289 / 459
【第289話】本当の友達
しおりを挟む「ちゃんと光の目印に気付いてくれたみたいだね、我が友よ。これから私はこいつらを殺そうと思うのだが、よかったら君も一緒にどうだい?」
クローズはディザールの名前を出さないように配慮しつつも、とんでもない誘いをかけてきた。あまりに突拍子もない出来事に言葉を失っていたディザールだったが、何とか平静を取り戻してクローズへ真意を尋ねる。
「どうしてお前がカーラン家の人間を殺すんだ? 五英雄と違ってお前はカーラン家に恨みなんかないだろ?」
「そうだね、恨みはないよ。だけど、邪魔ではあるんだよね。君も知っての通りサラスヴァ計画には争いを誘発して進化を促す目的がある。いつの時代も戦争こそが技術や知恵を発展させてきたからね。だが、戦争にも最低限品位がなければならない。カーラン家にはそれがないのだよ」
「戦争に品位? 何を言っているんだ?」
「戦争っていうのはね自分が正しいと思っている者同士がぶつかり合うものなんだよ。正しいことを成し遂げる為だから『犠牲はやむを得ない』とか『卑劣な手段を使わざるを得ない』とかね。だけど、カーラン家は嫉妬心とか私欲を満たす為だけにローラン家を攻撃するような連中だからね、そんな奴らに進化は望めないよ」
クローズはカーラン家のことをよく分かっているような口ぶりだが何故今、このタイミングで殺しに来たのかが分からない。
クローズを前にして完全に逃げ切る事を諦めて震えているだけのカーラン一族をディザールは何とも言えない表情で見つめている。ディザールは少し考えこんだ後、首を横に振ってクローズに反論する。
「お前の理屈は理解したが別に殺さなくてもいいじゃないか。適当に捕捉して軟禁でもしておけばいい」
ディザールは殺し自体は否定しているものの、俺はこの時妙な違和感を覚えた。それが何なのかは分からなかったが、クローズが突然高笑いを始め、違和感の答え合わせをするように言葉を返した。
「ハッハッハ、今の君の表情と言い方をそのまま君に見せてあげたいよ。今の君の言葉は全く心が入っていなかったし、瞳からは殺しを止めようとする熱意も感じられなかった。もう君は殺してしまってもいいと思っているはずだ。だけど、一応止めようとしたのは頭の中にグラドの生き様がこびりついているからだろう?」
「……お前は決めつけが得意だな、勝手にしろ」
「じゃあ、勝手にさせてもらおうかな」
そう呟くとクローズはディザールの近くで尻もちをついていたカーラン家の人間に向けて火球を放った。その火球は速度こそ遅いもののとんでもない熱量を纏っており、カーラン家の人間を一人、跡形も無く消失させてしまった。
クローズは火が城に燃え移らないように火球を消滅させると、再び笑いながらディザールを刺激する。
「ほら、私の思った通りだ。放った火球と標的の位置関係なら君に守る意思さえあれば守れたはずだよ。やっぱり君は黒色に染まったようだ。救える命を放置する事は殺すことと変わらない……君はようやく私と同じステージに立った訳だ」
「…………」
「沈黙は肯定と取らせてもらうよ。さあ、僕は今から更にカーラン家の人間を殺していくよ。自分が黒色側じゃないと証明したいなら止めに入るといい」
クローズは煽りに煽ったが、ディザールは微塵も動かず守ろうとはしなかった。カーラン家の人間が一人また一人と死んでいく度にディザールが今のアスタロトに近づいていくのを感じる。
既に会議室には十人以上が殺され、辺りには死体と血が満遍なく広がっている。残るはコルピ王一人になったところで、クローズは手を止め、ディザールの肩に手を回した。
「さあ、最後の仕上げは君がやるんだ。君は死の山で私を殺す決断をして、ここでは見殺しにする判断も出来た。黒を漆黒に染める為には自分の手で死を作り出せなきゃいけない。君は今この瞬間生まれ変わり、私と本当の友達になるんだ」
洗脳するかのように優しくも威圧的に語り掛けるクローズに対し、ディザールは何も言い返さなかった。もう、とっくに後戻りできないところまできていたようだ。
ディザールはコルピ王に手のひらを向けると、あえて魔人の姿から人間の姿に戻って問いかける。
