見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第350話】シンバードからディアトイルへ

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 シンから貰った三日間の休暇を終えて、リフレッシュする事が出来た俺達は死の山へ出発する当日の朝を迎えていた。

 俺、リリス、サーシャ、グラッジが寝泊まりしているシンバードのボロい集会所で顔を洗い、朝食を食べ終え、荷物を背負い、船ごとリヴァイアサンに乗り込むべく港へと向かっている。

 道中では戦争に参加するガーランド団員と一部戦士達の姿を見かけて、いよいよ戦争が始まるんだなと緊張感が高まってくる。

 だが、俺は戦い以外の事にも気を取られていた。それは俺とリリスの事についてだ。先日晴れて俺達は恋人同士となった訳だが、他の皆にはまだ関係性を打ち明けてはおらず、それでいてリリスの顔を見るのが未だに照れくさくてあまり会話をできていないのが現状だ。

 そんな俺の態度を見て心配したグラッジは港への道中、小声で俺に話しかけてきた。

「ガラルドさんとリリスさんは何かあったんですか? ポセイドから帰ってきて以降あまり話をしていないようですけど」

「な、何もないさ……心配しなくても大丈夫だぞ」

「なら良かったです。決戦前に喧嘩とかしていたら身も入りませんからね」

「俺の心配をしてくれるのはありがたいが、グラッジの方はどうなんだ? ウィッチズガーデンから戻って以降、ますますサーシャと仲が良くなっているみたいだが、進展はあったのか?」

「し、し、進展? な、何の事ですか? 僕らは元々普通の仲良しですよ!」

 相変わらず嘘が下手で分かりやすい奴だ、これは絶対に何かあったと確信できる。恋人関係になった、もしくはそれ以上か、どっちにしてもめでたい限りだ。これで二人はスッキリした心持ちで戦いに臨めるだろう。

 だが、俺はまだモヤモヤした気持ちが残っている。リリスはシンを護衛する為にシンバードへ残り、俺は死の山に行ってしまうから少しの間お別れになってしまうからだ。

 いや、最悪死の山で俺が死ねば永遠の別れになる可能性もある、グラッジにも心配された事だし、最後にちゃんと話をしておかねば。

 そんな事を考えながら歩を進めているとあっという間に港へ着いてしまった。港にはシンやストレングや他にも大勢の人間が見送りに来てくれている。シンは俺の前まで歩いてくると、俺の手を握り、激励の言葉を贈ってくれた。

「俺もガラルド君達もやれることは全てやった、あとはガラルド君が中心となり、全ての人達の心を一つにして大陸を救ってきておくれ。頑張れよ、我が国……いや、大陸の誇りよ!」

「……ああ、行ってくるよ!」

 俺とシンのやりとりを見ていた仲間や観衆は盛大な拍手を贈ってくれた。そんな拍手の雨が鳴りやまない中、シンの後ろにいたリリスが俺の前まで歩いてきて、俺にだけ聞こえるように耳元で囁く。

「恋人関係になってからは照れくさくて言えませんでしたけど、私はもっとハグをして欲しかったですし、それにキ……だってもっとして欲しかったです。ですから恋人関係をこれからも楽しむ為に絶対無事に戻ってきてくださいね」

 リリスが俺の耳元から離れると、自身の耳を真っ赤にして俯いてしまった。俺がヘタレだったせいで天の糸から帰ってきて以降、あまり構ってあげることが出来なかったことが悔やまれる。その結果リリスにこんな言葉を言わせてしまったのだから。

 積極的なようで意外とシャイなリリスの為にも俺が頑張らねば……今度は俺がリリスの耳元に口を近づけて囁いた。

「戦いを終えて帰ってきたら俺達の関係性を皆に公表して祝ってもらおう。そうすれば堂々と出来るからな。だから、絶対にお互い生き残ろう、無茶だけはしないでくれよ?」

「はい! 首を長くして楽しみに待ってます!」

 リリスは子供みたいな満面の笑みを浮かべ、跳ねるような声で返事をくれた。これでスッキリとした気持ちで死の山へ行けそうだ。

 俺はシンやリリス達に背を向けて船に乗り込むべく、舟橋に足をかけた。すると、観衆は拍手と共に口笛を鳴らして送り出そうとしてくれていたが、一人の厄介な男が茶化してきた。


