見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第294話】孤独の始まり

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 記憶の水晶は暫くの間ディザールを中心に映していたが、ディザールとクローズがアジトへ帰っていったタイミングで視点をグラドに移した。

 結果的にイグノーラへ帰ってきても役に立てなかったグラドとリーファは離れていくディザール達の背中を見つめながら呆然としている。

 やがてディザール達の後ろ姿が見えなくなったところでグラドが自嘲の笑みを浮かべて呟く。

「何が英雄だよ……何が剣聖だよ……結局、俺は肝心な時に魔人へ傷一つ付けられなかったし、スキルのせいで民衆すら危険に晒している。魔人の問いに偉そうに反論していたが、俺は何も出来ていない。俺は何の為に生まれたんだろな」

 グラドの心は相当参っているようだ。そんなグラドを見かねたリーファは慌ててフォローを入れる。

「たとえ魔獣が寄ってきた原因がグラドだったとしても、グラドが一生懸命に魔獣を倒して皆を守ってきたことには変わりないよ? いつかは襲ってくるかもしれない魔獣を早い段階で数多く討伐できたのもグラドの腕が合っての事だよ。それに私達四人はグラドの強さと優しさに何度も救われたもの。 私はこれから先、魔獣寄せがもっと厳しくなったとしてもグラドと一緒にいたいよ」

 リーファがありったけの想いをグラドに伝えたけれど、そんな想いを邪魔するかのように突然周囲の民衆から声があがる。



――――グラドがいるからイグノーラが危険になるんだ! さっさと出て行け!――――

――――国で一番強い人間でも魔人にはまるで歯が立たなかったじゃないか、ただでさえワシらに迷惑を掛けているんだ、刺し違えてでも倒して来いよ――――

――――何が英雄よ、魔獣を呼び寄せているぶん魔人よりたちが悪いじゃない、あんたなんて悪魔よ!――――



 民衆から次々と非難の声があがっている。自ら望んで魔獣寄せを得たわけでもないし、これまで国の為に尽力してきたというのに酷い仕打ちだ。

 この瞬間グラドの眼からは光が消え、街から出るべく北門の方へと歩き出した。北門へ歩いている間も民衆からのヤジは止まるどころか加速する一方で、しまいには石を投げたり矢を放ってくる者まで現れた。

 グラドは飛んでくる石や矢を避けようとはせず、全てその身で受けながら歩を進めていた。とはいえグラド程の強さがあれば肉体にダメージは通らない筈だと思っていたが、彼の頭や体からは血が流れていた。

 どういう事だ? とグラドの体を注視してみると彼は肉体に纏う魔力を消していたのだ。それは自らを罰する為なのか、それとも魔力を練ることが出来ないぐらいに精神が壊されているのか……俺には分からない。

 人間という生き物はあまりにもショックな事があったら立っている事も出来なくなるような精神状態に影響されやすい生き物だ。実際にハンターの仕事でも恐怖のあまり魔力を練れなくなる事態に陥る者が現れる事もある。

 世界で誰も経験したことがないような罪悪感を一身に背負っているグラドがそんな状態になってしまうのも仕方がないだろう。だが、そんなグラドに対して、お構いなしに民衆は攻撃を続けている。

 その状況に耐えられなくなったリーファは必死に魔術を展開してグラドを守り始める。リーファは民衆に向かって「こんな事をしても意味はありません! 石を投げるのを今すぐやめてください!」と叫んでいたが、止まる事は無かった。

 いつしか、グラドは心が消耗して歩く事も出来なくなり、その場で膝を着いた。そんなグラドを守り続けていたリーファもイグノーラへ来るまでのアイ・テレポートの連発、魔術による防御、そして心の摩耗で石と矢から守り切るのが難しくなっていった。

 リーファにとってグラドの苦しみは自分以上の苦しみなのだろう、精神力を保てなくなるのも無理はない。

 そんな魔力を上手く練れない状況でもリーファはグラドの体に覆いかぶさって彼を守ろうとしていた。その執念に圧倒された民衆はようやく石を投げるのを止めた。

 リーファはグラドに覆いかぶさったまま頭と背中から血を流し、目からは涙を流しながらグラドへ囁いた。

「お願いグラド……心を強く保って……。街から出たら、誰からも恨まれない場所に行って、二人で静かに暮らそう……ね?」

 リーファの言葉を受けたグラドは拳をギュッと握りしめると、リーファを背負ったまま立ち上がった。リーファの想いに加えて、これ以上リーファを傷つけられたくない気持ちがグラドの体を少しだけ復活させたのかもしれない。

 グラドはリーファをおんぶし、民衆に睨まれながら北門に向かって歩き続けた。そして、北門を出てすぐのところにある階段へリーファを座らせ、目線をリーファに合わせると優しい声でお願いする。

「今までありがとな、リーファ。俺が国を追い出された後もついてきてくれて嬉しかったよ。だけど、もうついてこなくていい、今日で本当にお別れしよう。これからはリーファ自身と俺以外の人間の為に生きてくれ」

「だ、駄目だよグラド、そんなこと言わないで……。一緒にディザールとシルフィちゃんを探して、また五人で集まろうよ!」

「いいや、二人は俺が一人で探す、リーファは早く帝国へ帰るんだ。お前は頑張り過ぎなぐらいよく頑張った、もう休んでくれ」

「やだ! 私は絶対についていくよ。ダメって言われても今まで通り死の山手前の小屋に居続けるよ。これからも二人で暮らしてグラドを孤独にはさせないんだから!」

 グラドが付いてくるなと言っても結局グラドは兵の監視の元、死の山手前の小屋で暮らし続けるのだからリーファと離れる事は出来ない筈だ。だけど、グラドが年老いてから残した手紙には二番目の魔人と戦った後にリーファと別れているはずだ。

 二人がどういう形で離れ離れになるのかが気になり、食い入るように見ていると別れの時はグラドの言葉によって突然訪れる事となった。

「いいや、俺はもう死の山近くにある小屋へは戻らないからリーファと合流することはない。人に迷惑が掛からないように人里をさけて一人旅を続けるよ。それと同時にディザールとシルフィを捜索するから見つけたら手紙か何かで知らせるよ」

「で、でも兵士がグラドの事を放っておかないと思うよ? それに私だってアイ・テレポートでしつこく追いかけちゃうんだから!」

「申し訳ないが兵士が来たら武力で追い払うつもりだ。勿論怪我をさせるつもりはない。むしろ俺が勝手に遠方へ行ってくれればイグノーラも喜ぶだろうさ。それと残念ながらアイ・テレポートでは追いかけられないはずだ。今のリーファは消耗しきっていて使えないだろ? 姿を見失えばアイ・テレポートも宝の持ち腐れだ。悪いが旅立たせてもらう、元気でな」

 そしてグラドはそのままリーファの視界から消える為に森の方へと走っていってしまった。階段に座っていたリーファは無理やり立ち上がって追いかけようとするが当然追いつけるはずもない。

 それでも諦めきれないリーファは歯を食いしばって叫んだ。

「アイ・テレポート!」

 しかし、声が虚しく響くだけでスキルが発動する事は無かった。それは、体力が残っていなかったからなのか、心が折れていたからなのか、それとも涙で視界が滲んだせいで着地点を見つめられなかったからなのか、答えは誰にも分からない。

 時刻は夕暮れ時となり、夕陽の紅い光が泣き崩れるリーファと走るグラドの背中を照らしていた。





=======あとがき=======

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