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【第276話】魔人の勧誘

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「淀みに淀んだ素晴らしい魔力だ。君がディザールだな」

 ディザールが慌てて振り返ると、空に青色の肌をした魔人が浮かんでいた。ザキールに少し似ている青の魔人は歴史書に書かれていた二番目にイグノーラを襲った魔人にも似ている。

 急な魔人の出現に兵は硬直し、ディザールは杖を構えている。だが、青の魔人は戦闘態勢にはならず、隙だらけの落ち着いた様子で話を続ける。

「まぁ待て、私はディザールを攻撃するつもりはない。私はディアボロスほど好戦的ではないからね」

 やはり魔人というだけあってディアボロスやザキールと同様に人の言葉を話すようだ。物腰穏やかではあるが、どこか不気味さと狂気を感じる青の魔人を全力で警戒するディザールは杖に魔力を込めて問いかける。

「お前がどんな魔人だろうと関係ない。人里に姿を現わす魔人は全て悪だ、僕がここで殺してやるよ!」

「話が通じない奴だなぁ、これではどっちが人間か分かりはしない。まぁ一度戦力差を味わってもらった方が話を聞いてもらえそうだな。よし、私に全力の魔術を放ってこいディザール」

 青の魔人は自分の中で何かを結論付けると突然地面に降り、その場であぐらをかいて両手を広げた。肉体に魔力を強く纏っているものの、かなり隙だらけで避ける気なんてさらさらないと言わんばかりの態勢だ。

 傲慢ともまた違った、まるで師匠が弟子の力をテストするかのような振る舞いに苛立ったディザールは青の魔人の挑発に乗って杖に全開の魔力を込めた。

「だったらお望み通り最大火力を味合わせてやる……吹き飛べ! ブラック・テンペスト!」

 ディザールは杖の先端から凄まじい風速の竜巻と闇のエネルギーを放出する。恐らく、風属性と闇属性の合成魔術だ。恐らく風で物理的にダメージを与えて、闇のエネルギーで対象の魔量や耐久力を削るタイプの技で火力と能力低下を混ぜ合わせたものだろう。

 二属性をこれほどまでに高水準で同時に行使できる魔術師は見た事がない。ディザールが五英雄や賢者と呼ばれるのも納得だ。

 青の魔人が座っていた場所はあっという間に暴風に削られ、闇に飲み込まれてしまった。余裕ぶっていた青の魔人は死んでしまったのではないかと被弾地点を見つめていると、晴れてきた闇の中から微笑を浮かべた青の魔人が姿を現わした。青の魔人は削れた地面の上で何もなかったかのように変わらずあぐらをかいている。

 あれだけの魔術を受けて平然としている青の魔人に手が震えだすディザールに対し、青の魔人は拍手を贈って褒めたたえた。

「いやはや、人間が放ったとは思えない程の素晴らしい魔術だったよ。おかげで体中がヒリヒリして痛いよ。これだけの強さがあれば十分だ。合格だよ、ディザール」

「なっ……ヒリヒリだと? 僕の全力を真正面から受けたというのに? ディアボロスより遥かに強いじゃないか、化け物かお前は……」

「別にこれくらいの強さならディザールでもすぐに到達できるさ、私についてこればね。どうだ? 私と一緒にモンストル大陸を使って遊ばないか?」

「モンストル大陸を使って遊ぶ? お前は何を言っているんだ? そもそもお前の目的はなんだ? さっきはどうやって攻撃を防いだんだ? スキルか何かか?」

「質問は一つに絞って欲しいところだが、とりあえず最後の質問に答えよう。君は全力の魔術を真正面から防御されたから『スキルで防がれた』と思いたいようだが、残念ながら答えはNOだ。私はスキルなんか使っていない。単純に君と私とでは肉体の強さも魔力の強さも違い過ぎるんだ、それを今から証明してあげよう」

 青の魔人はそう呟くと、手のひらを上に向けて地属性魔術で小石を数粒出現させた。あれは確か地属性魔術の中でも初歩の初歩『ペボル・ブラスト』と呼ばれる小粒の石を飛ばす魔術だ。

 しかし、初歩の魔術とは思えない程に小石一つ一つに高密度の魔力が込められている。青の魔人はそれを一斉に全方位へ放出した。

「邪魔な外野には消えてもらおう。散れ、ペボル・ブラスト!」

 その瞬間、初速から最高速度かと思わされる程の勢いで小石がディザール達を襲う。

「ぐあああぁぁっっ!」

「うごああぁぁっ!」

「うぐっ! デ、ディザール様、お、お逃げくださ……い」

 監視の兵士達のうめき声が一斉にあがった。

 手練れであるディザールは何とか防げたものの、監視の兵士達にはとてもじゃないが防げるものではなく、無残にも兵士達は全員ペボル・ブラストで心臓を貫かれてしまい、その場で倒れた。

 現代のアスタロトを思わせるような圧倒的な魔力である。威力の出ない初級魔術で全ての兵士の心臓を寸分狂わず貫くなんて強さが桁違い過ぎる。

 驚きのあまり声を失うディザールに青の魔人は淡々と語り掛ける。

「魔人である私が人間をスカウトしようとした事実を外野に知られるまずいからね、他の人間に共有される訳にはいかないから彼らには死んでもらう事にしたよ。もちろんディザールも私の誘いを蹴るなら死んでもらう事になる。まぁ君なら脅しなんか使わなくても誘いに乗ってくれそうだけどね」

「な、何だと? 僕が人間を裏切ると言いたいのか? ふざけるな!」

 震える声で否定するディザールを青の魔人は鼻で笑った。そして、青の魔人はゆっくりとディザールへ近づくと、肩に手を当て囁くように誘いの言葉をかける。

「自分の心に嘘をつくのはよくないよ、ディザール。君は既に魔人の力に惹かれ始めているはずだ、顔に書いてあるよ。仮に今の君が私に付いてくるかどうか揺らいでいたとしても、私には君を勧誘する為の手札があるのだからね」






=======あとがき=======

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