見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第306話】伝説の嵐

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「私がアスタロトを止める方法がたった一つだけあるよ。それは私の命を懸けるってこと。アスタロトがガラルドちゃんを奪った瞬間、私は自分の命を絶つ。言っておくけど、私は本気だよ?」

 シルフィが自身の喉元にナイフを近づけ、迷いのない表情で言い切った。シルフィの覚悟に困惑したアスタロトは慌てて一歩下がる。

「馬鹿な事はやめろシルフィ。そんなことをして君に何のメリットがあるんだ? ガラルドは君の息子ではないし、育てたところで何のメリットもない」

「私にとって一番大事な人はディザールだけど、グラドだって大事な友達だもん! 大事な友達の子供が適当に捨てられるなんて私は耐えられない……。それに短い時間だけどガラルドちゃんと一緒にいて少なからず私は愛着が湧いたよ。愛とか友情にメリットなんて言葉は関与しない……守りたいって気持ちだけなの。今は方法が思いつかないけど、いつか私は必ずガラルドちゃんをグラドに引き合わせるんだから!」

「僕にはガラルドに対する愛情なんてない。だけど、シルフィの事は大事に想っている。だから死んでほしくはない、大人しくナイフを降ろすんだ」

「ディザールが私の事を大切に想ってくれているのは分かるよ。だから、私はそれを逆手に取ったの。ディザールは私の命を犠牲にしてまでガラルドちゃんを捨てたいなんて思うはずがないって」

「…………」

 アスタロトはとうとう何も言い返せなくなってしまった。シルフィが感情を剥き出しにして思わず『ディザール』という呼び慣れた名を叫んでしまうぐらい必死になっている事が伝わったのだろう。

 激しいやりとりを眺めていたクローズは二人の間に入ると、なだめるような笑顔と声で語り掛ける。

「まぁガラルドが他国の孤児院に捨てられようがアジトに居ようがグラドと接触しないという点では変わりないよ。それにシルフィさんが私達の目を盗んでガラルドをここから連れ去り、グラドに会わせられるとも思えない。好きにさせてあげればいいじゃないかアスタロト。僕はアジトに一人ぐらい人数が増えても構わないよ」

「……分かった。今回は僕が折れるとしよう。だが、シルフィは余計な事を考えるなよ? 精々ガラルドを普通に育てるぐらいにしておいてくれ。僕はもう君と喧嘩したくない」





 こうしてアスタロトとシルフィの口論はひとまず幕を閉じた。それから三人はしばらくの間、会話の少ない日々を過ごした。より正確に言えばシルフィが極端に口数を減らして子育てに集中していたと言うべきか。

 一方、クローズとアスタロトはグラドの細胞を用いて一からトルバートの代わり人間を作るにはどうすればいいかを話し合っていた。

 頭の良くない俺には二人が話す技術を全く理解できなかったが、何となく順調に進んでいる雰囲気だけは察する事ができた。

 赤ん坊の面倒を見ているだけのシルフィとひたすら研究に没頭しているアスタロトとクローズを見ていると、たった三人しかいない狭いアジトで二つの世界が出来てしまっているようで見ていて辛いものがある。

 そんな状況になってから二十日ほど経った頃、研究を進めていたクローズが珍しく両手を上に挙げて喜んでいた。仮眠を取っていたアスタロトが眠気眼で理由を尋ねると、クローズは屈託の無い笑みで語る。

「遂に母体を使わずに人間を作り出す土台が完成したんだ! このガラス容器の中にある銀色の球体を見てくれ。今はまだ人間の眼球よりも小さいが内部には赤ん坊まで成長する為のファクターが詰まりに詰まっているぞ!」

 クローズの言う通りガラス容器の中には金属を丸めて表面をツルツルにしたような球体が入っている。どうみても生物になるとは思えないのだが、クローズがこれだけ喜んでいるのだから本当なのだろう。

 クローズの報告を受けたアスタロトは拳をギュッと握り、喜びを噛みしめながら今までの苦労を吐き出した。

「そうか、これまで200回以上試してきたが遂に完成したんだな。こいつはガラルドと違って拒絶反応無しで合成の霧を取り込むことが出来そうか?」

「ああ、問題ない筈だ。ベースはグラドの息子と同じだが、強さを初めとした様々な素質は桁違いに優れている。魔人の細胞は勿論のこと、他の優秀な細胞も取り入れる余裕はあるはずだ。折角ならアスタロトの細胞も入れておくかい? ガラルドにアスタロトの細胞を入れた時は失敗して何の効果も無かった訳だし、リベンジしてみたらどうだい?」

「ああ、取り入れさせることにしよう。ガラルドと違って優秀な息子になってくれそうだな。さて、今度はどんな名前にしようかな」

「一応私が研究の第一人者だから名前の候補を出してもいいかな? 勿論、気に食わなかったらアスタロトの案を採用してくれて構わない。私の考えた名は『ザキール』だ。この名はかつてモンストル大陸の生き物を大量に葬り去った伝説の嵐に付けられた名前だ、何か凄い事を成し遂げてくれそうな良い名前だろ?」

「ザキールか……悪くない。善の剣聖から名前を貰ったガラルドよりよっぽど我々らしいじゃないか。災害級に凄い存在になるよう一生懸命に育てるとしよう」

 かつて死の山で『ザキールが俺と兄弟』だと打ち明けてきたけれど、これでようやく納得がいった。

 エトルの体から生まれた俺とクローズ達の技術によってガラス容器から生まれたザキールとでは土台が違うけれど、アスタロトから細胞を注入されたという点では同じであり、アスタロトの息子と言えるだろう。

 とはいえ俺は愚痴を吐かれて捨ててしまいたいと思われてしまうガラクタのような存在だが……。

 だが、俺達の記憶にあるザキールの姿は魔人状態しか見た事がない。もしかしたらザキールもアスタロトと同様に人間状態と魔人状態を任意に切り替える事が出来るのだろうか?

 ザキールの事をもっと知りたいと思いつつ、俺は記憶の水晶が映し出す次の場面を見つめていた。





=======あとがき=======

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