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【第264話】ローラン家とカーラン家

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「すいません、グノシス王から私室へ来るように言われたグラドという者ですが……」

 グラドが王の私室前にいる兵士に来訪理由を伝えると「王から話を聞いている。入るがいい」と言われ五人は王の私室へ入った。扉の向こうには砕けた笑顔のグノシス王が立っていた。

「来てくれたかグラド達よ、わざわざすまぬな。ここは私室ゆえに兵士や大臣の目はない。友人の家のようにゆっくりとくつろいでくれ。今、お茶を入れるからな」

 グノシス王は謁見の間で会った時以上にフランクな態度で五人に接している。恐縮する五人を見て、いたずらな笑みを浮かべたグノシス王はお茶を全員分入れ終わるとソファーへドサッと座り込み、本音を語る。

「いやぁ~、やっぱり王様の所作は堅苦しくて苦手でのう。お前達も無理に敬語を使わなくてもよいし、楽にしてくれていいぞ?」

 王からの言葉を受けて困惑する五人は互いの目を見合った後に、リラックスした姿勢で椅子に座った。結局敬語をやめることが出来なかったグラドがグノシス王に質問する。

「あのぉ~グノシス王はどうして俺達を私室に呼んだのでしょうか?」

「その質問に答える前にグラドに尋ねさせてくれ。お主は我々が謁見の間で話し合っている時に何か違和感を覚えなかったか? 身分だの上下だの気にせず正直に思ったことを答えて欲しい」

「……正直、大臣など一部の人間が我々もしくは王様を良く思っていないように感じました。言葉や態度がとげとげしいと言いますか」

「ふむ、やはり感じておったか。グラドの言う通り大臣を含めた側近の一部はワシのことをよく思っていない。いや正確にはローラン家をよく思っていないと言うべきか……」

「ローラン家を?」

 現代のイグノーラにおいて最近まではローラン家のグラハムが王を務めていて、確か次代の王イグニスもグラハムとは親戚関係だからローラン家の人間となるはずだ。そんなローラン家は長年盤石の王族体制を築いていた家柄だと思っていたが、少なくともこの時代はそうとも言えないようだ。

 オウム返しで尋ねるグラドに対し、グノシス王は渋い顔でローラン家の歴史について語り始める。

「ローラン家は大昔から王を輩出してきた家柄ではあるが、常にローラン家の人間が王を務めていた訳ではなかったのじゃ。ローラン家には対等な親戚関係を持つ一族がいて、その名はカーラン家といってな。長年ローラン家とカーラン家は共にまつりごとに取り組んできたと同時に王のポジションを競い合ってきたのじゃ」

 その後もグノシス王はローラン家とカーラン家の関係性について話続けた。どうやらイグノーラは他の国の王政とは少し違い、政治に関わっている者と全貴族による投票で王となる者を決めているらしい。

 俺が今まで旅をしてきた王政の国では直系の血筋で第一子を王とするパターンが主で、それが無理なら直系から一番血の近い適齢の者を王とする決め方がほとんどだった。

 イグノーラは投票による決定を絶対としている以上、どうしても派閥争い・癒着・賄賂のようなドス黒い面も出てきてしまい、何かと揉めることが多いらしい。

 そして、極めつけはローラン家とカーラン家で政治的な思想が大きく違うことも仲の悪さを加速させているらしい。

 具体的にはローラン家が『教育や仕事における資金の分配を極力平等にして、誰にでもチャンスを掴める国にしたい』という思想を持っているのに対し、カーラン家は『優れた家柄や能力の高い者にこそ資金や資源を多く分配して、国力を高めるべきだという家柄・能力主義』的な思想を持っているらしい。

 ディアトイル生まれというだけで散々差別されてきた俺としてはカーラン家の考え方は好きじゃない。現代のイグノーラはローラン家が中心のようだし、身分差別的なものもあまり感じないから出来ればローラン家には頑張ってほしいものだ。

 両家の特徴と関係性について一通り話し終えたグノシス王はそれらを踏まえた自分の想いと理想を語る。

「ワシはこの世界が平等だとは思わない、家柄の違いがあったり生まれた時から病気を持っている者だっている、時には理不尽に感じる事もあるだろう。だからこそ全員が幸せになれるような仕組みを作ったり誰にでも成りあがるチャンスのある国にするべきだとワシは思っている。カーラン家のやり方は高貴な家がより一層力を持って他国に対抗する点においては合理的な政策なのかもしれないが、スタートからゴールまでの道のりが定められた宿命的な生き方しかできないのだ……。村を出てきたお主らはそんな生き方じゃ嫌だろう?」

 グノシス王が五人に問いかけると、ここまで大人しかったディザールが真っ先に立ち上がり、いつもよりもずっと張りのある声で熱く語り始める。

「僕は目が見えないってだけでずっと差別されてきた。目が見えないのをいいことに物を隠されたり、足を引っ掛けられたりしたことが何度もあるし、殺されそうになった事だってある。家柄なんて無い小さなペッコ村ですらこんな現状だ。だからイグノーラの人間として働くなら絶対にローラン家の配下になる方がいい」

「ディザールの言う通りじゃ。だから今回私室へ呼んだのはワシの想いを理解してもらい、ローラン家側についてもらう為だったのじゃ。カーラン家から何か甘い誘いをされたとしても絶対になびかないでほしい。それにカーラン家はお主らペッコ村出身者を取り込んだとしても、最終的には良い扱いをしない筈じゃからな」

「僕達は力を示したにもかかわらず良い扱いをしてくれないって事は……そこも家柄が関係するって事か?」

「その通りじゃ。結局、カーラン家流の『家柄・能力主義』では能力面が100点でも家柄が0点だったら間の50点の扱いをされるのが目に見えているからな、散々こき使われて雑に捨てられるのがオチじゃろう」

 まるでスターランクのような仕組みに頭が痛くなってくる。まさか昔のイグノーラ民の一部が俺と同じような苦労を味わっていたとは。大陸南には大陸北の様な差別はないと思っていたが、少なくともグラド達が若い時代にはあったようだ。

 俺達は大陸会議招集の為に大陸南の各国を巡ってきたけれど、あまり身分差別の様なものは見当たらなかったように思う。もしかしたら過去にグラド達が頑張ってくれたおかげで無くなったのかもしれない。

 グノシス王から衝撃の事実を伝えられた五人はローラン家を支えることを誓い合った。それからグノシス王は更にイグノーラの理想を語る。

「どんな立場の人間も『運の存在』に気がつかなければいけないのだ。裕福な貴族は基盤を支えてくれている平民へ感謝の心を持ち、恵まれている理由を知り、自覚を持たなければならない。裕福ではない者も、貴族を憎むのではなく貴族とも手を取り合い、夢を持ち、想いを伝え、どんな人間にだってなれる資格を持っているんだと自覚することが大事だ」

 気がつけば五人は演説を聞くかのように、握りこぶしを膝に置いていた。そしてグノシス王はローラン家代表としての決意を宣言する。

「私も元は農民から養子として拾ってもらいローラン家の人間となった身だ。上と下を知り、貧富を知り『夢を持つ事』と『夢を守る事』の両方を知っているワシが必ず、誇り高きイグノーラを創ってみせる。そして、君達のこともカーラン家から必ず守ってみせる。どうか安心してついてきてほしい」

 グノシス王は宣言を終えると握手を求めてきた。それをグラドが代表して握り返す。

「改めてよろしくお願いします、グノシス王」

 こうして五人とグノシス王との間に固い絆が結ばれた。イグノーラの歴史に詳しいわけではないから断言はできないが、きっとこの時からローラン家の盤石になったのではないかと思う。

 過去の映像だから『ローラン家の子孫は誇りを持って頑張っているぞ』と伝える事が出来ないのが残念だ。



 記憶の水晶は私室から解散した後もイグノーラで一生懸命働き続ける五人を映し続けた。





=======あとがき=======

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