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【第322話】二つの魔日

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「クローズが撒いた悲劇と災禍の種は大陸全土を揺るがしている。故に我々の大陸を守るには死の山の魔獣群を討ち、アスタロトとモードレッドを止め、クローズを倒さなければならない」

 シリウスの熱のこもった言葉はきっと全員の胸に強く響いた事だろう。

 俺は『ディアトイルの地位を向上させたい』『差別のない世界で胸を張って歩きたい』『俺を捨てた両親に会いたい』という想いだけで故郷を出たが、いつの間にか大陸を救う規模の戦いに足を突っ込んでいる。

 リリスと出会って大陸の魔獣活性化を何とかしたいと思うようになり、シンと出会ってシンバード領という第二の故郷ができ、サーシャやグラッジ達と出会って仲間の夢を叶えたり悩みを解決してやりたい想いを抱く事が出来た。

 後は俺達の望みを叶えるうえで障害となるクローズ達を倒すだけだ。俺はガーランド団代表として、これからどう戦っていくべきかをシリウスに尋ねる。

「ここからはガーランド団代表として、ダリアの代表であるシリウスさんに聞きたい。俺達はこれからどうやってクローズ達と戦っていけばいい?」

「過去の話が終わった途端、早速リーダーの顔になったなガラルド君。頼もしい限りだ。クローズ達とどう決着をつけるかだが、至ってシンプルな話だ。まずは魔獣群を使役する二つの勢力を大陸各国と協力して倒す事だ」

「二つの勢力? 死の山を中心に魔獣群があることは分かるが、二つに分かれているのか? 魔獣の集落を見た俺達には違いが分からなかったが……」

「魔獣や魔獣集落を見て判断した訳ではないぞ。二つの勢力というのは八十魔日はちじゅうまじつ九十魔日きゅうじゅうまじつの事だ。この二つは一定周期で襲い掛かってくる軍隊のように統率がとれているだろう? 私はその二つをそれぞれアスタロトとクローズが指揮していると予測している」

「……なるほど、それで二つの周期があったんだな。魔人のアスタロトはともかく、ワンに転生して人間になったクローズは死の扇動クーレオンを使えないんじゃないか……とも思ったがザキールがいれば可能だろうな」

「多分ガラルド君の言う通り、ザキールが魔獣を動かしているのだろうな。いや、もしかしたら我々の知らない他の魔人が手を貸している可能性も考えておかねばな。イグノーラへ最初に攻めてきたディアボロスという前例もあるのだからな」

 ディアボロスの名を出されて俺はウンディーネさんの言葉を思い出した。確か、ウンディーネさんはアスタロトと一度だけ接触したことがあって、その際に色々な事を尋ねたはずだ。

 過去にウンディーネさんがアスタロトに魔人の事を尋ねた時にあの男は


――――私は片手で数えられる程の魔人としか組んではいない、魔人は大半が俗世に興味もなく閉じこもっている奴ばかりだ。強いクセに人間に見つかるのが恐くて集落に引きこもっている――――


 と言っていた筈だ。この言葉をそのまま信じるならアスタロトを含めて最大六人の魔人が敵となる可能性がある。それだけの人数が死の扇動クーレオンを使ったら、魔獣群の厄介さも相当なものになりそうだ、最悪のケースを想定しておかなければ。

 長い間分からなかった魔日の事が分かって良かったが、今度は別の疑問が湧いてきてしまった。それはクローズ達がわざわざ定期的に魔獣群を率いて町を攻めている理由だ。早速、シリウスへ聞いてみることにしよう。

「知っていたら教えてくれシリウスさん。何故クローズ達は確実に勝てるわけでもないのに魔日で定期的に魔獣群をけしかけてくるんだ? これじゃあ手駒を失って痛手じゃないか?」

「いいところに気がついたなガラルド君。これはダリアが行っている最近の研究で分かったのだが、魔日で襲ってくる魔獣はほぼ全てが老体なんだ。これが何を意味しているか分かるか?」

