見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第351話】トーマスの暴露

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 ずっと先のことだと思っていた魔獣群との戦争の日が訪れた。俺は日の出のタイミングで目を覚まし、廃城の中庭に置かれている椅子に腰かける。まだ目覚めきっていない肺に朝の澄んだ空気を取り込みつつ、俺は戦争における手順が書かれた紙を眺めて最終確認を行っていた。

 俺達シンバードを中心とした陣営は大きく分けて六つの軍団に分かれて、魔獣集落を攻める手筈となっている。大陸北の人間で構成された北東軍、北軍、北西軍が北側から死の山を攻め、逆に大陸南の人間で構成された南東軍、南軍、南西軍が南側から攻めて、3対3で挟み込む形だ。

 過去にシリウスが戦力割合を分析した際は帝国陣営が30 同盟陣営が30 アスタロト陣営が40と分析していて、各国は今回の戦争に自国戦力の3~4割程度しか投入していないから、シリウスの分析が正しければ数字上だとアスタロト陣営の方が強いことになる。

 だが、アスタロト陣営は魔獣で構成されているから人間と違って臨機応変に動くことも出来ないし、攻められる側である以上防衛戦の形となる。加えて南北から合計六つの軍団に挟撃されるわけだから数字よりも苦しい戦いを強いられるはずだ。

 更に今回の戦争ではどういう訳か帝国が他国よりも多めに人員を死の山に割いてくれていて、そのおかげで勝利の確率を少し上げてくれている。他国が30%~40%の戦力を投入しているのに対し、帝国は50%以上の人員を割いてくれているのだ。

 レックやシリウスはいつか必ず帝国がシンバード陣営を攻めてくると教えてくれたけれど、これだけの兵を死の山に送ってくれたのだから少なくとも死の山での戦争が終わって落ち着くまでは攻めてこないと考えていいと思う。

 そう考えないと帝国本土に残った戦力がシンバードに攻めてきたところで返り討ちに合うのが目に見えているからだ、だから今は死の山での戦争にのみ集中しよう。

 俺、グラッジ、サーシャは北東軍のメンバーとして戦いに参加し、場合によっては南側の三つの軍と素早く連携を取って戦う事を想定されている重要なポジションだ、心してかからなければ。

 俺はそろそろグラッジ達を起こしに行くかと椅子を立ち上がり扉の方へと視線を向けた。すると、俺の顔を見て会釈をする一人の軍人が立っていた。

 その軍人は初老の男性ながら歳の割に背筋が伸びていて、長い白髪は全て後ろへすきあげており、整えられた髪と髭はどこか気品を感じさせ、如何にも老紳士ですと言わんばかりの出で立ちだ。

 軍人は俺の前まで歩いてくると早速俺に自己紹介を始める。

「はじめましてシンバード領の英雄ガラルド殿。私は死の山の戦争において帝国リングウォルド軍の最高指揮官を任せられたヴァルン・トーマスと申します。貴殿とは特に連携を取り合って戦う事になると思いますので、何卒宜しくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくたの……えっ? 帝国はリングウォルド家の誰かが代表を務めているのではないのか? 現皇帝のモードレッドが自領を守るのはともかく、他にも軍人として指揮をとれる優秀な弟が三人もいるのだろ?」

「皇帝モードレッド様の弟であられるミニオス殿下とバイオル殿下はとても忙しいようで死の山の戦争に参加する事が出来ないそうです。どう忙しいのか気になった私は詳細を尋ねてみたのですが、お二人とも教えてくれませんでした……。これでも私は帝国の中では四兄弟の次に偉い立場なのですがね……」

「……そうか、貴方も色々苦労されているのだな。ミニオス殿とバイオル殿の現状は分かったがレックは今、何をしているんだ? レックとは旧知の仲だからよかったら教えていただけないかな?」

「レック様のことも正直分かりません。毎日城へ足を運んでいた私ですら、かれこれ50日以上姿をお見かけしていないのです。今まではこんなことはなかったので困惑するばかりです……」

 レックから送られてきた手紙からも切羽詰まった様子なのは感じ取れたし、トーマスの証言からもレックが大変な目に合っているのは間違いなさそうだ。

 どうにか助けてやりたいが、どうすることもできない現状が堪らなくもどかしい……とにかく今は少しでも早く戦争を終わらせてレックの事を考える時間を作ろう。

 トーマスから教えてもらった情報は不安の積もるものばかりだったが、それでも情報を得られただけありがたい。俺はトーマスに礼を言って部屋に戻ろうとしたが、トーマスに「お待ちくだされ!」と言われて止められた。

「ガラルド殿にお伝えしたいことがもう一つあります。それは死の山の戦争に参加した帝国兵たちのことです。私を含む帝国の参戦者の多くはモードレッド様による『強引で無機質な統治』をよく思っていない者達です。恐らく死の山に派遣された帝国兵はモードレッド様にとって邪魔になりかねない者を厄介払いする狙いが大きかったのでしょう」

「だから、他国より参戦割合が多いのか? だとしたら酷い話だな。それにモードレッドの信用も半分を切っている事になるな」

「自国の皇帝を悪く言うのは気が引けますが、それでもガラルド殿の意見に同意せざるを得ません。なので、強い義侠心ぎきょうしんに満ちた英雄ガラルド殿にお願いがあります。少なくとも死の山の戦争に参加した帝国兵は帝国本土の兵よりも信用できるという事実を陣営に伝えて欲しいのです。そして、モードレッド様の悪政が限度を超えた時には我々をシンバード領の仲間に加えていただき、共に戦わせて欲しいのです」

 これはとんでもないお願いだ。信用ならない帝国の中の一部戦力を自陣営に取り込むかどうかは皆と話し合って熟考してから決めなければならないだろう。この場で即答は出来ないが、トーマスの必死さは信用できる気がするし、ここまで内情を話して帝国が得をするとも考えらないから前向きに検討すると伝えておこう。

「俺はシンバード陣営において戦闘の代表ではあるが、政治の代表ではないから易々と決められる事ではない。だけど、勇気を持って情報を伝えてくれたトーマス殿の気持ちも汲みたいと思っている。だから、皆と相談して決めさせてもらうよ、勿論前向きに検討するつもりだ」

「ありがとうございます、ガラルド殿! 今日の戦を晴れやかな気持ちで戦えそうです。例えシンバードの仲間に加えてもらうという願いを断られたとしても少なくとも死の山の戦争だけは全員が運命共同体です、共に死力を尽くして勝利をおさめましょう」

「ああ、よろしく頼む」

 俺は固い握手を交わすと、トーマスは自分の場所へと戻っていった。俺も部屋へ戻り、サーシャ達にトーマスとの会話の内容を伝えると、全員驚きつつも納得してくれたようだ。

 トーマス率いる帝国勢を信じるか信じないか、まずは戦争で判断するとしよう。俺達はディアトイルの中心で各国の軍人たちと最後の兵備確認を行うと、昨晩の掛け声を上回る大声で一斉に死の山へと走り出した。


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