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【第270話】不自然な遠征
しおりを挟むグラド達五人とグノシス王を映していた記憶の水晶は話し合いを終えたタイミングで時間を加速した。時間はみるみる流れていき、あっという間に魔人ディアボロスとの戦争から100日後になっていた。
戦争の熱も冷め、街を歩いている五英雄が民衆からもみくちゃにされることもなくなり、表面上は平和な日々を過ごしているように見えるが、城内はピリッとした空気に包まれている。
それは魔人ディアボロスが残した情報を未だに解析できていないからだ。政に関わる者たちの間では徐々に不満の声があがり、ローラン家や五英雄に対する不信の動きも出始めている。
「まだローラン家は魔獣が寄ってくる原因を見つけられないのか……」
「五英雄も英雄と呼ばれているぐらいだから魔獣の親玉か新たな魔人ぐらい討伐してほしいものだねぇ」
「もしかしたらあの戦争もグノシス王と五英雄と魔人側のマッチポンプなんじゃないのか?」
何もしていない人間が頑張っている人間を好き勝手に言うのはいつの時代も同じのようだ。カーラン家の息がかかっている者達が五人にギリギリ聞こえるような声量でコソコソ話をしているのは見ていて凄く腹立たしい。しかし五人はそんな言葉に反応せず無視していた。
比較的気の弱いシルフィは少し堪えているように見えるし、こういった虐めを村で受けてきたディザールはもっと敏感になっていて大変なのではと俺は心配になったが、それは杞憂だった。ディザールは強がりではなく、迷いのない心からの言葉で四人を励ます。
「多くの人間が集まれば必ず敵になる人間と味方になる人間がいるものさ。それが全員敵になるようなら自分を省みなきゃいけないけど、僕達には多くの民衆とローラン家が味方している。あんな言葉は防ぎようのない雑音と思って、スルーしよう」
ペッコ村で暮らしていた時のディザールは村長とグラドとシルフィぐらいしか心を許せる人がいなかったから苦しかっただろうけど、今はイグノーラ全体の半分以上の人間が自分の味方だから心を強く保てているようだ。
後にアスタロトになることを考えると気が重くなるが、逆に考えればアスタロトにもこういう時代があったんだと知ることが出来たし、対話に繋がる材料になるのでは? と思えてくる、気に留めておこう。
※
逞しくなったディザール達はその後も順調に仕事を続けていると、ある日の朝、五人の元へ一人の兵士が慌てた様子で駆けこんできた。兵士は乱れた息を整えて伝令する。
「ご、ご報告です! イグノーラから100キード真東にある森林地帯で魔人を発見したとの知らせがありました。皆さまはすぐに兵を率いて捜索・討伐に赴いてほしいとのことです!」
この歴史は俺の知らない歴史だ。もしかしたら兵士の言っている魔人というのが二番目に現れたというディアボロスより強い『青の魔人』なのだろうか? 俺の認識では青の魔人もイグノーラへ直接来ていた気がするのだが……。
グラドは鞘を腰にかけると、直ぐに全員へ指示を出す。
「聞いての通りだ! みんな、直ぐに戦いの準備を整えつつ兵団へ伝達するんだ。中々遠い位置にいるから見失う恐れもある、各自集中して目を凝らしながら急いで東へ走るんだ」
十分とかからず準備を整えたイグノーラ兵団は何千人もの兵士を引き連れ、360度目を凝らしながら森林地帯への道を進んだ。針の隙間もない程に念入りに、それでいてスピーディーに探索を続けた兵団の先頭部隊は二時間後には森林地帯の中心地へ到達していた。
先頭部隊の指揮を執っていたグラドは全員へ指示をだす。
「森林地帯は木々が多いから当然隠れやすい。全員隈なく探すんだ。そして、森から不審な影が出ていないかもチェックするように。我々兵団に魔人を見つけたと報告をくれた者と情報を擦り合わせながら、知恵を働かせて捜索するように!」
※
念を押すに押しまくったグラドを主軸に圧倒的なマンパワーで捜索を続けていた一行だったが、長時間探しても魔人は見つからなかったようだ。
元々発見報告があった場所が遠かったから、移動の間に更に北・東・南のどこかへ逃げられてしまったのでは? と俺は考えたが、それと同時に一つ違和感を覚えた。
その違和感は失敗した探索任務の映像をわざわざ記憶の水晶で見せているという点だ。この出来事がきっと後々何か影響してくるのではと予想していたらそれは現実のものとなった。
※
探索を終えてイグノーラ城へ帰ってきたグラド達は城内に漂う不穏な空気を感じ取っていた。探索に出ていた兵が多い事を差し引いても城内が静かすぎるうえに異様に灯りが少ない。それに加えて謁見の間の近くにあるカーペットが土の付いた靴で走ったかのように汚れているのだ。
グラド達は武器を構え、慎重に歩みを進めて謁見の間に繋がる扉をゆっくりと開いた。そして、一番最初に中を確認したグラドは謁見の間に広がる光景を前にし、手に持った剣を落として震える声で呟く。
「み、みんな、落ち着いて聞いてくれ。グ、グノシス王が殺されてる……」
=======あとがき=======
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