上 下
325 / 459

【第325話】追放者を集める理由

しおりを挟む


 大陸会議を終え、過去視を体験し、新たなディアトイルの誕生を見届けてから早三日  俺達ガーランド団はシンバードに帰ってきていた。俺はストレング達に会って色々と報告したいと思い、まず最初に仲間達とギルド『ストレング』へ向かった。

 ギルド内にはストレングを含む多くの仲間達が雑談をしていて、俺達がギルドに入ってすぐにわらわらと駆け寄ってきてくれた。十日ほど前にギルド『ストレング』の面々と話をしていたはずなのだが、ディアトイルでの数日間が濃厚過ぎてなんだか久しぶりに会った気分だ。

 ちょうどシンバードに来ていたアイアンやパープルズの面々と会話をする時間もあり、旅の話で盛り上がっていると、突然一人の兵士がギルドの扉を開けて敬礼をすると、俺に報告を始めた。

「失礼します。宮殿の王の間にガラルド殿の来客が二名来ております。一人はシリウス様、もう一人は……本名を名乗らずローブマンというふざけた偽名を名乗っています。文字通りローブを羽織って顔を隠しているので断言は出来ませんが、声と背丈から察するにコロシアム準優勝の彼かと」

「なっ……ローブマンだって? 分かった、すぐに向かう」

 久々にローブマンもといフィルと会えるのは嬉しさ半分、恐さ半分と言ったところだろうか。俺と同じでディザールの手を加えられた子供ではあるが、ディザールの子供三人の内、俺とザキールは対立する関係になっているうえに、フィルが人類の味方とはまだ断言する事は出来ないからだ。







 息切れする程に急いで宮殿の王の間へ駆けつけると、そこにはシンとシリウスと談笑するフィルの姿があった。フィルは俺の顔を見ると、フードを捲って満面の笑みを浮かべながら声をかけてきた。

「久しぶりだね、ガラルド君。どうやら君達ガーランド団は僕のアドバイス通りにイグノーラへ行って、全てを知ったようだね」

「ああ、五英雄の事や死の山の現状、ワンあらためクローズのことなど色々な事が分かったぜ。まぁ、正確には大陸南での冒険を終えて、シリウスさん達に教えてもらった情報も多いけどな」

「ふふふ、そうみたいだね。でも、実際に死の山を見たり、死の海を越えたり、イグノーラに触れないと事の重大さが分からなかったと思うから、やっぱり君達を大陸南へ行かせたのは正解だったと実感したよ、君達の逞しくなった姿を見て確信が持てる」

「褒めてもらって光栄だが、同時に複雑な気分だな。お前は俺と同じディザールの細胞を埋め込まれている兄弟の様な存在だが、俺よりずっと強そうで何もかも分かっているようだし、現状だと完全に味方かどうかも分からないからな。今日はどういう用件でここへ来たんだ? フィルは俺達シンバード領の味方なのか?」

 俺がフィルの事を少しだけ疑っているのには幾つか理由がある。コロシアムで話をした時に奴は終始『ガラルド君の味方だよ』と言ってくれていたけれど『人類の味方なのか?』と問いかけた時には『ガラルド君の味方とだけ言っておくよ』とお茶を濁された事がある。

 一応、帝国で大陸会議が開かれた際にモードレッドからフィルの話を聞いた時には『危険な魔獣を倒して帝国を助けてくれた』と言っていたから悪い奴ではないと思いたい。その時何故フィルが帝国にいたのかも気になるところだ。

 それに、フィルは俺と違ってシルフィが亡くなった後からアジトで育てられた子供の筈だから、ディザールやクローズの思想に染まっているのでは? とも疑ってしまう。

 俺の問いかけを受けたフィルは薄っすらと笑みを浮かべると、シリウスの横へ行き、シリウスの服の右袖を捲ると同時に自身の服の左袖を捲った。二人の肩にはそれぞれ硬貨より少し小さめの菱型の模様が刻まれていた。

 あれは恐らくダリアであることを示す刻印だ。フィルは刻印を見せ終えると、今度はリリスの方を見ながら俺の問いに対する答えを返す。

「この刻印を見てもらえば分かる通り、僕はダリアの一員だよ。と言っても他のメンバーのようにアジトに根を張って活動するタイプじゃなかったけどね。僕がコロシアムに来ていたのは目ぼしい人材がいないか探しに来ていたからなんだよね。だけど、まさかディアトイルから一生出ないと踏んでいたガラルド君に加えて、リーファの生まれ変わりとしか思えない女神がシンバードにいるとは思わなかったよ。リリス君の太腿の痣を見た時は流石に我が眼を疑ったよ」