「黙っていて悪かったが、僕は魔人化の力を得たディザールだ。コルピ王よ、最後に言い残した事はあるか?」
「き、貴様はディザールだったのか……クソッ、最後の最後まで貴様ら五人は私に楯突くのか、平民風情のくせに……。魔人の力にまで手を染めおって! やはり貴様らは私にとって疫病神だった……早めに殺しておくべきだった!」
「一つ訂正しておくが、魔人の力を手にしたのは僕だけだ、グラド達四人は関係ない」
「例えそうであっても私にとっては全員害虫以下の存在だ! あいつらがいなければカーラン家はもっと繁栄していたし、グラドがいなければイグノーラはここまで魔獣に苦しんでいない! さっきは五人を疫病神と言ったがディザールとグラドはそれを超える死神だ、クソったれ!」
コルピ王がそう吐き捨てた瞬間、会議室の空気が一瞬で冷たく重くなった。それはディザールの顔色と魔力の流れが変わったからだ。コルピ王は越えてはいけないラインを越えてしまったようだ。
ディザールは人一人殺すには大きすぎる魔力を手に溜めると、クローズも後ずさりする程の形相で声を荒げ、魔術を解き放つ。
「何も分かっていないお前がグラドを語るなァッ! 地獄で皆に……グノシス王に謝れッ!」
ディザールは死の山でクローズにトドメを刺そうとした時以上の膨大な魔力を解き放ち、城の地下に馬鹿デカい穴を開ける。当然コルピ王は跡形も無く消滅し、この場から人間は一人もいなくなってしまった。
初めて人の命を奪った感触とコルピ王への怒りで、ディザールの瞳孔は大きく開き、息を荒げ、汗が噴き出している。そんなディザールを見て口角を上げたクローズは拍手しながら近づいていく。
「おめでとう、これでディザールは正真正銘黒側に立ったと言えるね。どうだい? いざ殺してみればあっけないものだろう? 最初の一人さえ殺せれば、この先何千人でも何万人でも殺せるようになる。真に強い心を手に入れたのだから、これからは君の望むがままに力を振るっていくといい」
「……ああ、クローズの言う通りあっけないものだったよ。罪悪感はあるけれど、それ以上に心が晴れやかだ。こんなことなら、あの時カッツを殺しておけばよかったな」
「フフフ、学びはいつだって後悔と共にあるものさ。それに君の一生はまだまだ残っているし、合成の霧の研究が上手くいけば永遠の命も手に入る。殺したい奴がいるなら、これからじっくり殺していけばいいさ。それより、そろそろ爆音を聞きつけて他の人間がここを訪れると思うが、ディザールはどうするつもりだい?」
「とりあえず、僕は魔人の姿になって他の人間が駆け付けてくるのを待つことにしよう。そうすることで魔人がカーラン家の人間を殺したと周知できるからな。これでもし僕が隠れてしまったらローラン家が疑われてしまうからな」
「ディザールの言う通りだね。優しいローラン家はしっかりと守ってあげないと。それじゃあ私はひとまず姿を消そう。イグノーラ城真上の遥か上空で君が来るのを待っているよ、そこなら人目にはつかないからね」
そして、クローズは窓から一瞬で外へ出て行った。あと少ししたらディザールは人間に見つかることになる。その時、ディザールはどんな反応をするのだろうか?
闇に落ちてしまったディザールを見るのは辛いものがあるけれど、俺はディザールの敵として最後まで見届けなければならない。
0
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが
別に気にも留めていなかった。
元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。
リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。
最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。
確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。
タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる