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【第334話】謎だらけの攻撃
しおりを挟む「次に僕が仕掛ける攻撃で決めさせてもらう。ガラルド君を真似るような手を打たせてもらうが許してくれ。僕は兄弟に負けたくないんだ!」
フィルが上空で浮遊したまま宣言している。俺を真似るとはどういう事だろうか? いつもみたいに飄々とした言い方なら混乱させる為の言葉かもしれないと疑えるのだが、今のあいつはいつになく真剣だ、本気で何かを真似てくるつもりなのだろう。
距離を活かした高威力の攻撃や高さを活かした射撃的な攻撃を繰り出してくるかもしれない……何がきてもいいように心も体も構えておくべきだと判断した俺は魔力を緩めることなくフィルを見つめ続けた。
しかし、意外にもフィルが作り出した紋章から放たれたのは降下速度の遅い、大量の綿みたいな物体だった。十数秒後には武舞台全体を球体状に覆いそうな綿が近くへ降りてきてもやっぱりただの綿にしか見えない。
だが、素材図鑑を持つ俺でも綿の正体が分からない以上油断はできない。フィルが作り出したオリジナルの植物である可能性もあるし、毒性や麻痺性を含んでいる可能性もある。
俺は綿が完全に武舞台全体に降りてきてしまう前に少しでも分析して情報を集めるべきだと考え、とりあえず綿に向かって攻撃を仕掛けることにした。
「不気味な綿の正体が何なのか確かめさせてもらうぜ、ファイアーボール!」
俺の手から放たれた火球は綿に向かって一直線に飛んでいった。火球とぶつかった綿はどんな反応を起こすのか固唾を呑んで見守っていると、その反応は俺の想像を遥かに超えたものだった。
なんと火球が触れた瞬間、綿が超スピードで膨張して爆発を起こしたのだ。その爆発は火球が触れた綿の周囲にも広がっていき、まるで連鎖爆発……粉塵爆発のように範囲を拡大していく。
「ま、まずい、爆発がここまで……ぐわぁぁ!」
綿の爆発は火球の触れた位置から上下左右に広がっていき、俺は避ける暇も無く爆撃を一発貰ってしまった。俺の体は凄まじい爆風によって背中から叩きつけられ、衝撃によって一瞬視界がチカチカして、眩暈を起こしてしまう。
――――フィル一点追加! 合計7ポイント!――――
ぼやける頭にシリウスのコールが飛び込んでくる。自分で自分の頬を叩き、無理やり意識を覚醒させた俺は追撃を恐れてフィルの方を向いた。しかし、フィルは爆発を重ねてくることもなければ自身で追い打ちをかけてくることもなかった。
綿の全てが武舞台を覆うように降下し、フィルも前方10メード程にまで近づいてきたところで奴は脅しをかけるように綿の性質を語り始める。
「ガラルド君が身をもって体験した通り、武舞台全体を覆う大量の綿は高熱によって爆発する植物だ。まぁ、粉塵爆発のようなものと思ってくれたらいい。つまり何が言いたいかというとガラルド君の最強形態と言ってもいいレッド・モードが使えなくなったという事さ」
「なるほどな、俺を倒すにはピッタリな技という訳か。だが、こんな危険なものを武舞台全体に撒いてしまってもいいのか? 俺がその気になればフィルに近づいてから爆発で共倒れする事も出来るんだぜ?」
「フフフ、大陸の英雄ともあろうガラルド君が、まるで盗賊や誘拐犯みたいな台詞を言うんだね。でも、止めておいた方がいいよ。引き分けなんて面白くも無いし、僕が遠隔の火炎魔術でガラルド君の周囲だけを爆発させるかもしれないよ?」
「嘘はよくないぜ、フィル。引き分けなんて嫌だって言葉は本音だろうけど、遠隔の火炎魔術で俺だけを爆発に巻き込むって言葉は間違いなく嘘だ。もし、それが本当ならフィルが高い位置にいる段階で俺の周囲だけをひたすら爆発させ続けるだけでいいはずだからな。多分、この綿は超高熱でしか爆発させられないんじゃないか?」
「……あー、やっぱり慣れない嘘はつくものじゃないね。そうだよ、ガラルド君の言う通りさ。僕には綿を生み出す技はあっても、綿を爆発させる高熱は生み出せない。そもそも火属性魔術の適性がないからね。だけど、この綿の用途が爆破のみと思わない方がいい。これから綿の真骨頂を見せてあげるよ」
フィルは口角を片方だけ上げて自信満々に宣言すると、長剣程度の長さまで短くしたバンブレを両手に持ち、剣先を中心に向けるオーソドックスな構えを見せた。ここにきて随分とシンプルな戦闘スタイルを繰り出すようだが、何を考えているのだろうか?
レッド・モードが使えなくなってパワーとスピードが落ちた俺ならシンプルな攻撃でも倒せると踏んでいる可能性もあるけれど『綿の真骨頂を見せてあげるよ』と言っていたフィルを信じるなら別の狙いがあるはずだ。
分からない事がある以上、今の俺が取れる最善の策は最悪の事態を避ける事だ。その為には武舞台全体に浮遊している綿を遠ざける必要がある。俺は全身に魔力を練り、全方位へ魔砂を解き放った。
「綿が無ければフィルの作戦は上手くいかないんだろ? だったら全部場外へ吹き飛ばしてやる。いけっ! サンド・ストーム!」
俺は本来守りに使うサンド・ストームをいつもとは逆回転にし、力の向きも逆にすることで綿の拡散を狙った。しかし、どういう訳かサンド・ストームの動きが重くなってしまった。それに加えて吹き飛ばして綿が無くなったスペースへすぐさま他の綿が寄ってきてしまう。
俺は必死になって綿の性質を分析していたが考えが纏まるよりも先にフィル自身が俺に斬りかかってきた。考えるのは一旦後だ、とにかく今は目の前のフィルを迎撃しなければ。俺は両手に回転砂を纏わせて、双纏状態でフィルの二刀流に応戦する。
「ハハハ、ただの双纏形態で僕の攻撃が防げるかなァ? ほら、腹のガードが甘いよ!」
フィルは今日一番の楽しそうな笑顔……いや、狂気的ともとれる笑顔で攻撃を繰り出している。だが、肉弾戦なら俺だって負けていない。
バンブレを捌いて、拳撃を喰らわしてやると真っ向勝負を受けて立ったが、何故かフィルに動きが悉く読まれてしまい。俺はバンブレの一撃を横腹に貰ってしまった。
「グアァッ!」
フィルの一撃で床に転がった俺は急いで立ち上がって態勢を整える。シリウスがフィルの加点をコールし、これで7―8に逆転されてしまった。フィルは立ち上がった俺に追撃を与えるべく、手数の多い連続突きを放ち、俺はそれを動きの悪い回転砂でどうにか防ぎ続けた。
さっきから魔砂は重たいし、動きは読まれるし、どうなっているのかさっぱり分からない。とにかく今は加点されないように防御を重視して考える時間を作らねば。
近接戦闘が始まり40秒ほど経った頃だろうか? フィルの剣撃にどうにか対応できるようにはなってきたが、このままでは先に俺がスタミナ切れを起こすか場外へ押し出されてしまいそうだ。
それをフィルも分かっているようで、奴はクリーンヒットを狙うのではなく、場外への押し出しを狙った攻撃に切り替えてきた。
「ほらほら、ガラルド君! このままじゃ場外負けだよ? 砂が重くなった理由も、動きが読まれる理由も解明できないまま、君は負けてしまうのかい?」
=======あとがき=======
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