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【第317話】心の声

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「ちょっと待って! ガラルドちゃんの首に三角の斑点が見えるよ! これは……心臓を蝕むプロディ病に罹ってる!」

 リーファが赤ん坊の俺が入った容器へ顔を近づけて病名を呟いた。俺が小さい頃に病気を患っていた事実に驚いたが、それと同時にプロディ病という病に若干聞き覚えがあるように感じていた。

 思い出せそうで思い出せない感覚にモヤモヤしていると、答え合わせをするようにリーファがプロディ病について語りはじめる。

「プロディ病はプロネス病の亜種とも言うべき厄介な病気なの。どんな風に厄介か説明すると安静にして治療を続ければ治るプロネス病とは違ってプロディ病は完治させる方法が存在しないの……」

 顔を真っ青にしたシルフィはリーファの両肩を掴んで揺らしながら詳細を尋ねる。

「プロネス病って先天性の病気で体を動かすと発熱しちゃう病気でしょ? それよりも厄介な病気って事はもしかしてガラルドちゃんは……」

 最悪の想像をしているシルフィにトドメを刺すようにリーファが残酷な事実を告げる。

「心臓が激しく動き続け、高熱はどんどんと上昇していって最後には死んでしまうの……」

「そ、そんなことって……うぅ……」

 シルフィが両膝を床に着き、倒れるように泣き崩れてしまった。

 俺が母エトルの血を継いでいる以上、病気になってしまうのも納得せざるを得ない。思えばディアトイルでの幼少期も俺は体が弱かった方だと村長に聞いたことがある。

 双子でも全然似てない二人が生まれるケースもあると聞いたことがある……どうやら俺はグラドどころかグラハムにすら似ておらず、かなりエトル寄りに生まれたみたいだ。

 赤子の亡くなる未来を想像して絶望するシルフィだったが、いきなりカッと目を開いて勢いよく立ち上がり、リーファに質問を投げかける。

「ま、まだ望みはあるよね? だってガラルドちゃんは『ナフシ液』にさえ浸かっていれば仮死状態のままなんだから心臓が動くこともないもの。このまま仮死状態を維持し続けて、何年も医学の発達を待ち続けて治す方法を見つけられた後にナフシ液から出してあげれば――――」



――――悪いが、ガラルドにも君達にも未来はない――――



 必死なシルフィの想いをかき消すかの如く、突如窓の方から男の声が聞こえてきた。この声を俺は嫌になるほど聞いてきた、俺が視線を向けるとそこには案の定クローズが立っていた。

 気配を消して空き家に入っていたクローズは窓の全てを地属性魔術の岩で塞ぎ、外の景色が見えないように細工した。恐らくリーファのアイ・テレポートで逃走されるのを防ぐためだろう。

 涙を急いで拭ったシルフィはクローズを睨みつける。

「いつから聞いていたのクローズさん? ディザールの代わりに私を運んだのは今日の計画に気付いていたからなの?」

「初めて二人でカンタービレへ行った日から何となく怪しいとは思っていたけど、リーファ達と繋がっているのは知らなかったよ。だから、以前からカンタービレを含む、各町の怪しそうな場所や人間がいないか調べておいたんだ。空き家こそ早い段階から見つけられたものの、結局顔を隠し続けていたリーファ達を見つける事が出来なかったが、シルフィのおかげで今日ようやく見つける事ができたよ」

「じゃあ、もしかしてカンタービレへ着いた途端に急いで東へ飛んでいったのも……」

「ああ、カンタービレ内でも怪しい箇所は絞れていたからね、先回りした訳さ。街の入口から長々と尾行するとシルフィさんに気付かれる可能性が高いからね。まぁ、運よく早い段階で君達を見つけられたからよかったよ。おかげで最初から君達の話を聞くことができたよ」

「最初から……って事は私が情報を流す部分を敢えて見逃していたという事だね。わざわざ見逃してくれたのは情報を知られた後でも私達を確実に殺しきれる自信があるからってこと?」

 シルフィは肩をこわばらせ、杖をギュッと握りしめながら尋ねた。しかし、クローズは即答する事はなく、頭を悩ませて暫く唸り続けていた。

 いつものクローズなら飄々とした態度で肯定しそうなものだが、言葉を選んでいる様に感じる。そして、クローズは明確な答えが出ないまま、シルフィの問いに答える。

「個人の力なら魔人である私が間違いなく一番強いが、それでも君達は五英雄と呼ばれる強者だ。誰かに足止めをされたら仕留めきれずに逃げられる可能性もあるだろうね。だけど、君達が再会を喜び、会話を弾ませている様子を見て何故か私は邪魔したくない気持ちになっていたんだ。だから、友達同士の話から逃亡の話に変わるまで口を出さずに待っていたんだ。アレ? 私は何を言っているんだ? アスタロトの友達だから情が移ったのか?」

 クローズを傍から見ていると、まるで心が二つあって葛藤しているかのようだ。その不安定さに敵ながら心配になってきた。もしかしたらクローズに人間らしい気持ちが生まれつつあって、自分の心の変化に気付けていないのだろうか?

 そんなクローズの不安定さに気付いたシルフィは優しい声色で語り掛ける。

「それってディザールの大切な友達である私達を大事にしなければって気持ちが湧いてきたんじゃないかな? もし、クローズさんがディザールの気持ちを最優先にしてくれるなら私達を殺さないで欲しいの。そして、これからは研究を捨て、誰も傷つけず、静かに暮らして欲しい。お願いできないかな?」

「……悪いが、サラスヴァ計画を捨てる事だけはできない。それが、例えディザールの親友を消す事になってもだ。ましてやダリアとかいう組織は私にとって脅威になる可能性もある。最悪でもシリウスとリーファだけは絶対に殺す。そして、シルフィさんは掴まえて今後二度と死の山のアジトから出さないようにする。リーファとシリウスを殺す事に関しては後でアスタロトに死ぬほど謝る事にするよ」

 さっきまで焦点の合ってない目で自分の心と葛藤していたクローズだったが、シルフィへの返答をきっかけに口調がしっかりとしてきて、元通りになってしまった。

 かなり絶望的な状況だが、少なくともシリウスは切り抜けて現代を生きている。だが、どうやっても殺される未来しか見えない。

 脂汗をかいて見つめるだけの俺だったが、それとは対照的にリーファは一切慌てる様子もなくクローズにお願いを持ちかける。

「クローズさんの想いは分かりました。なら、最後に私達へ少しだけ会話をする時間をくれませんか? さっき気を遣ってくれた貴方なら、この願い、聞いてくれますよね?」


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