析した方が良さそうだ。ソル兵士長に提案すると、彼はすぐに指示を出した。

「総員、今すぐ魔獣から20メード離れるのだ!」

 ソル兵士長の言葉に従って兵士達が円形の陣を組みつつ距離を取ると、何故か魔獣達は追いかけてこようとはせず、密集状態を維持している。リザードマンが比較的頭のキレる魔獣だということを考慮してもここまで慎重で合理的な動きをするとは思えない。

 ここにいるリザードマンたちはこれまで高所で身を隠し、人間が低い位置にきたら一斉に高さの利を活かした遠距離攻撃を仕掛け、ある程度密集した陣形を維持して戦おうとしている。

 全てのリザードマンがここまでの戦いを出来るとは思えない……考えられる可能性は一部の魔獣にだけ死の扇動クーレオンで指令を重ね掛けしているパターン、もしくは近くに潜んでいる魔人が死の扇動クーレオンで行動基準を切り替えているパターンのどちらかではないだろうか?

 俺は自身の考える仮説を皆に伝えると、ソル兵士長は「私に作戦がある、任せてくれ」と言い残し、今いる場所より少しだけ前に出ると耳が割れんばかりの大声で叫んだ。

「おおぉぉぉい! コソコソ隠れずに出てこんかァ! 魔人というのは前線にすら立てないチキン野郎なのかァァッ!」

 作戦……というにはほど遠い行動だった……。期待したのは間違いかと思ったが、叫んだ後にソル兵士長が小声で俺に狙いを教えてくれた。

「もし、ザキールが隠れていたら頭に血が昇りやすい奴の事です、きっと目の前に現れてくれることでしょう。だから幼稚な手ではありますが大声で煽ってみたのです。黒い影も飛んでいた事ですし、可能性は高いと思いますぞ」

「なるほど、意外と考えての行動だったんだな。単に腹が立って叫んだだけかと思ったぜ」

 ソル兵士長の豪快過ぎる作戦に乗っかり、待つこと十五秒。動きを止めたリザードマンの集団がこぞって左右に移動して通り道を広げると、奥からザキール――――ではない別の魔人が現れた。

 その魔人はザキールや転生前のクローズみたいな青色の皮膚をした魔人でもないし、ディアボロスの様な赤黒い皮膚でもない。濃い緑色の肌を持つ初めて見るタイプの魔人だった。

 ザキールに負けないぐらいの筋骨隆々とした体に逞しいコウモリ型の羽を持ち、腰まで伸びたストレートな銀髪は額が見えるように前髪だけ上げられていて、垂れ目ながら優しさの感じられない冷たい目と狼の様な鋭い牙を持つ魔人だ。

 緑の魔人はリザードマンの群れから離れて俺達の前に歩いてくると、紳士的な綺麗なお辞儀と共に自己紹介を始めた。

「初めまして、私の名はブロネイルと申します。我が主、アスタロト様より死の山で人間を迎え討てと命じられております。そこの体の大きい貴方が噂のガラルド様ですね? 先程、品の無い大声をあげていたのはガラルド様でしょうか?」

「いや、さっき叫んでいたのは横にいるソルさんだ。アスタロトにザキール以外の魔人仲間がいる可能性は考えていたが、まさか本当に現れるとはな。隠れているあんたがわざわざ出てきたのは勝てると確信したからか? それともソルに煽られて腹がたったからか?」

 俺が問いかけると、ブロネイルは図星と言わんばかりに瞼をピクピクとさせて無理やり笑顔を作り、紳士的な態度を維持したまま言葉を返す。

「いえいえ、下賤な輩の言葉程度では私の心は乱れませんよ、単にご挨拶に伺っただけです。私はガラルド様を殺し、多くの兵士を殺し、アスタロト様から一番の評価を頂かなければいけませんからね、品の無いザキール達には負けていられません。貴方達には無限に現れる魔獣の餌食になってもらいますよ」

 ブロネイルは聞いてもいないことまでベラベラと答えてくれている。どうやらザキール程ではないにしても扱いやすくてプライドも高いタイプのようだ。

 ブロネイルの言葉から推察するにザキールと武功を争っていて、更に『ザキール達』という言い方をしている事からも魔獣を操れるザキール級の存在が複数人いる証明にもなる。

 そして、過去にウンディーネさんがアスタロトと遭遇した際にアスタロトは『片手で数えるほどの魔人としか組んでいない』と言っていたことからもブロネイルとザキールを含めて五人が限度の筈だ、戦力の最大値をおぼろげながらでも把握できているアドバンテージは大きいだろう。

 更に、ザキールとイグノーラ平原で話をした時は『俺様に魔人の仲間はいねぇ、二度とふざけた質問をするんじゃねぇぞ』と怒っていた記憶がある。この言葉から推察するに武功を争う魔人達には仲間意識が無く、各々で独立して動いている可能性が高いということだ。現にブロネイルもザキールを馬鹿にする言葉を吐いていたことが証明になるだろう。

 色々な事が推察できたが、気になる事が一つある。それはブロネイルの言っていた『無限に現れる魔獣』というワードだ。実際リザードマンの数はいつの間にか増えていたし、俺達は仕組みを掴めていない。

 本当に無限に現れるならブロネイルが群を抜いて武功をあげる事になるだろうから、何かカラクリがあるはずだ。今、推察できた情報でブロネイルに揺さぶりをかけて、新しい情報が得られないか試してみる事にしよう。

「随分と自信満々のようだが、大体底は掴めてきたぜ? 恐らくブロネイルみたいな司令塔クラスの存在はアスタロトを除いて最大五人しかいないはずだ。おまけに司令塔は互いの利益ばかりを考えて独立しちまってるんじゃないか? そもそもザキールやあんたみたいな奴に協調性があるとは思えないしな」

「なっ……で、でたらめな推察は止めてください。それにザキールと私を同じ括りにするのもご遠慮頂きたいですね」

「同じ組織の仲間を見下している時点であんたは大した器じゃねぇよ。どうせさっき言っていた『無限に現れる魔獣』って脅しも、魔獣が増えるカラクリがあるだけで嘘っぱちだろ? それが本当ならあんたはザキールと肩を並べて競争する立場じゃないはずだからな」

「…………。」

 俺が言葉で攻めすぎたせいで遂にブロネイルは黙ってしまった。このまま意気消沈のブロネイルを倒してやろうと俺は棍を構えた。だが、ブロネイルはソル兵士長にも負けない大声……もとい咆哮をあげると、全身に魔力を漲らせて、目を血走らせながら囁いた。

「やかましいハエどもめ……そんなに殺されたいならさっさと殺して差し上げますよ……」


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