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【第287話】黒と白
しおりを挟むディザールが魔人の力を手に入れてから早十日 クローズとディザールの二人は死の山の山頂に立っていた。
クローズは以前と同じようにディザールの手首に触れて魔人化の適合具合を確かめている。
「うんうん、魔人化は99%完了したと言ってもいいね。私の宿っている魔人の肉体が高齢であることを考慮したら、恐らくディザールの強さは私を少し超えているな。卒業おめでとう、とでも言っておこうかな」
クローズはあっさりと自分の方が弱いと認めている――――どうやらクローズにとって強さとは目的を達成する為のツールでしかないようだ。俺とグラッジ、グラドとディザールみたいに少年心が抜けない負けず嫌いは、強さの値や違いが気になる性分だから珍しいタイプに感じる。
ディザールは自身の体に纏っている魔力を眺めながら成長を噛みしめている。
「これがほぼ100%の力か、確かに今なら誰にも負けない気がするな。だが、クローズが99%の適合率と言っていたのが気になるな。もしかしてまだ少しだけ成長の余地があるのか?」
「断言は出来ないけどあると思うよ。魔人族は人間と違ってスキルが三つ発動する者もいるし、特訓を重ねれば魔人を超えた存在に変異する可能性もあるかもしれない。それは僕の大好物でもある進化というやつだね。そうなってほしいという願いを込めて99%と言わせてもらったんだ」
「なるほど、クローズらしい言い回しだな」
「晴れてディザールは死の山から出ることが出来るようになって、圧倒的な力、羽による自由な移動も手に入れた訳だが、これからどうするんだい? まずはカーラン家を壊滅させるのかな?」
「まぁ、この力があればカーラン家を殺さずとも脅したり、軟禁したり出来るだろうから壊滅させることも容易いだろうな。イグノーラに行ったらそうするのも悪くない。だが、その前に僕にはやらなければならない事がある」
ディザールは意味ありげに呟くと、おもむろに手のひらをクローズの方へ向けた。その手には凶猛な魔力を纏っている。
「ディザール……これは何の真似かな?」
「……散々世話になったから心苦しいが、クローズには死んでもらう。お前がいる限りモンストル大陸が……いや、この星がかき乱され続けることになるからな」
「なるほど、魔人化したとはいえ実に人間寄りの意見だね。確かに人類から見れば私の存在は迷惑この上ないだろうね。ここで消しておくのは将来的に大きなメリットになるだろう。だけど、黒色に染まりきれてない君が私を殺せるかな?」
クローズは自身に向けられた手を一切恐れずに、差し出されているディザールの手首を掴んだ。捻りを加えようとするクローズに対抗して、ディザールは体を大きく振って掴まれていた手をほどかせる。
ディザールの手首は赤く染まっている、クローズは戦力的にはディザールに劣るとは言っていたけれど、それでも相当な膂力を持っているようだ。
痛む手首をさすりながらクローズを睨んだディザールは自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「黙れ! 何もかもお前の思い通りに事が運ぶと思うなよ! お前は必ず殺してやる!」
「君は私より強いけど僕を殺す事は出来ないよ。それを今から証明してあげるから全力でかかってきなよ」
そこから二人の激しい衝突が始まった。ディザールが魔人の力を得た翌日に戦った時よりも更に戦いは迫力を増している。ぶつかり合う拳と魔術の音は強さのステージが違い過ぎて聞いたことのない音色を奏でている。
細くとがった死の山の山頂が戦闘によってみるみる削れていき、地震でも起きたかのように丸い岩々が斜面を全方位に転がり、下にいる魔獣や動物たちが悲鳴をあげて逃げている。
※
そんな激しい戦いが十分ほど続いたところでクローズが先に背中をついて倒れた。クローズは負けたとは思えないぐらいに晴れやかな顔で空を見つめ、跳ねるような声で語る。
「いや~、私の予想通りディザールの方が強かったね。負けたのは残念だが、君と思いっきり喧嘩が出来て楽しかったよ。やっぱり友達同士一度は大きな喧嘩をしないとね」
「ハァハァ……負けたっていうのに随分と余裕じゃないか……お前はこれから僕に殺されるんだぞ? 怖くはないのか?」
「死ぬことは勿論怖いさ。だけど、さっきも言った通り君が私を殺せるとは思えないね。君はまだ白色寄りの灰色だからね」
「黒色とか白色とか、さっきからクローズは何を言っているんだ?」
「単純な話だよ。白色が人を殺せない・殺させない人間のことさ。グラドなんて真っ白と言っていいだろうね。逆に黒は一度でも人を殺したことがある者のことさ。そういう意味では私なんて真っ黒だろうね、フフフ」
またクローズ独特の言い回しが始まってしまった。ディザールにはクローズの口車に乗らないで欲しいが、過去を見ているだけの俺達には何も出来ない……。クローズは更に話を続ける。
「だから私は白色にも黒色にもなり得る者を灰色と定義しているんだ。そして黒色が白色を少しでも超えてしまうと、ずるずると黒色側にいってしまうだろうね。だから君は白色寄りの灰色であるうちに手を止めた方がいい」
この時のクローズの言葉に俺は違和感を覚えた。クローズはディザールに人を殺す経験をさせたいのかと思っていたが、この言い方だと踏みとどまってほしそうに聞こえる。
クローズ自身の命が危険に晒されているから出た言葉なのかもしれないが、不思議とクローズは自身の命を惜しむような言葉は言わない奴な気がする。
それはディザールも感じていたようで、一貫性のないクローズの言葉に眉をしかめていた。
「結局、クローズはどうしたいんだ? 死にたくないのか? 殺されたいのか?」
「……私はディザールという男が選ぶ行動を見届けたいだけさ。さぁ、君はどちらを選ぶ? 人類の未来の為に私を消しておくか、それとも甘ちゃんのグラドのように不殺を貫くか?」
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