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【第331話】力と技
しおりを挟む「次は俺がポイントを取る番だ。行くぜ、フィル! レッド・ステップ!」
俺は二種の魔力に火の色堅を加えた全力のレッドモードを発動し、足裏に爆熱の砂を回転させる。ザキールとの戦いよりもずっと素早く力を増したレッド・ステップはフィルとの間に真っ赤な直線を作り出す。
「なんて速度だっ! 守れ! ペタル・レイヤー!」
フィルが叫ぶと、二人の間の地面から大きく派手な花が咲き乱れ、幾層もの花びらによる妨害壁が現れた。薄く見えるが恐らく一枚一枚の強度はかなりのものなのだろう。だが、そんなことは関係ない……俺は一気に勝負をつけると決めたんだ、全部の壁をぶち破ってやる。
足と右拳に極限まで魔力を集中させた俺は業火を纏いながら止まることなく花びらの壁を貫通してやった。前は見えないがすぐ先にフィルの気配を感じる……このまま一気に本体まで直進してやる!
「邪魔だァァッ! レッド・チャージ!」
俺はレッド・ステップで前方に高速移動している状態から更にもう一度力強く地面を蹴り出した。地面に飛び散る火の回転砂は一層激しさを増し、肉体は凄まじい速度で風を切っている。
まるで薄紙で作られているかのようにペタル・レイヤーをぶち破った俺の体は気がつけばフィルの目の前にまで来ていた。
「ば、馬鹿な僕のグロースが……ハッ! まずい、グリーン・セスタス!」
慌てたフィルは拳の先だけではなく両腕全体にグリーン・セスタスを巻き付けた。だが、慌てて魔力を練ったグリーン・セスタスでは既に勢いに乗っている俺の攻撃を止められるはずがない。
「いけぇぇっ! レッド・インパクト!」
俺はありったけのパワーを右拳に込め、フィルの胸目掛けて振り抜いた。両脇を締めて両腕と植物で胸を防御したフィルだったが、加速と回転を加えた俺の拳は両腕の隙間を貫き、フィルの胸へとめり込む。
「グアアァァッッ!」
断末魔とも呼べそうなほどに大きなうめき声をあげたフィルは体を大きく後ろへ飛ばし、転がりながら武舞台の端に仰向けになっていた。
――――ガラルド 一点追加!――――
シリウスがポイントをコールしたが、俺はポイントでの勝利ではなく、このまま場外へ落としてやるつもりだ。両手に魔力を込めた俺は武舞台を削る勢いで最大火力を解き放つ。
「そのまま外へ吹き飛んでしまえ! レッド・テンペスト!」
灼熱と超回転が入り混じった円柱状の高エネルギーが武舞台の表面を削りながらフィルに向かって進みだす。フィルは上にも横にも避ける余裕がなくレッド・テンペストに飲み込まれた。
「ぐっ、まずい、避ける暇がな――――ぐああぁぁっ!」
レッド・テンペストのエネルギーは地面と平行に進み続けて、観客席の下にある高い壁に突っ込んだ。自分で放っておいてなんだがフィルがあのまま壁に突き刺さってしまったのかが分からない。
立ち昇る熱と砂の煙が俺の視界を塞ぐ中、シリウスがコールする。
――――ガラルド 更に一点追加! 合計2ポイント!――――
視界が悪くて確認できないがシリウスがコールをしている以上、俺の放った渾身のレッド・テンペストがフィルに直撃したようだ。
逆に言えばレッド・テンペストが場外の壁にめり込んでいるにも関わらずクリーンヒット扱いになっているという事はフィルが場外に足をついていない証明にもなる。
俺は煙が晴れるまで全方位に警戒の糸を張り続けた。しかし、煙が晴れた後に360度見回してもフィルの姿が見当たらない。一応、真上も確認したがフィルは見つからなかった。
「ちっ、フィルはどこに隠れやがった……もしかしてこれはグロースとは違うスキルなのか?」
あらゆる可能性を考慮して緊張感を高めていた俺だったが、それは杞憂に終わる。何故ならレッド・テンペストを放った方向の場外からフィルの声が聞こえてきたからだ。
「奇襲を恐れているのだろうけど、心配しなくても僕は武舞台の外にいるよ。とは言っても場外に足はついていないけどね」
「なに? どういうことだ?」
俺は声だけが聞こえる状況に戸惑いながらも武舞台の端へと駆け寄った。すると、レッド・テンペストを放った直線状にある場外の地面に植物を突き立てて寝そべるフィルの姿があった。
武舞台自体が3メード程の高さがあるせいで死角となり場外の地面スレスレで姿勢を低くしているフィルに気が付けなかったみたいだ。
俺はレッド・テンペストを武舞台と平行する形で放った訳だが、フィルは今、武舞台の床より低い位置にいる……これの意味するところはレッド・テンペストを下側に避けられたということではないだろうか?
