上 下
251 / 459

【第251話】若かりし頃の英雄

しおりを挟む


 千年樹の洞窟近くにある海岸から上陸した過去のシリウスとリリス改めリーファ達はそのままイグノーラの方へ歩いて行った。

 映像で再生される数十年前のイグノーラはどんな街なのだろうかと楽しみにしながら眺めていると、過去のイグノーラは現代に比べて城壁が低くて薄く、街の雰囲気も穏やかな場所だった。

 これまでにイグノーラはザキールを除けば二回魔人に襲撃されている筈だが、この頃はまだ攻められてはいないはずだから平和だったのだろう。その事もあってか、リーファとシリウスはイグノーラで一泊すると、翌日すぐに街を出て南の方へ歩いて行った。

 そこから記憶の水晶が映し出す映像がスキップし、リーファ達は俺が見た事のない林道を歩いていた。一体どの辺りを歩いているのだろうかと考えていたその時、何かを思い出したグラッジがリリスに質問を投げかける。

「この辺りの林道は若干見覚えがあります! 恐らくカリギュラの北西にある森林地帯だと思うのですが、合ってますかリリスさん?」

「はい、正解です。ここをもう少し西に進むと森に囲まれたペッコという村がありまして、ちょうどその辺りに私の求めていたギテシンが生えているんです」

「なるほど、それでイグノーラでもほとんど休まずに最短ルートでペッコ村を訪れたんですね。あれ? でもこの辺りに村なんてありましたっけ? 今の時代では草木が生えていただけのような……」

「ちょっと私には現代の土地勘がないので分からないです、ごめんなさい」

「こちらこそ変な事を言ってすいません。もしかしたらグラドお爺ちゃんの魔獣寄せの影響で移民したのかもしれないですね、だとしたら心苦しいですが……。あの時代は特に移民や村・町の統合が多かったらしいですからね。あ、それよりも見てください! 過去のリリスさんとシリウスさんが村に到着しましたよ!」

 グラッジに促されて視線を向けると、そこにはこじんまりとした村があった。どこにでもある何の変哲もない村に見えるが、ここにフィアの病気を治す植物があると思うと、それだけで凄い場所に見えてくる。

 リーファとシリウスは一直線に村の中心にある村長の家を尋ねると、挨拶もそこそこに早速リーファがギテシンの場所を村長に尋ねる。

「――――という訳で私の妹の為にどうしてもギテシンが欲しいのです。譲っていただけないでしょうか?」

「ふむ、人命に関わるのなら断る訳にもいくまい、ギテシンの場所を教えてやるから採ってくるがいい。ただし、一つ交換条件がある。腕の立ちそうな貴方達に近辺の洞窟に住み着いた魔獣を掃討してほしいのじゃ」

「魔獣退治ですか……強さと規模を教えてもらってもいいですか?」

「オークロード級に強い魔獣が三十匹以上いて、それよりも格下の魔獣も合わせれば千匹以上いるじゃろうな。とは言っても全てを倒してくれとは言わぬ、27日間で倒せるだけ倒してくれればそれでいい」

「え? 27日間という数字はどこから出てきたんですか?」

「ああ、説明を忘れていたな。ギテシンは満月の夜にのみ成長し、手で触れられるのも満月の夜だけでな。この地の土から離れたら数時間もすると腐ってしまうのじゃ。故に次の満月で蕾から花を咲かせたギテシンを採取したら薬として煎じるタイミングまで凍らせて保存しておいてくれ」

「なるほど、食材と同じで凍らせて腐敗を止めるのですね。家に帰るまでしっかり凍らせ続けないと……それでは早速ギテシンの場所と周辺の地理を教えて頂けますか?」

「ギテシンの場所も洞窟の場所も、向かいの家にいるグラドという青年から教えてもらってくれ。それと狩りに行く際はグラドも連れて行ってくだされ、村で一番腕の立つ剣士ですからきっと貴方達の助けになるでしょう」

 村長からとんでもない名前が飛び出した。まさかここがグラドの故郷だったとは。映像の中のリーファは村長に礼を言うと早速、向かいにあるグラドの家を尋ねた。



「すいませ~ん、グラドさんはいらっしゃいますか?」

 若かりし頃のグラドが見られるのは楽しみだなぁとワクワクしていた俺だったが、リーファが扉をノックしても返事が返ってこない。

「あれ? グラドさんって人は留守なのかな?」

 リーファが首を傾げて呟いていると、家の裏側から若い男の声が聞こえてきた。

「よーし、二人とも上出来だ。薪割りはコツさえつかめば簡単だろ?」

 どうやら男は誰かと喋りながら薪割りをしているようだ、リーファが声に導かれて家の裏側に回ると、そこには裏庭で会話をする三人の男女がいた。リーファは早速三人に声を掛ける。

「すいません、村長さんの紹介でグラドさんという方を訪ねてきたのですけど、いらっしゃいますか?」

「ん? 俺がグラドだが何かようか?」

 三人の中で一際逞しい男が明るい笑顔で答えた。この場には他にもう一人男がいたものの、俺には返事を聞く前に逞しい彼がグラドだと分かった。何故なら顔がグラッジやグラハムとかなり似ていたからだ。

 グラッジやグラハムよりも少し切れ長な目をしており肌は色黒で、筋肉質なうえに短髪だから二人よりワイルドな印象だ。強く血縁を感じさせる容姿にグラッジの祖父グラドは本当に実在したんだなぁと映像を見て感慨深くなった。

 リーファは早速村長と話し合った経緯を丁寧に伝えていた。その間サーシャとリリスは黄色い声で騒いでいた。

「わぁ~! グラドさんってかっこよかったんだね! 流石は五英雄、サーシャびっくりだよ」

「久しぶりに若い頃のグラドさんを見ましたけどやっぱりかっこいいですね! 当時の私も妹みたいに懐いていたなぁ~と思い出が蘇ってきます。それにグラッジさんとグラハムさんに似ていて品もありますし」

 リリスの言い方だと『グラドがカッコいい=グラッジ・グラハムもカッコいい』になってしまうからグラッジとグラハムは少し照れていた。そして、間接的にグラッジを褒める事になったサーシャは慌てて「ち、違うの! グラッジ君に見惚れてる訳じゃ……」と否定していた。

 慌てて否定したら自白しているようなものだと思うのだが……グラッジとサーシャの間に何とも言えない甘酸っぱい空気が流れている、リリスはとんでもない爆弾を落としていったようだ。この輪に全く介入できていない俺はほんのちょっとだけ寂しかったのは内緒だ……。

 そんなやりとりをしている間に映像の中のリーファは説明を終えていた。すると、グラドは後ろにいる男と女の間に立って、彼らの紹介を始める。

「リーファの望みはよく分かった、喜んで手伝わせてもらうぜ。その為にはまず俺の仲間も紹介しておかなくちゃな。こっちの女性が村の優秀な治癒術師シルフィ、そしてそっちの男がディザールだ。どっちも頼りがいのある俺の大切な友達だ、仲よくしてやってくれ!」

 この村にグラドがいるだけでも驚きだったのに、まさか他の五英雄でもあるシルフィとディザールまで村の住人だとは思わなかった。いつの間にか五英雄の全員が一つの場所に集まっていた事になる訳だ。

 もっとも彼らはまだ英雄と呼ばれる存在にはなっていないのだが。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...