256 / 459
【第256話】久々の感覚 成長していた幼馴染
しおりを挟むリーファの先天スキル『イントラ』の説明を受けた俺達は停止していた記憶の水晶を再開させた。
イントラによって左目が見えるようになったディザールは長年見えていなかった景色と初めて見るリーファの顔を見つめて言葉を失っている。そんなディザールをリーファは持ち前の明るさで揶揄った。
「あれ? もしかして初めて見るリーファお姉ちゃんに見惚れちゃった?」
「ば、馬鹿! そんな訳ないだろ! 思った以上にアホ面でビックリしただけだ!」
「な! 酷い! 折角私の視力をプレゼントしたのに……ディザールだっていつも目のクマが凄くて人の事を言える顔じゃないんだから」
小言を言い合えるぐらいならもうディザールがカッツを殺す事はなさそうだ。今のディザールは今まで見てきた中で一番の笑顔を浮かべている。
ディザールが久々に光を得た視覚を慣らしている間にグラドとシリウスが遅れて駆け付ける。ディザールが二人の目を見つめると先にグラドがディザールの変化に気がついた。
「ハァハァ……大丈夫かディザール、シルフィ! ん? あれ? ディザールと俺の視線が合ってるぞ……もしかしてお前、視力が……」
「ああ、どこかのお人好しが自分の左目の視力を分け与えてくれてな。そのせいで僕はカッツを殺すに殺せなくなったんだ」
「なるほど、リーファがスキルを使ってくれたんだな。それと家を燃やしてディザールを追い詰めたのはカッツだったんだな。ちょっと色々なことがありすぎて頭がパンクしてしまいそうだぜ。リーファにゆっくりとお礼したいところだが、まずは火を止めてカッツ達を拘束するぞ!」
「ああ、そのつもりだ、行くぞ!」
そこからはグラドとディザールの圧倒的な強さによってカッツ達十人の戦士は一瞬で拘束され、家の火はシリウスの水魔術によって鎮火された。
ロープでカッツ達を縛り上げたグラドはリーファの前に立ち、深々と頭を下げた。
「リーファ、我が身を差し出してまでディザールの復讐を止めてくれて本当にありがとう。俺にとってディザールは一番の親友で兄弟みたいな存在だからな、人殺しにならなくてよかったよ。ほら、ディザールもお礼を言え、お前は俺の百倍頭を下げなきゃいけないぞ!」
「わ、分かってるさ。リ、リーファ、僕の為にイントラを使ってくれて本当にありがとう。僕は新たに得た光を一生大事にするし、僕の代わりに左目が使えなくなったリーファをいつか必ず治してみせる。だ、だからその時を待っていてほしい」
ディザールは言葉を詰まらせつつ、リーファから目線を逸らして宣言する。ディザールのおどおどした様子を見て俺は確信した。ディザールは罪悪感で目線を逸らしたのではなく、照れて視線を逸らしたのだ。
あまり認めたくはないがリーファもリリスも凄く綺麗な女性だ。久々に見えた目でずっと優しくしてくれていた女性を視認してこんなにも気高く綺麗だったならどぎまぎしてしまうのも無理はないだろう。
グラドもディザールの様子に気付いたようで早速揶揄い始める。
「なんだ? もしかして照れてるのかディザール? まぁリーファは綺麗だし、久々に見たシルフィも大人になって美人になったもんな、仕方ねぇよ、うんうん」
「勝手に決めるな! まぁ最後に見たシルフィは六歳ぐらいだったし、あの頃からずっと大人っぽく綺麗になったことは認めるさ、グラドは想像以上にむさくるしい奴だったがな!」
「なにをぉぉ! 久々に俺を見た感想がそれか? お前にはイイ男ってのがどういうものなのかをこれからみっちりと――――」
いつも以上に仲良くじゃれ合うグラドとディザールを他の三人が見つめていた。
ディザール本人が気づいているかは分からないが彼はじゃれ合ってる時も薄っすらと目に涙を溜めていた。
激しいやりとりによって得た視界とリーファによって守られた日常が目を潤ませたのだろう。そして嬉し涙という感覚にまだ慣れていないせいで涙を拭おうとしなかったのかもしれない。
こうしてカッツ達の襲撃を乗り切ったディザール達は拘束した戦士達を村長のところまで連行した。村長は「夜とはいえ、内容が内容だ。鐘を鳴らして村人を集めて事件を伝えておこう」と言い、村の中心にある鐘を鳴らした。
村人が集まってきたところで、村長は拘束したカッツ達を前に出し、事のあらましを伝えるとカッツ達への罰を発表する。
「カッツ達は人の道を大きく外れた。よって村の牢で三年間閉じ込めて反省しているかどうかを事細かく記録する。そして、その記録と共に身柄をイグノーラ国へ渡す。そこで改めて二度目の裁きを受けてもらう事とする。村の皆、それでよろしいか?」
人殺しをしようとしたうえに同情の余地がないからもっと厳しい罰になるかと思ったが村長の考えは慎重なようだ。牢生活後の処遇はより大きな街で決めてもらおうというのは良い判断かもしれない。
村人も特に反対する者はおらず、スムーズに決定する事となった。
カッツ達への処遇を伝え終えた村長は続けてディザールの左目についても話を始める。
「カッツ達のことは残念だが、今晩は一つ良い知らせがある。優しいリーファ殿のおかげでディザールの左目に視力が戻ったのだ。片目とはいえ目の見えるようになったディザールは今後益々ペッコ村の役に立ってくれることだろう。さあ、皆でディザールとリーファ殿に拍手を贈ろうではないか」
村長が拍手を促すと、最初は驚いて固まっていた村人がまばらながらも徐々に拍手を増やしていき、最後には声が聞こえないぐらいの音になっていた。
これだけ祝ってもらえてよかったなぁと俺はディザールの方を見てみたが、その時何故かディザールは険しい顔をしていた。リーファから左目の視力を貰った形になったのを気にしているのだろうか、それとも別の理由だろうか?
この時点で夜も更けていたから結局ディザールの言葉を聞くことは出来ずに、記憶の水晶は翌日のペッコ村を映し出した。
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
==================
0
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが
別に気にも留めていなかった。
元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。
リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。
最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。
確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。
タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる