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【第329話】魔人戦の想定
しおりを挟む「ガラルド君の魔力20000もグラッジ君の魔量30000も間違いなく大陸の人間の中で最強クラスだろう。だが、それでもアスタロトには遠く及ばない。君達の数値から逆算した私の見立てだとアスタロトの魔力も魔量もゆうに100万は超えているだろうからね」
シリウスが俺達の自信を粉々に砕きかねない事実を打ち明けた。桁が二つも違うような相手にどうやって勝てというのだろうか?
シンバード組の全員が言葉を失ってしまったが、シリウスには何か策があるようだ。突然近くの壁に立て掛けてあった謎の細長い箱を手に持ち、中から綺麗な細剣を取り出すと、それが何かを語り始めた。
「君達が束になっても敵わないようなアスタロトを倒すにはこのレイピアを使うしかない。これは記憶の水晶でも少しだけ名前が出ていた『レストーレ』というアーティファクトだ。私は過去に皇帝ヨハネスの扱う『変化の霧』に対抗するべくレストーレを使って戦ってきた。その戦闘では変化の霧を扱う全ての敵がレストーレにより大きく弱体化し、私達は勝利を収める事が出来た。君達にはアスタロトにレストーレを刺してもらってから戦いを進めて欲しい」
アスタロト陣営は魔獣の数こそ多いものの、強大な力を持つ相手はアスタロトとクローズとザキールぐらいだと思うから一本しかないレストーレでも何とかなりそうな気がしてきた。
正確にはザキール以外の魔人が仲間として数人いる可能性も否定は出来ないが、それでもザキールぐらいの戦闘力なら精鋭で取り囲み、順番に各個撃破さえ出来れば勝てる見込みはあると思う。
問題はレストーレの能力である『補助魔術や補助アイテムなどによってもたらされた強化を減衰する』効果がどの程度効いてくれるかだ。この点はかなり重要になるからシリウスに尋ねておこう。
「大体でいいから教えてくれシリウスさん。アスタロト達にレストーレを刺せば戦闘力をどのくらい減衰させることが出来て、どのくらいの効果が持続するんだ?」
「申し訳ないが分からない……としか言えない。変化の霧を使うヨハネスの部隊にレストーレを刺した時も減衰率はバラバラだった。それは個人の抵抗力による違いなのか、変化の霧をどれだけ使っているかの違いなのか、結局のところは分かっていない。ただ、霧の力を多く使っているほど減衰率が高くなるのなら合成の霧によって大きくパワーアップしているアスタロトはかなり弱体化するはずだ」
「弱るはずだ……か。戦争でアスタロトと鉢合わせるかどうかも運だし、モードレッドが裏切るかどうかも分からないし、レストーレが効くかどうかも運なわけか。最終決戦は不確定要素が多過ぎるな」
「正直、返す言葉も無い。だが、アスタロト達に負けてしまえば、その時点で大陸の人類は終わりとなるし、シンバードがモードレッドに負ければ帝国の完全支配が始まってしまう。とにかくやるしかないんだ」
シリウスの言う通りだ。負けたら終わりの最終決戦なのだから不確定要素が多くなるのも覚悟のうえでやれることをやり尽くすしかない。今はレストーレが上手く効いた後の事を考えよう。
まずは確実にレストーレを当てて、当てた後は強い個人戦力で周囲を囲み、ダメージを与える必要がある。アイ・テレポートが一番レストーレを刺すのに向いているとは思うが、リリスはシンの護衛を担当する関係上、死の山へ遠征している時にアスタロトと遭遇してしまったらリリスの力は借りられないことになる。とりあえずシリウスに戦いについて意見を仰ごう。
「死の山でアスタロトに会ってしまったら、その場にリリスがいない訳だが、どうやって奇襲をかけてレストーレを刺せばいいだろうか?」
「それに関しては幾つか方法を考えてある。決戦が近くなったら改めてシミュレーションしながら語る事にするよ。それよりもレストーレを刺した後の方が重要になる。魔人であるアスタロトを倒し切るには魔人の体質を考慮するに『連撃と追撃』が重要な要素となってくる」
「体質? 連撃と追撃? どういうことだ?」
「記憶の水晶でアスタロトが言っていた言葉を思い出してくれ。魔人という種族は『体力・魔量の回復速度が人間の十分の一程度まで遅く、抵抗力も弱い』と言っていただろう? レストーレは変化の霧で強化されたヨハネスの私兵ですら長時間弱体化させることに成功したという実績がある。ならば魔人はそれ以上の時間弱体化する可能性が高い。だから戦争中に体力・魔量を回復させたり、弱体化を解いたりするのは難しいはずだ」
「なるほど、レストーレを刺して魔力と魔量の最大値が下がったタイミングから精鋭が間髪入れずに攻撃を加え続けることで倒し切るのが狙いか。いい作戦だと思うぞ」
「一番強いガラルド君にお墨付きをもらえて嬉しいよ。それじゃあ我々の作戦は決まりだな。他にも風魔術が使える魔術師を大量に配置してアスタロトが飛んで逃げないように風の檻を作る作戦を考えていたりと話し合わなければならないことが多々あるが、とにかく大筋は今、話した通りだ。各自、名一杯特訓とシミュレーションを重ねておいて欲しい。続いて、戦闘訓練についてだが――――」
「ちょっと待ってシリウス! 私の考えを聞いて欲しいの」
リリスが何故かシリウスの言葉を途中で遮った。敬語じゃないリーファは沢山見てきたけれどリリスが敬語を使ってないところを見るのは久しぶりだなぁ、なんてどうでもいい事を考えていると、リリスが鞄から色々な植物を取り出して話を進めはじめる。
「これを見てシリウス。この植物は全て七恵の楽園で頂いたものなの。それぞれ魔力制御を狂わせる花を『コンフ』 纏っている魔力を離散させる花を『ヴァリアン』 物質と物質を合成させる樹液を『ミクスード』と言うのだけれど、三色の霧やレストーレの話をしていて、この花々を思い出したの。どうにかレストーレみたいに利用できないかな?」
「七恵の楽園の存在自体はガラルド君達が謁見の間に来る前にシンから話を聞いていたが……まさか、そこまで凄い植物があるとは。どことなく三色の霧が七恵の楽園にある植物から着想を得たのではないかと思えてくるな。まぁ直接クローズに話を聞かなければ分からない訳だが。素晴らしい植物を教えてくれてありがとうリリス。早速ゼロ君とダリアで技術協力しつつ、有効利用できないか考えてみることにするぞ」
もし俺達がアスタロトへ加える攻撃に『魔力制御を狂わせるコンフ』『魔力を離散させるヴァリアン』を付加する事が出来れば大きな力になりそうだ。
その方法が俺にはさっぱり思いつかないが、ゼロとダリアの技術者が力を合わせれば何とかなりそうな気がする、頑張ってもらいたいところだ。
色々な事を話し合って、より明確に最終決戦のビジョンが浮かび上がってきた。二つの魔日が重なり合う日が決戦の日となることを各国に通達したり、戦争の準備を進めたりとやる事は山積みだが時間は沢山あるから一つ一つ片付けていくことにしよう。
話も一旦区切りのいいところまで進んだから「それじゃあ一度解散しようか」と俺が声をかけると、シリウスが制止をかけ、面白い提案を始めた。
「解散する前に一つ、私から合同訓練を提案させてくれないか? 折角、ガラルド君、グラッジ君、シン、フィルと精鋭が揃っているんだ。模擬試合を行って刺激し合おうではないか」
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