「ちょ、ちょっと待ってください! ダリアの一員だという事は理解できましたけど、どうして私の太腿の痣を知っていたんですか? 誰にも見せていなかったのに……もしかして、着替えを覗き見していたんじゃ……」

 覗き見はともかくリリスの疑問はもっともだ。俺がリリスに初めて太腿の痣の事を教えてもらったのはジークフリートでジエードが亡くなった日の夜の事だから鮮明に覚えている。

 犬のように唸りながら警戒するリリスを前にフィルは肩をすくめながら理由を語る。

「着替えを覗き見だって? 僕を君の様な変態さんと一緒にしないでほしいね。僕は君の痣を見つけたのは偶然だ。君は確かコロシアム本番前はずっと体力トレーニングをしていただろう? その時、暑がる君が日陰でだらしなくショーツをバタバタと開いていたのが目に入ったんだ。その時に太腿の痣が見えただけさ」

「なっ! 女神の私がそんな品の無い動きで涼むわけがないじゃないですか! め、め、名誉棄損ですよ!」

「はぁ……教えてくれシリウス。リリスの前世もこんなお馬鹿キャラだったのかい? だとしたら同パーティーの君は苦労しただろうね」

「……うむ、大体こんな感じだったな。女神になって変わったのは髪色だけらしい。まぁ、髪色すら記憶と共に人間の頃に戻ったが」

「ちょ、ちょっと! 二人で話を進めないでください!」

 最近、リリスの恥ずかしがる姿を見る事が多くなってきた。こんな性格で二つの人生を生きてきたのだから、恥ずかしい部分が多くなってしまうのも仕方がないのかもしれない。

 この後、フィルが「ジャッジメントで証明してもいいけど?」と追い打ちをかけるとリリスが「すいませんでした……」と謝り、一旦事態が収拾したところで、シリウスがフォローを入れた。

「まぁまぁ、そんな話はどうでもいいじゃないか二人とも。リー、リリスの痣の話をしたのは見つけられた理由を話したかったというのもあるが、痣が残っていた事実が嬉しかったから話したという側面もあるんだ。分かってくれ、リリス」

 言葉の意味が分からなかった俺は「え? どういうことだ?」とシリウスに尋ねると、彼は準を追って説明を始める。

「リリスは前世の記憶を失ってもダリア、神官、五英雄としての善の心を忘れていなかったと言いたいのさ。ガラルド君が誘われた時も追放者のような弱い立場の者を守りたいと躍起になっていたのは前世の悔いが本能的に強く残っていたのだろう。それに女神になると記憶が綺麗に無くなって体の傷なども全て消えるはずなのに残っていた件もそうだし、木彫り細工という物体そのものに魂が宿っていたのも前世の執念が為せるものだと思うんだ。だから残った痣は想いの強さであり、魂の継承なのだよ」

 そう説明されるとリリスの気持ちの強さが改めて実感できる。強い意志を持つリリスがいたからこそ、俺は今も生きられていて、シンバード領の仲間達に囲まれた最高の居場所を作る事が出来ている。

 シリウスに褒められて頬を赤く染めたリリスは体を俺の方へ向けて、昔の言葉を掘り返した。

「ガラルドさんは覚えていますか? ガラルドさんやシンさんから『追放者を集める理由』を聞かれた時に『答えたくない』と言ったことを」

「ああ、披露会の時も言っていたし、シンバードの宿屋でも言っていたな。俺は誰にでも秘密の一つや二つはあるだろうから深く追求するのは良くないと思って止めておいたが」

「あの時に私が『答えたくない』と言ったのは目的が漠然としていたからなんです。女神として人類の為に働くという目的はありましたが、痣を見る度に胸がざわついたり、理不尽な目に合って困っている人に居場所を提供したいと思う強い気持ちの出所が分からなかったんです。それが性根や気質と思い込めば楽だったとは思うのですが、胸のざわつきと前世の薄すぎる本能的な記憶が拒んだのだと思います」

「そうか、リリスは俺と出会う前、いや、女神として生まれた時からずっと自分の心と向き合って戦っていたんだな」

 追放者を集める女神なんてきっと世界にリリスしかいない稀有な存在だと思っていたが、ようやく納得がいった気がする。リリスは『リーファとしての善の心』と『ダリアとしての行動基準』が混ざった状態で生まれ変わったのだろう。

 リリスとリーファが改めて繋がった気がしてスッキリとした気分になっていると、フィルが更に自身の事を話し始める。

「僕がガラルド君達と接触した理由を話した事だし、次は僕が生まれてから今日までどんな生き方をしてきたのかを話そうかな」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...