――――ヒュ~ヒュ~♩ 熱いねぇ~お二人さん! どんなナイショ話をしていたのかなぁ?――――


 声の聞こえた方に視線を向けると、そこにはシルバーがいた。シルバーに釣られた観衆たちは水を得た魚の様に俺達の関係を突いてきた。俺はこのまま船に乗って逃げる切ることが出来るが、リリスは恋の話が好きな連中からもみくちゃにされる事だろう。

 いや、俺だって船の上でガーランド団の面々に冷やかされる可能性もある。どうやら帰ってきても二人の関係性を公表する必要性はないかもしれない。そして俺にはもう一つ目標が出来てしまったようだ、帰ってきたらシルバーに説教するという目標が。

 船は俺達を乗せて陸地からある程度距離を取ると、グラッジが神笛カタストロフィでリヴァイアサンを呼び出して泡で船を包むと、そのまま海中を高速で進み、死の山へと向かった。







 リヴァイアサンが移動すること約10時間 俺達は夜になったばかりのディアトイルへ到着した。今回の戦争では死の山にもっとも近い村ディアトイルが戦争時の拠点となっている。

 より正確に言えば、今回の戦争は大陸南側からも魔獣集落を攻める作戦だからイグノーラ側にも拠点を作っている。

 俺達は早速各国を代表する軍人たちが集まっている村長宅に向かった。村長宅の近くには既に戦闘準備・気力共に整った猛者たちが集まっており、後から来た俺達の事を笑顔で迎えてくれた。

 その中には最近会った者、かなり久しぶりに会った者、初めて見る有名な人物など、様々な人間がおり、その全てが俺に『掛け声を頼む』と呼びかけてきた。

 戦いが始まるのは正確には明日の早朝だから夜である今に気合を入れるのはどうなのかとも思うが、これだけ多くの人間がリクエストしてくれている以上、士気を下げないよう何か言っておく方がいいだろう。

 俺は兄弟分のルドルフに引っ張られて山の斜面に簡易的に作れた桟橋のような台の上にあがった。ここからはディアトイル全体を余裕で見渡す事ができ、それどころか村の外で準備を進めている一般兵の動きすら確認できる広視野のポイントだ。

 夜だから村の暗い場所では皆の顔が見にくくなるかもしれないと懸念していたが、ルドルフの指笛で村全体の明るさが増し始め、ここからでも全員の顔がくっきりと見える。俺は下から見つめている皆の顔を改めて確認する。

 ジークフリートで共に戦ったアイアン、ボビ。かつてパーティーを組んでいたネイミー。ドライアドの仲間達。エナジーストーンの村長と門番兄弟。レナ、パープルズ、ポセイドの町長、ヘカトンケイルの町長、一部ダリアの面々、他各国の面々、それに加えて、戦争の参加名簿にはソル兵士長をはじめとしたイグノーラ兵団、一部ウィッチズケトルの面々など南側から攻撃を仕掛けてくれる国々と戦士の名前が書かれている。

 まだ確認できていない面々もいるし、全員のことを確認するのは時間的に厳しいが、それだけ俺達には多くの頼もしい仲間がいるということだ。

 戦いは明日だというのに沸々と気合が湧いてきた。俺は拳を天に突き上げ、大声で叫んだ。

「この戦いは脅威を打ち払い、大陸が一つになる為に課せられた試練とも言えるだろう。いこう! 悪しきを正し、そして、正しきを守りに!」



――――ワアアアアァァァァァ!――――



 イグノーラでの戦争に勝利した時に負けないぐらいの歓声が沸き起こった。前日からこれほどの元気があれば、きっと魔獣群とアスタロトにも勝てるだろう。

 俺達は以前訪れたディアトイル廃城に行き、燃える気持ちを抑えながら最終準備を整え、明日の早朝に備えて早めに眠りについた。




=======あとがき=======

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