「死の山の魔獣は各場所に散らばる大穴の集落で管理されていることを考慮すると……もしかして、繁殖する力も無く、先の長くない老いた個体をぶつける事でクローズ側への損失を無くしつつ、人類側にダメージを与える事が目的なのか?」

「その通りだ。死の扇動クーレオンで一度に操れる数は限られているから大群を送り込めないというのも理由としてあるが、同時に定期的な老体処理という名目もあるんだ。これを人間に当てはめたら恐ろし過ぎる統治だろう? 奴らにとって人間が一番の悪ではあるが、かといって魔獣の事を大切にしている訳でもない。調律なんて言葉を使っているが結局、魔獣ですら目的を達成する為のツールでしかないのだよ」

 良く言えば合理的、悪く言えば冷徹な作戦だ。魔獣達を倒そうとしている俺達が偉そうに言える事ではないが、それでも俺達は魔獣の事を生存競争のライバルとして見ているし、残った死体も有効に使い、食物連鎖に近い形となるように日々努力している。

 でも、クローズ達は人間が嫌いで、魔獣の事も大切にはしていない。彼らが本当に大切にしたいものは何なのだろうか? クローズはサラスヴァ計画さえ達成できればそれでいいのだろうか? いや、人類を殲滅させようとしているアスタロトの望みが叶えば、サラスヴァ計画どころの話ではなくなるはずだ、そもそも進化どころか人間すらいなくなるのだから。

 アスタロトやクローズの真の目的を理解していた気になっていたが、まだ全てを理解した訳ではない気がする。彼らと直接話せば分かるのかもしれないが、それはきっと最後の戦いの時になるだろう。

 とにかく俺達は魔獣群との戦争に勝たなければいけない。俺は再度、戦い方をシリウスへ問いかける。

「それじゃあ俺達は大陸会議で決まった通りに死の山へ攻め込み、アスタロト達を倒し、魔獣群を殲滅させればいいわけか?」

「それは概ね正しいのだが、同時にバランスを考えて戦わなければならないから、そう単純な話でもないのだよ。大陸は今、ざっくりと分けて三つの陣営がある。一つはアスタロト陣営、二つ目はシンバードを中心とした同盟陣営、そして、一国単位では大陸で一番の軍事力を持つ帝国陣営だ」

「えっ? ちょっと待ってくれ。帝国だって同盟陣営だろ? シンバードや他の国々と一緒に死の山へ攻め込むって大陸会議で約束したんだぜ?」

「だが、それはあくまで死の山での戦争に限った話だ。全ての国が自国の戦力・人手に余裕を持たせる為に死の山へ送り込む人数は減らすと大陸会議で取り決めたのだろう? もし同盟陣営がアスタロト陣営と全力でぶつかり合って勝利しても、疲弊したところを帝国陣営に攻められたり、シンバード本国を狙われれば終わりだ。今、世界で一番勢いに乗っているのはシンバードだからシンバードが落とされることは帝国陣営の時代になることを意味するだろうな」

 普通の国なら道理の通っていない戦争を吹っかけてくることはしないと思うが、度々大陸則たいりくそくを守らなかったり、非人道的な行いをしてきた帝国なら手薄になったシンバードに攻めてくる可能性もありそうだ。

 ましてや、今の帝国はアーサーが亡くなりモードレッドが頂点になった訳だし、勢力拡大という意味でも近年、帝国はシンバード領に負けないぐらい勢力を広げている。

 大陸北半分で考えれば初めてリリスと出会ったヘカトンケイルも帝国の管轄だし、ジークフリートだって危うく帝国の駒になりかけていた。ざっくりと計算して今のモンストル大陸における戦力分布はどんな割合なのだろうか? シリウスに尋ねてみよう。

「ざっくりとでいいから教えてくれシリウスさん。今のモンストル大陸だと三つの陣営の戦力割合はどのくらいなんだ?」





=======あとがき=======

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