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【第341話】殴り書きの手紙
しおりを挟む「シンバードの皆さま。私を治療して頂き、ありがとうございました。私はどうしてもやらなければならない事があり、帝国の追手を振り払ってここまで来ました。まずは、こちらの手紙をお受け取りください」
容態を回復させた帝国兵がそう呟くと、懐から一通の手紙を取り出した。帝国兵から手紙を受け取ったシンは差出人を確認し中身を軽く見ると、すぐに手紙を俺に渡してきた。
「どうやらこの手紙はシンバード宛てであると同時にガラルド君宛てでもあるようだ。この手紙は帝国第四皇子……いや、今は殿下と呼ぶべきか……君の友人であるレック・リングウォルドから送られたものだ。君が代表して読むといい」
「何? レックからだと? 分かった、俺が預かろう」
そして、俺は全員が内容を知れるように手紙の読み上げを開始した。
――――この手紙を最初に読んでくれているのはガラルドだろうか? それともガラルド以外のシンバード関係者だろうか? どちらにしてもこの手紙で得た情報はシンバードと大陸全土の為に有効活用してほしい。それにガラルドに宛てたメッセージが多いからガラルド以外の人間が預かったならガラルドに渡してやって欲しい。こんな慌ただしい文頭になってしまって申し訳ない、こうなってしまったのも俺が今、危機的状況であり、手紙をまともに届けられるかどうかすら分からないからだ――――
何やら相当切羽詰まった状況のようだ。帝国で上質な教育を受けてきたであろうレックなら文章も文字も綺麗に書けるはずだが、まるで殴り書きのように時間に追われた文体と文字だ。覚悟して読み進めることにしよう。
――――俺が手紙を書いている理由を単刀直入に伝えさせてもらう……父アーサーが亡くなり、第一皇子だった兄モードレッドが皇帝になってからリングウォルドは一層武闘派になっているんだ――――
――――兵器・魔力砲をはじめとした強力な軍事力を持つ父アーサーを消し、兄モードレッドを止められる者が帝国内に誰もいなくなったからだ。そして、モードレッドは大陸会議で約束した通り、兵器類を廃棄し、地下奴隷を解放したものの、それらを手放しても問題ないくらいに強力な手札を持っていたんだ。その手札は『変化の霧』と呼ばれるもので、かつての皇帝ヨハネスが軍事利用していた力だ。ここからは変化の霧についての説明を記述するが、馬鹿げた話だと思わず全て真実だと信じて欲しい――――
そこからは俺達も知っている『変化の霧』と『吸収の霧』についての説明が書かれていた。レックとは大陸会議が終わった後、すぐに別れたこともあって湖の洞窟で得た情報を伝える事が出来なかったけれど、それでもレックが個人的に帝国内を探って霧の力に関する情報を得たようだ。
しかし、霧に関する説明を読み進めるうちに書かれている文字が更に雑になっていた。レックは一分一秒を争う状況で文字を書いていたのだろうか? それとも文字が書きにくくなるような何か別の事情があったのだろうか? 俺は言葉を詰まらせぬように一層文字に集中して読みあげていった。
――――俺は信頼の置ける部下をモードレッドに差し向け、色々と情報を探り続けた。その結果得られた情報は信じたくないものだった。その情報は『帝国内に外部からは測れない戦力があること』そして『そう遠くないうちにシンバードを滅ぼし、大陸を帝国一色に染める計画がある』というものだった――――
――――父アーサーが生きていた頃は国境などで小さな小競り合いや威圧的な外交もあったものの、大きな戦争だけは起きなかった。だが、モードレッドは違う。奴は帝国こそ全てと考え、その為なら非人道的な戦争を仕掛ける覚悟がある。前々から考えの読めない不気味な兄だったが、父を殺し、スパイから情報を得た今なら奴の恐ろしさが分かる――――
――――兄モードレッドが戦争を望んでいるという情報は最悪のものだった。だが、それと同時に貴重な情報も得られた。それは死の山での戦争にモードレッドは多くの戦力を遠征させるつもりだと判明したことだ――――
――――モードレッドと言えど、やはり死の山の存在は恐ろしいらしく、各国に定められた人数割合より多くの兵を派遣させるらしい。まずは直近の死の山で行う戦争に気合を入れているようだ。だから、少なくともそれまではシンバードを攻められる心配はなさそうだ――――
――――だが、逆に言えば死の山での戦争が終わった直後にシンバードが攻められる可能性があるわけだ。だから、シンバードには絶対に西側の守りを固めて欲しい。海洋国家であるシンバードに対して帝国が海や川のある南側や東側から攻める愚行にはでないだろうし、北や北東側から攻めようにも他の同盟国に邪魔されるのは目に見えているから必ず西側から攻めるはずだ――――
レックの言う事には一理ある。俺達が大陸会議の為にシンバードからリングウォルドへ移動した時も一度西側へ大きく移動してから南下するのが一番楽な移動だったし、帝国や属国との位置関係から考えて帝国は西からシンバードを攻めるのがベターだろう。
万が一に備えて兵を派遣し警戒するということは『時間と距離に比例して国もコストを支払う』こととなる以上、レックが時間をある程度絞ってくれたことは非常にありがたい。俺達はレックから貰った情報で喜び合っていたが、それとは対照的に手紙の中のレックの元気は落ちる一方だった。
――――人の道を外れているモードレッドにはとてもじゃないがついていけない……だから俺は亡命する形になっても構わないからシンバードに行きたいと思った。皇族としての身分を捨てるのは辛いが、ガラルド達と同じ組織の人間になるのも悪くないと思っている。ドライアドやイグノーラでの戦いを経て、俺はシンバード領やガーランド団の事を好きになっていたんだ――――
――――だが、その望みは叶えられそうにない。俺がモードレッドを嗅ぎまわっていることをどうやら本人に勘づかれてしまったようなんだ。だから俺が特に信頼している部下達は俺と一緒に軟禁されてしまった。もしかしたら部下は拷問されたり、殺されている可能性すらある――――
――――そして俺はきっとモードレッドに戦争の駒とされてしまうだろう。俺は義の無い戦争をするつもりなんてない……だから、モードレッドに利用されるぐらいなら自害するつもりだ。だが、俺には死ぬ前にやらなければならない仕事が残っている。それは、まだモードレッドに捕まっていない俺の部下にこっそりとこの手紙を渡し、ガラルドに届けてもらう事だ――――
――――でも、俺だって自分の身はかわいいし、死にたくなんかない。どうにかして俺が死なずに、モードレッドが負ける未来を創り出したいものだ。俺が死んでしまったその時は墓にジンジャーエールでも供えてくれ、俺の好物だからな――――
――――長くなったがシンバードの無事を祈っている。絶対に死ぬなよ、ガラルド――――
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