298 / 459
【第298話】ザハード
しおりを挟む「分かった。それじゃあ次はカッツ達のことを聞かせてくれ」
ディザールは一層声を低くし、改まってカッツの方を見つめた。一体カッツ達の何を知りたいのだろうかと疑問を抱いていると、ディザールは奇妙な質問を投げかけた。
「もし、お前達罪人を見殺しにしようとした医者や治癒術師を私が殺してくると言ったら、お前達は私に依頼するか?」
「変な事を聞いてくる奴だな……まぁ俺達は心底ムカついているからな、殺せるもんなら殺して欲しいぜ」
もとはと言えばカッツ達が罪を犯して周囲から嫌われたから治癒されなかったというのに迷いなく殺して欲しいと言い切るとは……奴の頭には自業自得という言葉が入っていないのだろうか?
カッツの言葉を受けてディザールは何かを考え込んでいるようだった。ディザールはその後もしばらく医者と治癒術師の話を続けると、最後に村長について質問する。
「じゃあ、これが最後の質問だ。お前達は村長に感謝しているか? もし、恩返しができるとしたらどんなことをするんだ?」
「確かに村長だけが俺達の病を治療してくれた訳だから感謝するべきなんだろうけどよォ、もとはと言えば村長が俺達をこんな村の外れの不衛生な場所に閉じ込めなければ病に罹らずに済んだんだ。罰が重すぎるし、牢屋に入れるなら村の牢ではなくて街のちゃんとした牢屋に入れて欲しかったもんだぜ。あぁ、やっぱり村長も悪いな」
「……棚に上げるとは正にこの事だな。亡くなっていった者へ感謝の一言も無いのか? 世界はお前を中心に回っているとでも思っているのか?」
「へっ、外部の人間が随分な言いようじゃないか。もしかしてお前、村長の友達か親族だったりするのか? だったら残念だったな。村長みたいな公正さと人情の塊みたいな人間は総じて早死にするものなんだよ。お前も生き方には気を付けるんだな、ギャハハハ!」
「……黙れ、もう二度と汚い口を開くな」
ディザールは両手に爪を食い込ませて怒りに震えている。カッツ達が以前ディザール達を襲撃した際には泣きながら命乞いをしつつ反省すると言っていたにもかかわらずこの有様だ。
ディザールから喋るなと言われたカッツだったが、そんなことはお構いなしに村長の話を続けた。
「まぁ村長も不運に不運が重なったとは思うぜ? 連日、俺達の治療をしていたことが死につながったのは確かだが、そもそも家宝である浄魔のネックレスをディザールって男に渡さないで自身が装備していれば病にも耐えられたはずだからな。もとはと言えばディザールさえいなければ俺達が捕まることもなかったから村長が治療に当たらずに済んだ訳だ。結局ディザールが一番悪いんだ、クソったれ!」
「……」
とうとうディザールは黙り込んでしまった。俺ですら口を閉じろと言いたくなるぐらいにカッツは性根が腐っているようだ。
今のディザールの精神状態が心配になった俺は自ら映像のディザールへ近づきフードの中の顔を覗いて見た。すると目に薄っすらと涙を溜めていた。そして、ディザールはカッツにギリギリ聞こえないぐらいの声量でボソッと呟く。
「僕がいなければ村長は死ななかったんだな、いや、そもそもあの時に僕がカッツ達を殺しておけばこんな事態にはならなかったんだ。村長と村長の家族全員に謝らなくちゃな」
「あ? 何をボソボソ喋ってるんだ、聞こえねぇぞ?」
カッツが少しイラついた様子で言葉の内容を問いかける。しかし、ディザールの耳にカッツの声は届いていないようだ。辛い事実と後悔で頭の中が支配されているのだろう。
しかし、カッツにはそんなことが分かるはずもない。イライラを募らせたカッツは牢屋の柵を拳で叩いて威嚇している。
「おい! 無視すんな! お前は一体何者なんだよ、そのフードをめくって素顔を見せやがれ!」
「……ああ、望み通り見せてやろう。だが、僕の素顔を見た瞬間、お前らは言葉を選んでおけばよかったと後悔するはずだ」
そう呟くとディザールはフードに手をかけた。その瞬間ディザールの体を覆っていた魔力の質が変わり、肉体も人間の方へ戻っていた。フードの奥の素顔がディザールと知り驚いたカッツは後ずさって後ろの壁にぶつかると、勢いよく尻もちをついて名前を叫んだ。
「ディ、ディザール! ど、どうしてここに! 今、会話していた男の声はどう聴いてもディザールの声じゃなかったぞ!」
「……どうせ、死ぬのだから冥土の土産に教えてやろう。僕は魔人と人間の姿を入れ替えられるようになったんだよ。もちろん強さも桁違いに上昇した。お前らがあの世に行ったら、地に頭を擦り付けて村長に謝ってこい」
殺す事を宣言したディザールに対し、カッツは土下座をしながら大声で命乞いを始める。
「す、すまなかったディザール! まさか、ローブの男がお前だとは思わなかったんだ! 俺達は辛い牢獄生活で他の人間に八つ当たりしたくなっただけなんだ……。頼む、許してくれ……決められた期間よりももっと長く罪を償うと約束する、だから殺さないでくれ!」
カッツはディザールとシルフィを襲撃した時と同じような命乞いをしている。ディザールも既視感を抱いたようで、溜息をついて最後の言葉をかけた。
「前と同じような命乞いだな。さっきの話もそうだが、お前らが反省していない事がよく分かったよ。もうお前らに助かる可能性はない。最後は村長よりもずっと苦しい痛みを味わいながら死んでくれ。僕が作り上げた強い毒性を帯びた闇属性魔術ザハードだ」
ディザールは指先から紫色の泡の様なものを放出し、カッツ達の体へ付着させた。すると、カッツ達の呼吸がたちまち荒くなり、口からは紫色の煙が出ていた。彼らは全員心臓の辺りを抑えて苦しみ始め、膝を着き、のたうち回る。
「グアアアァァァッ!」
「ウゲゲェェッ!」
「ガアアァァッ! ディ、ディザール……ゆ、許してく……ガハッ!」
このザハードという魔術がどのような毒を持っているのか分からないが痛がり方が尋常ではない。ディザールはカッツ達に背中を向けると、魔術のことを少しだけ説明し、地下をあとにする。
「この毒は三日以上激痛を与え続けて対象を死に至らしめる魔術だ。死にたくなければお前達が恨んでいる医者や治癒術師にでも治してもらうのだな。まぁ並の人間では到底治せるものではないが」
ディザールが地下階段を上がって集会所を出てからもカッツ達の悲鳴は外まで響き、収まる事は無かった。カッツ達は惨たらしい最期を迎えたけれど、ディザールの顔にスッキリとした様子はなく、一層影が濃くなっていた。
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
==================
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ひだまりを求めて
空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」
星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。
精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。
しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。
平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。
ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。
その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。
このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。
世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる