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【第355話】供給と並走
しおりを挟む「僕が残りの道中、サーシャさんをおんぶで運び続けます。乗ってくださいサーシャさん」
クローズのアジトがあった位置まで後4,5時間は走らなければいけない状況の中、グラッジがとんでもない提案をしてきた。困惑するサーシャは首を横に振って否定の言葉を返す。
「それは無茶だよ、グラッジ君! 足場も悪ければ暑さも厳しいみちのりだよ? サーシャを背負ったまま走り続けられるはずがないよ」
「厳しいのは承知の上です。それでも黒猫で偵察してきたサーシャさんを現地に行かせることは重要だと思います、だから僕に手伝わせてください。それにおんぶをしている間、サーシャさんはゆっくり休めますから、回復が出来次第サクの背に乗って走ってくれれば大丈夫です」
「で、でも……」
サーシャが言い淀む気持ちもよく分かる。グラッジは安心させる為に楽観的な物言いをしているが、正直俺の予想では体力的に厳しくなると思う。
こうやって足を止めて悩んでいる間にも着々と時間は流れていってしまう……どうすればいいんだろうか? 俺もおんぶして交代で進めばいいのか? それでも厳しそうな気がするが――――と唇を噛みしめていると、今度はフレイムが提案を持ち掛けてきた。
「ここは僕達双子が踏ん張る時かもしれないね。僕らの提案を聞いてくれ、まずグラッジ君は一時間だけでいいからサーシャを運んであげてほしい。その間に僕とブレイズは並走しながらゆっくりとマジックパサーでサーシャの魔量を回復させることにするよ、そうすれば移動時間もロスする事なく、サーシャを再び黒猫で走らせることが出来るはずだ」
マジックパサーは以前、死の山からイグノーラへ移動したザキールを追いかける際に魔量が枯渇していた俺とサーシャを回復させてくれた技だ。
だが、マジックパサーは自身の魔力を仲間に与える技ではあるものの効率はあまり良くないはずだ。それに、あの時と違って今はパープルズが二人しかいない訳だし、本当に大丈夫なのか不安だ、念を押して聞いておこう。
「フレイム、本当に上手くいくのか? 前も死の山で俺達に魔力を供給してくれたが効率が悪い技のはずだろ? それにあの時はパープルズが四人いたけど今回は二人だ。前みたいに顔が真っ青になって動けなくならないか心配だぞ」
「供給効率に関してはある程度手の打ちようがあるよ、そもそもマジックパサーの効率は供給にかける時間によって変動するんだ。さっきも言った通り『一時間かけてじっくりと渡し続ければ』僕達も倒れはしない筈だ。それに今回はガラルド君に供給しなくていいからね、その点が何より大きい」
「え? 以前は俺に何か問題があったのか?」
「正直、ガラルド君にマジックパサーをした時はほとんど魔量を回復させられていない感覚に襲われていたのさ、いや回復できていないと言うより魔力を吸われているような感覚と言うべきかな。全知のモノクルで出た数値だと当時のガラルド君とサーシャにそこまで魔量に差がある訳ではないはずなんだけど、ガラルド君の肉体には『底知れぬ魔力の土台』を感じたんだ」
俺の体はどこかおかしいのだろうか? 今まで数多く回復魔術や薬の治療を受けた事はあるが、特別回復が遅かった記憶はないし、むしろ人より早いぐらいだ。
俺が二種類の魔力を使っているからマジックパサーがやり辛くなったりしているのだろうか? だが、それだと単に二倍魔量を消費するだけの話だと思うが、フレイムは『魔力を吸われているような感覚』と言っている。
自分の身体の事なのにさっぱり分からなくてモヤモヤするところだが、今はアジトを探しに行くことに集中しよう。俺達はフレイムの案を採用し、サーシャへ魔力を供給しながら移動を続けた。
※
10分、20分、30分…………時間が経つにつれてフレイムとブレイズの顔色が悪くなり、反対にサーシャの顔色が良くなってきている。一度はパープルズに殺されかけた俺だが、コロシアムを終えて以降は何度も彼らに助けられている。
彼らがいたからビエード隊と戦う事が出来たし、ウィッチズガーデンから情報を集めたり、スライグラスを持って帰ってもらって死の海を渡る事が出来た。
大陸南ではマジックパサーでの回復が無ければイグノーラでの戦争を生き残れたとは思えないし、今も我が身を削りながらサーシャを回復してくれている。
コロシアムの二回戦を終えたあの時『彼らの将来を閉ざさないでくれ』とシンに頼み込んで本当によかった。
人によっては甘いと言われるかもしれないけれど、それでも救える人は救いたいという考え方は変えられそうにないし、これからも俺は似たような選択を選んでいくのだろう。パープルズには戦争が終わった後、たっぷりと礼をしなければ。
そんな事を考えているうちに魔力を供給しながらの移動は一時間を超えていて、サーシャの魔量はかなり回復していた。すっかり顔色の良くなったサーシャはグラッジの背中から降りると、黒猫サクの背に跨った。
「ありがとう、フレイムさんブレイズさん! あとはサーシャとサクで走れるよ! 今度は疲れた二人にペースを合わせるから無理はしないでね」
サーシャからお礼の言葉を受けると、フレイムとブレイズは双子らしく同じタイミングで親指を立て、肩で息をしながら言葉を返した。
「ハァハァ……これくらい……お安い御用さ……ハァハァ……なぁ、ブレイズ?」
「ああ、全然平気さ……ハァハァ……だから、遠慮せずに今のスピードのまま走ってくれ。ハァハァ……僕達は遅れずついていくからさ」
明るいうちにアジトのある位置へ行く事の重要性を理解しているからこそ二人は強がってくれているのだろう。バテバテの二人の言葉に応える為、心苦しいがペースを落とさず走る事にしよう。
俺達はいつ倒れてもおかしくない顔色の二人を心配しながら走り続け、出発から九時間をかけてクローズのアジトがあった場所に到着した。
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