上 下
297 / 459

【第297話】村長の人間性

しおりを挟む


 死の山のアジトから空を飛んで移動していたディザールとシルフィはアジトを出た翌日の夕方前にペッコ村に到着した。

 シルフィはディザールの背中から降りると、シルフィが住んでいた家を指差してこれからの事を提案する。

「私は自分の家に帰ったらそのまま休むことにするね。ディザールは村長の家でゆっくりしてきて。明日の朝になったら私も村長の家に行くね」

「あれ? 僕と一緒に村長の家に行かないのか?」

「……私抜きで村長と二人で積もる話をしてきなよ。親子水入らずじゃないけど、その方が色々と話せることもあると思うし」

「そうか、気遣ってくれてありがとう。それじゃあ、また明日な」

 ディザールはシルフィと別れると早速村長の家へと向かった。村長宅へ向かっている途中、村人がいきなり帰ってきたディザールに驚いている様だった。だが、村人は誰もディザールへ話しかけてはこなかった。

 ディザールを嫌っている村人がいたのは確かだろうけど、ここまで接触を避けられているのは妙だ。それに村人の視線は嫌いな奴に向けるものではなく、どこか憐れみのようなものを感じる。

 ディザールも村人の視線に気づいているようで早歩きで村長宅に向かっている。到着したディザールは入口をノックすると最初に姿を現わしたのは村長の妻だった。

「あっ……帰ってきていたのね、ディザール。おかえりなさい」

「ただいま、いきなり帰ってきてすまない。村長と話をしたいんだけど奥にいるかな?」

「……落ち着いて聞いてディザール。夫は少し前に亡くなってしまったの」

「えっ……」

 村を旅立つ前はすこぶる元気だった村長が亡くなっていたという事実は過去を覗き見ている俺ですら声を失うほどに驚かされた。ディザールは髪をかき上げ少しの間俯いた後、詳細を尋ねると奥さんが説明を始める。

「実はディザール達が村を出てから暫く経った頃、牢に閉じ込めていたカッツ達が病気になったの。もちろん夫はすぐに治療してあげようと医者や治癒術師に声を掛けたのだけど、医者たちは悪事を働いたカッツ達を治療しようとはしなかったの、報いだと言ってね」

「もしかして村長はカッツ達を治すために……」

「ええ、一人でずっと治癒魔術を掛けていたわ。夫は『罪人といえどカッツ達は罰を受けて反省している途中なんじゃ、死なせるわけにはいかん』と言って、私が止めても聞く耳を持ってくれなかったの。結果カッツ達は治ったけれど、連日魔術を使い過ぎて弱っていた夫に追い打ちをかけるようにカッツ達の罹っていた病気に感染しちゃってね。年老いてるうえに衰弱状態だった夫に病は耐えられなかったみたいで他の人が治す暇も無く、あっさりと亡くなってしまったの……」

「……」

 ディザールは言葉にできないぐらい悲観に満ちた顔をしている。シルフィが良かれと思って里帰りさせたというのにこんな事実が待っているとは。ディザールは呪われた宿命でも背負っているのだろうか?

 俺の横で見ているサーシャとグラッジは不幸すぎる過去に涙を流し、リリスは険しい表情で唇を噛みながら見つめている。

 ディザールは「教えてくれてありがとう。行ってくるよ」と呟き足先を外に向ける。

「待って、ディザール! 一体どこに行くの?」

 奥さんが尋ねるとディザールは光の宿っていない目で行き先を告げる。

「カッツ達のところさ。色々と聞きたいことがあってね」

 ディザールは奥さんと別れると、一直線に村の西端へと歩いて行った。今まで記憶の水晶でペッコ村の色々な場所を見てきたが、西端は見た事がない。

 西端には何十年も放置されているようなボロボロの大きな木造の集会所があった。ディザールは中に入り、地下へ続く階段を降りている。

 集会所は灯りが無いから凄く暗くて分かり辛い。地下を降りてみるとどうやら左右に牢屋が並んでいる構造のようだ。右前方一番奥の牢屋にはうっすらと灯りが点いていて、どうやらあの場所がカッツ達の捕らえられている牢屋のようだ。

 ディザールはあと10メード程歩いたらカッツ達が視認できる地点で魔人の姿へと変化し、ローブを深く被って正体を隠した。どんな狙いがあってそのような行動に出ているのだろうか?

 全く予想がつかないままディザールはカッツ達が入っている牢の前に行き、柵越しに話しかける。

「罪人カッツ、そして手下どもよ。お前らに聞きたいことがある。お前達が牢の中で病気になった際、村長以外の医者・治癒術師が助けてくれなかったというのは本当か?」

「あ? お前は誰だ? ローブで姿を隠しやがって」

 カッツはディザールを陥れようとした日と変わらず、ふてぶてしい態度を取っている。だが、そんなことはお構いなしにディザールは話を続ける。

「いいから私の質問に答えろ。私は村長の最期を知りたいのだ」

「お前は村長の知り合いか? まぁいい、どうせ暇だから答えてやるよ。お前の言う通りで医者や治癒術師は俺達を見捨てようとしたんだ。俺達が悪人だから助けたくないというのもあっただろうが、それ以上に病気を移されたくなかったのもあるだろうな。ったく……それでも人の命を守る仕事に就いているのかよって言いたくなるぜ。結果、村長に病が一点集中してしまった訳だしな」

「一点集中……そうか、それじゃあ仮に村長を含めた複数の人間で順番にお前達を治療していたら村長は助かっていたという事か?」

「ああ、俺達が罹っていた病は接触時間が長くなれば、それだけダメージが蓄積していく病らしいからな。お前の言う通り順番に持ち回りしていたら、助かってたはずだぜ」

「分かった。それじゃあ次はカッツ達のことを聞かせてくれ」

 ディザールは一層声を低くし、改まってカッツの方を見つめた。一体カッツ達の何を知りたいのだろうかと疑問を抱いていると、ディザールは奇妙な質問を投げかけた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...