見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第249話】記憶の水晶

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 リリスが剣で貫かれてから三時間以上が経過した。フィアの強力な回復魔術とシリウス、サーシャの懸命なサポートにより、リリスの呼吸と顔色はみるみる回復していくが、それに比例するように髪の毛の金色が占める割合が増えていった。

 気がつけば傷口も塞がりはじめていて、はっきり言って異常な回復速度である。まるで女神リリスから人間リリスへと変貌する際に身体ごと交換しているかのようだ。

 もうほとんどの髪が金色になってしまい、女神っぽさがなくなってきたところでリリスがゆっくりと瞼を開ける。リリスは目覚めた最初に俺を見つめてきて、その時に俺は違和感を覚えた。

 変わったのは髪色だけのはずなのに、何だか面構えが歴戦の勇士を思わせる貫禄を纏っており、大人っぽく見えるのだ。もしかして記憶が完全に戻ったのだろうか? 嬉しいような不安なような複雑な気持ちを抱える俺を尻目にリリスはフィアへ話しかける。

「やっと全てを思い出したよ、フィアちゃん。昔は私より頭二つ分は小さかったのに大きくなったね」

「ほ、本当に記憶が……リー姉さん……わ、わたし、嬉しい!」

 フィアは大粒の涙を流すと、まだ怪我をしているリリスを思いっきり抱きしめた。痛みで眉間に皺を寄せたリリスだったが、それでも口元は笑っていて、目尻から涙が伝っていた。

妹相手には敬語じゃなくなっているリリスを見て、姉妹ではそういう話し方になるんだろうなぁ、と改めてリリスに前世があったんだと実感させられる。

 次にリリスは俺に何て声を掛けるのだろうか、もしかしたら前世の記憶と引き換えに女神としての記憶を失っていたら俺の事も忘れてしまっているのかもしれないと不安になったが、そんな心配は無駄に終わる。

「ガラルドさん! 私、女神の記憶も前世の記憶もどっちも持ったまま、私のままでいられてます! どっちの私もほとんど変わりがなくて、思い出と大事な人が増えただけですみました。よかった……本当によかったです」

 俺はあまりに嬉しくて思わず両方の拳をグッと握りしめた。そして、自分の声とは思えない程に上擦った声でリリスの事を祝った。

「やったなリリス! 人間だろうと女神だろうとリリスはリリスだったんだ。これまで旅をしてきてこんなに嬉しい事はないぞ」

「はい! ありがとうございます、ガラルドさんにそう言ってもらえて私も……えっ? ガラルドさん……泣いてます?」

 リリスは目を点にして呟く。だけど一番驚いたのは俺だ。自分が泣いている事にも気づかなかったんだ。手を目に当てると、うっすらと涙が指を光らせた。

 もしかしたら誰かの死以外で涙を流したのは初めてかもしれない、ましてや仲間がいるところではずっと頑張って兄貴ぶっていたから尚更普段から気を張っていたのに。

 それだけ女神としてのリリスが消えてしまわないか不安だったわけだ、そんな気持ちを自分で蓋をして誤魔化していたのだ。どうやら俺が思っていた以上にリリスは俺の人生に欠かせない存在になっていたらしい。

 横を見るとサーシャとグラッジも泣いていて少しの間、涙と鼻をすする音だけがこの場に流れた。

 それから全員が落ち着いたところでようやく過去について喋れるようになったリリスが自分の前世について話し始めた。

「それじゃあ私の前世について話しますね。確か私がそれなりに有名な神官になったところまではフィアちゃんが話してくれましたから、その続きから話します。順調に力をつけていた私でしたが、ある日事件が起きたのです。それは元々病弱なフィアちゃんに新たな心臓の病気が見つかってしまったのです」

 今はとても健康そうに見えるフィアだが、昔はかなり苦労していたようだ。そう考えるとさっき腹を刺されたリリスに対して的確に治療を施し、並の神官以上に強力な回復魔術をかけていたフィアは姉であるリリスの影響を受けているのかもしれない。

「フィアちゃんを治したいと思った私は色々と情報を集めて、その結果治す方法を一つだけ見つけました。その方法とは大陸南にあるギテシンという植物を煎じて飲ませるものでした。しかし、当時も現代と同じで死の海を渡る方法は確立されていなかったので、共に海を渡る仲間を集めることにしました。その時仲間となり共に海を渡ったのがシリウスでした」

 そう言ってリリスはシリウスの方へ顔を向けた。シリウスは懐かしそうにフッと笑みを浮かべると、驚きの事実を口にする。

「ああ、その通りだ。詳しい説明は省くが当時の私達は苦労の末に死の海を渡る為の船を作り上げて、死の海を越えた。そして、ギテシンを手に入れる為に旅をしている途中で多くの仲間を手に入れ、大きな事件にも巻き込まれていった。あの頃は大変だったが楽しい思い出も多いよな、五英雄リーファ殿」

 今、シリウスがリリスの方を見ながらとんでもない名前を口にした。五英雄のリーファと言えば、イグノーラを守った存在であり、五英雄の中で一番グラドのことを心配して傍にいた女性の名だ。

 五英雄の一人であるシリウスがここにいる事だけでも驚きだったのに、まさかリリスの前世が五英雄だったなんて……だが、ここで一つ疑問が湧いてきた。リリスの前世にも当然リリスとは違う名前があったわけでライラもフィアも前世の名前か、それに準ずるあだ名で呼ぶはずだ。

 俺は勝手な思い込みで『リリスだからリー姉さん』と呼ばれていたと解釈していたが、本当は『リーファだからリー姉さん』と呼ばれていたんだ。いつも犬のように懐いてきて、単純で子供っぽいと思っていたリリスが五英雄と発覚したことで急にかっこよく見えてきた。

 シリウスから前世の名で呼ばれたリリスは恥ずかしそうに頭を掻きながら、シリウスに言葉を返す。

「やめてよシリウス……今はもうリーファじゃなくてリリスなんだから。まぁシリウスから正体をばらされちゃった訳ですが、何から話したらいいでしょうか……時系列で話すとなると……」

「ちょっと待ってリー姉さん。ガラルドさん達に全ての情報を伝える為にうってつけの方法があるの。むしろその為に私はここまで頑張って身を隠しながら生きてきたと言ってもいいぐらい。姉さんと仲の良かった五英雄の一人シルフィさんから『記憶の水晶』を預かっているのだから」

「シルフィちゃんが記憶の水晶を! 今、シルフィちゃんはどうなってるの? 教えてフィアちゃん!」

「……全てはこの水晶が教えてくれるよ……心して見聞きしてねリー姉さん、そしてガラルドさん達も全ての事実を記憶の水晶から得てください」

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