俺の不安を予測したのかフィルがあの時の状況を説明し始める。
「ガラルド君は今、レッド・テンペストでダメージを与えられなかったのでは? と思っているんじゃないかな? でも、目の肥えたシリウスがコールしているぐらいだし、ちゃんとクリーンヒットしているよ。今も僕の腕は痛いし熱いし大変な状況だよ」
「その飄々とした喋りでは効いているように思えないがな……。まぁいい、それより戦いが止まっている今のうちに教えてくれ。レッド・テンペストは当たったみたいだが、100%当たった訳ではないんだよな? その足元にある植物で真下へ移動したのか?」
「ビンゴ! 一度戦ったことがあるから勘が冴えているね。より正確に言えば、レッド・テンペストを両腕で防ぎながら、足元からフック状の植物を伸ばして場外の地面に引っ掛けて真下へ移動したというのが正しいね。レッド・テンペストを初めから終わりまで受けていたら、その時点で僕の負けは決定だよ」
やはり、レッド・テンペストは完全には当たっていなかったらしい。俺が早めに勝負を決める為に魔量を考慮せずに攻撃したのは間違いだったかもしれない。ポイントこそ2―1で俺が優勢だが、総合的には厳しそうだ。
フィルは説明を終えると、植物をバネのように弾ませて自身の体を武舞台へと戻した。それからフィルは更にグロースで粘り気のあるハーブ系の植物を作り出すと、自分の腕に巻き付けて、みるみるうちにレッド・テンペストで受けた傷を癒してしまった。
今回の戦いでは回復能力まで使ってくるのかと不安が増大してきたが、傷を癒した途端にフィルが息切れし始め、その理由を語り出した。
「今のはケアハーブと言ってね。見ての通り傷を癒す植物なのだけど、グロースで利用可能な状態まで育てるにはかなりの魔量を消費するし、成長しきったら一分ほどで枯れちゃうから保存も効かなくてね。レッド・テンペストを受けてしまったことがつくづく悔やまれるよ」
「なるほど、魔量を犠牲にする代わりに両腕の自由を取り戻したってわけか。レッド・テンペストを放って損をしたと思っていたが、失敗でもなかったようだな。状況は五分五分ってところか?」
「認めたくないけどそういう事になるかな……いや、ポイントで負けている分、僕の方が不利かもしれない。こうなったら体力と魔量を惜しまず戦って、ガラルド君に考える暇を与えないように攻めるしかなさそうだ。ここからは泥臭く行かせてもらうよ! 咲き乱れろ! バンブレ!」
フィルが叫びながら武舞台全体に種をばら撒くと、人の腕ぐらいの太さを持つ緑色をした円柱状の植物が二十本近く生え始めた。その植物に枝や花は一切なく、頑丈そうな緑の幹がただただ真上へグングンと成長している……何だか不気味だ。
緑の円柱植物全てが高さ15メード程に伸びたところでフィルはますます息を切らしつつ植物の特性を語り始める。
「ハァハァ……この植物はバンブレと言ってね。鉄鋼のような剛性に加え、細くしなやかな繊維を併せ持っているんだ。繊維が中心から外側にいくほど密度が高まっているおかげで並大抵の衝撃では壊れないし、受け流す力も持っている」
「話を聞く限り鞭みたいな植物だな。だが、いいのか? そんなにべらべらと特性を語っちまうと対策を講じられるかもしれないぜ?」
「僕がバンブレで放つ攻撃はシンプル過ぎるぐらいにシンプルだから特性を知られても問題ないよ。それじゃあ早速奮わせてもらうよ、ガラルド君ッ!」
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