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【第338話】グラッジの伸びしろ
しおりを挟む「なんて攻撃だ……殺されるかと思ったよ……」
試合に勝ったシンは場外にいるグラッジを見つめながら言った。一方、グラッジは負けて悔しそうではあるものの、自分の身体に纏う魔力を見つめながら確かな手応えと戦いの反省を呟いている。
「負けちゃったうえに制御もまだまだだけど、千色千針は使いこなせば大きな武器になりそうだ。力を引き出してくれたシンさんには感謝しなきゃ。とりあえず魔力の制御をもう少し細かく――――」
グラッジは得たばかりの技術を忘れないように夢中で確認しているようだ。そんなグラッジを見ていた俺とフィルとシンはグラッジを労う為に近くまで駆け寄った。そして、シンは右手を差し出し、グラッジに握手を求める。
「楽しい試合をありがとうグラッジ君。最後の攻撃は特に凄かったね。まさかモーデックを一撃で破壊するだけでなく、貫通して後ろの場外の壁まで削るとは思わなかったよ。もし、俺が避けられていなかったらと思うとゾッとするよ」
「あ、ありがとうございます。こちらこそ実りのある試合が出来て良かったです。シンさんが僕を鍛える為に適度に手を抜いて、新たな技を作り出すきっかけを作ってくれて本当に嬉しかったです」
「確かに途中までは手を抜いていたが、君が千色千針とかいう技を出し始めてからは手加減なんか出来なかったし、防戦一方だったよ。まさに試合に勝っただけであって、勝負には負けた気分だよ。あの技は一体何なんだい?」
「千色千針は追い詰められたおかげで咄嗟に思いついたもので、ぶっつけ本番で使った技なので上手く説明できませんが『各属性の針で自分を刺して、無理やり色堅を複数発動』する技……と思ってくれていいと思います」
色堅はカリギュラでゼロに教えてもらった技で体内を循環する魔力に属性の力を宿し、各種能力を上げる技だ。
火の循環なら膂力、水の循環なら攻撃の感知や読み、風の循環なら素早さ、地の循環なら耐久力だったはずだ。光と闇属性についてはそもそも使える人が少ないから色堅でどのような効果があるのか、まだ判明していないとゼロは言っていたはずだ。
あの時は確か、ゼロを除いたガーランド団の中で最初に色堅を発動したのはリリスで、神獣グリフォンの攻撃を見事に捌いていたはずだ。あれはリーファ時代の経験が本能で動きを思い出させてくれたのかもしれない。そんなに前の話ではないが随分と懐かしく感じる。
いや、今は思い出に浸っている場合ではない……分析を進めよう。俺のレッド・モードも言わば火の循環を極限まで高めた技であり、かなりの能力向上を望めた訳だが、グラッジが本当に複数の色堅を使えるなら凄まじい強さになりそうだ。
グラッジが『フィルさんにもガラルドさんにも負けない』と宣言していたのが本当になるかもしれない。もし、そうなったら仲間としては頼もしい限りだが、一人のライバルとしては凄く焦る気持ちが湧いてくる、俺も精進しなければ。
グラッジの説明を受けたシンは首を縦に振りながら技の威力に納得しているようだった。続いてシンは技の名称について問いかけた。
「もう一つ気になった事があるから教えて欲しい。戦いでは二色正拳、三色一閃、と叫んでいたが、この言い方から察するに、もしかしてグラッジ君の攻撃技は六属性まで発展させられるって事かい?」
「僕がもっと修練を積めば可能かもしれません。今はまだ火と地の循環を利用した打撃技・二色正拳と火と地と風の循環を利用した突進技・三色一閃しか放てませんが。それに火の循環だけ単独で見ればガラルドさんより遥かに弱くて、千色千針発動時は属性武器も扱えませんし、光と闇の色堅は単色でも発動できたことはありませんから道のりは長いですね」
「……やれやれ、発展途上なうえに向上心まで強いとなると、年寄り国王様は安心して玉座に座っていられるよ。いや、むしろこれだけ有望な若者がいるなら引退してもいいぐらいだな、はっはっはっ!」
シンに辞められたら大陸が傾くレベルだというのに恐ろしいギャグは止めてほしいものだ。
とはいえ、シンの言う通りグラッジもフィルも本当に頼もしい限りだ、俺は本当に仲間に恵まれている。
稀有な能力を持つうえに頭のキレるサーシャ、かつての力を取り戻しながら益々頼もしくなるリリス、俺と均衡する力を持つフィルとグラッジ、クローズに対抗できる学者脳を持つゼロ、頼もしい技術力を持つシルバー、力・知恵・器すべてが尊敬できるシンとシンバード領の仲間達、そして新たに仲間へ加わったシリウスとダリアの面々、彼等と同盟国の仲間がいればきっとどんな敵にだって勝てるはずだ。
試合を繰り広げた四人はそれぞれの健闘を称え合い、観戦していた仲間達から賞賛の言葉を貰い、今日のところは解散となった。
明日からはいよいよ本格的に最終決戦の準備を進めていかなければならない。試合以上に気を引き締めていかなければ。
=======あとがき=======
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