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【第332話】ガラルドだからできること
しおりを挟む「僕がバンブレで放つ攻撃はシンプル過ぎるぐらいにシンプルだから特性を知られても問題ないよ。それじゃあ早速奮わせてもらうよ、ガラルド君ッ!」
あまり大きな声を出すタイプではないフィルが珍しく叫びながら魔力を高めた。そして、円柱植物バンブレを両手に一本ずつ掴んで勢いよく引っこ抜いた。
騎乗槍の7,8倍はあるであろう馬鹿げた長さのバンブレを双剣のように持っている姿も異常だが、驚かされたのはそれだけではなかった。
フィルの体から細長い魔力の糸が飛び出しており、その全てが他のバンブレに繋がっているのだ。この状態が意味するところは全てのバンブレを攻撃に使うということだ。
フィルは顎から汗が落ちるほどに疲労しながらも笑顔を浮かべて呟いた。
「さぁ、バンブレ達よ、逃げ場のない狭い武舞台で思いっきりガラルド君を叩き付けろ!」
フィルが物騒な言葉を呟くと同時に地面に生えているバンブレの内の二本が幹を鞭のようにしならせて俺を叩きにきた。俺は慌ててバックステップで回避したものの、空を切ったバンブレの先端はあまりの速度で空気を叩き、強烈な破裂音を生み出している。
あれ程の威力を同時に繰り出されては捌き切るのは困難だ、俺は武舞台に広く撒かれたバンブレの位置を瞬時に把握するべく、魔力密度の低い魔砂を武舞台全体へとばら撒き、一番バンブレが密集していないポイントを探し出してから移動を始めた。
俺が移動している間にも近くのバンブレが俺を狙って叩きつけてきたが、サンド・ステップでジグザク移動を繰り返すことによりどうにか被弾を避けることに成功する。
だが、一番バンブレの少ない位置に行ったところでバンブレの攻撃が0になる訳ではない。フィルがバンブレを長くする可能性だってあるし、フィル自身が両手に持っているバンブレの攻撃も警戒しなければならない。
俺はどんなに速く、手数の多い攻撃がきてもいいように神経を全方位に集中して拳を構えた。そんな俺を見たフィルは薄い笑みを浮かべると、バンブレを振りかぶりながらこちらへと走り出す。
「バンブレが少ない位置に移動したのは良い判断だね。だが、それでも君に僕の攻撃は防げないよ、喰らえ、グリーン・ウィップス!」
自信満々に言い切るフィルの力は本物だった。地面に生えてあるバンブレだけの打撃とは違い、フィル自身が持つバンブレと近くの地面に生えているバンブレ二本による計四本の乱れ打ちは圧力が桁違いだ。
フィルが振るうバンブレを捌くことに手一杯になってしまった俺は左右から向かってくる自生のバンブレ二本を捌けず、肩と横腹に強烈な打撃を貰ってしまう。
「うぐぅぁっ!」
胃の中にあるものを吐き出してしまいそうな程の打撃は俺が吹き飛ばされた後も収まる事をしらず、うずくまる俺の背中に容赦なく連撃を加える。
――――フィル一点追加! 合計2ポイント!――――
シリウスが同点のコールをしているものの正直とてもじゃないが均衡とは言えない。仮にサンド・ストームで全方位の攻撃を防御しても、一点への破壊力が強すぎるバンブレではたちまち砂の防御に穴を開けられてしまうだろう。
仮に穴を開けられなかったとしても機動力に欠けるサンド・ストームでは周囲のバンブレから叩かれるだけの防戦一方となるだろう。ここはパワーとスピードを兼ね備えたレッド・モードでバンブレを喰らうのを覚悟のうえでフィルに近づくしかなさそうだ。
「一気に距離を詰めさせてもらうぜ。レッド・モード……レッド・ステップ!」
「そう来ると思ったよ、ガラルド君。だけど、近づかせるつもりはないよ! バンブレ・七刀流……ヘヴィ・レイン!」
俺は我が耳を疑った。二刀流ならまだしも七刀流なんて言葉は聞いたことが無い。でたらめを言ったのだと信じたかったが残念ながら奴の言葉は本当だった。
正確に言えば、フィル自身が手に七本のバンブレを持つのではなく、地面に生えているバンブレ自体が根元を足のように動かして俺を取り囲んだのだ。この事実が意味するところは今までみたいにフィルが持つバンブレ二本と地面の二本の合計四本の打撃ではなく、ほぼ二倍の手数となる七本の打撃がくるということだ。
「さあ、近づけるものなら近づいてみなよ、ガラルド君ッ!」
自信満々に言い切るフィルの力は凄まじく、俺は七本のバンブレを前に抵抗する力はなく、前進を止められ、瞬く間に四発の鞭撃を喰らってしまう。
シリウスはルールに則って三秒毎にフィルのクリーンヒットをコールし、あっという間に2―6になってしまった……だが、実際のところはポイントの何倍も打撃を貰ってしまっている。
クリーンヒットの加算は三秒以上間隔を開けなければいけないというルールに生かされているだけの状態だ。
ポイントで負けるのが先か、意識を失って負けるのが先か、地獄の二択が迫る中、何も打開策を思いつけない俺に場外から救いの声が飛んできた。
――――ガラルドさんにしか出来ない事を思い出して!――――
この声はリリスだ! 何かに気付いて欲しがっているリリスの叫びに、全身の細胞が活性化していくのを感じる。俺にしか出来ない事……俺だから出来る事……瞬きすらも長く感じるような極限の集中状態で俺は自身の過去を振り返る。
故郷を出て、肉体を鍛え、得意でもない地属性魔術の修練に励み、リリスと出会ってスキルを理解し、数多の強敵と対峙して技を閃き、旅先の厚意で質の高い修行をさせてもらい、イグノーラでの戦争で死闘を経験し、そして偉大な先輩達の過去を覗いて自身の理解を深める事が出来た。
そうやってひたすら支えられてきた俺が得たものは至ってシンプル……学びと工夫だ。
俺は思考が先か、動きが先か、自分でも分からないまま、両手を広げて魔力を解き放った。少量で低密度の魔力を込めた魔砂を武舞台全体に広げた俺は気が付けば目を閉じ、呼吸を止めて――――フィルの攻撃を全てギリギリのところで避けていた。
フィルは何が起きたのか分からず困惑しているようで、すぐさま手を止めて俺に問いかける。
「い、今、どうやって僕の連撃を避けたんだ? まるで、動きを先読みしたみたいに……」
フィルの問いに対し、まだ明確な答えを持っていない俺は自分なりに解釈して答えを返す。
「無我夢中だったから断言は出来ないが、恐らく俺は広げた魔砂を触覚の代わりにして全てのバンブレとフィルの動き出しを感知して攻撃を避けた……と思う」
=======あとがき=======
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