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【第241話】身内の不始末

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「ここからは彼女に話してもらいます、入ってきてくれヒノミさん」

 俺が呼びかけるとヒノミさんが会議場の扉を開けて入ってきた。するとヒノミさんの姿を見た皇帝アーサーは机を叩いて怒鳴った。

「お前はあの時の女! 牢獄から逃げ出したと思ったらこんなところに!」

 アーサーの怒号に加えて牢獄というワードが飛び出したことで場が騒めき始めた。

「静粛に!」

 ラファエルの一声で場はなんとか静まり、話せる状況になったところでヒノミさんが説明を始めた。

「はじめまして皆さん。私はシンバードとドライアドで働いているヒノミと言います。私達シンバードの面々は帝国との接触やビエード大佐の最後の言葉をきっかけに帝国を警戒するようになりました。死の海渡航計画を進めなければいけないガラルドさん達の代わりに私ともう一人の仲間で帝国の調査を開始する事となりました。その調査方法は――――」

 そしてヒノミさんはスパイとして潜入したこと、帝国がエンドから兵器等の知識を授けてもらったこと、中央街の地下で奴隷を働かせて兵器・毒物を製造していたこと、全てを話した。

「ふ、ふざけるな! 貴様らの言っていることはでたらめだ! それにスパイを潜入させた貴様らこそ罪深いではないか!」

 アーサーはさっきよりも強く机を叩き、顔を赤くして、声を震わせながら怒鳴った。最初の頃に感じていた威厳はもはや微塵も感じられない。

 息を荒くするアーサーを見かねたラファエルは肩に手を当て制止させた。

「落ち着いてくださいアーサー殿。帝国には多くの証拠が挙げられております。それにヒノミ殿のスパイ行動も今回のようなケースでは自衛の意味が大きくて正当性があり、自己利益や欲求に基づくものではありませんので、シンバード側が裁かれる事はありません。それは大陸則たいりくそくを熟知しているアーサー殿ならお分かりいただけるでしょう?」

「ぐ……クソ!」

 とうとうアーサーは何も言えなくなって俯いてしまった。周りの人達は「帝国はこの件で長い歴史に幕を下ろすのか?」「巨大な帝国が解体したら、どこに属するんだ? 民主国となるのか?」など口々に小声で話している。

 それでも帝国に対して『君主制をやめて、解体しろ!』と強く言い切る国は一つとしてなかった。やはり追い詰められていても天下の帝国だ……強気に攻めて報復されるのが恐いのだろう。

 だが、俺達シンバード側だけは黙っている訳にはいかない。俺はアーサーに詰め寄ることにした。

「さあ、どうします皇帝アーサー殿。真っ黒な帝国は八方塞がりです、ここは潔く――――」

「待ってくれガラルド!」

 今まさにアーサーを追い詰めようとしたその時、横から声が飛び込んできた。その声の正体はモードレッドだった。皆の視線が一点に集まる中、モードレッドは頭を深く下げた後、語り始めた。

「まずは皇帝であり私の父でもあるアーサーの不貞を謝らせて欲しい。各国の代表よ、本当に申し訳ない」

 モードレッドはまるで自分は関わっていないような言い方をしているがどういう事だろうか? ビエードは亡くなる直前、確かにモードレッドが危険だと言っていた筈なのに……。ここは問いかけておいた方が良さそうだ。

「どういう事だ、モードレッド。まるで自分は関与していないような言い方にも聞こえるが……」

「全く関与していない訳ではないが、私は魔力砲などの兵器は帝国の開発だと思っていて、地下労働と地下奴隷の事も知らなかった。私の管轄ではなかったのだ」

「……帝国一の文武兼備と呼ばれて大きな権限を持っているはずのモードレッドがそんな言い訳をするのは無理があるんじゃないか?」

「言い訳ではない、今からそれを説明しよう。そもそも帝国領というのは広大過ぎるほど広大なのは皆知っているだろう? それ故に統治は皇族によって分担されているのだ。帝国領全体のうち中央街含む五割を父アーサーが、東街区を含む四割を私が、そして残りの一割を弟達が受け持っていたのだ。だから私も弟達も地下の存在は知らない」

 前回の大陸会議でアーサーではなくモードレッドが出席したのも『東街区の統治者』だからということなのだろうか。それにレックが地下の存在を知らなかったことにも繋がるし筋は通っている様に思える。

 それでも俺の中ではビエードの遺言が引っ掛かっているからモードレッドは信用できそうにない。ここは怯まずにモードレッドに食い下がろう。

「言いたいことは分かるが、それでも帝国で一、二を担う代表者であるモードレッド達が責任の所在で揉めるのもどうなんだ? それにビエードの遺言の件もあるからモードレッドの言葉が信用できるかどうか疑わしいぞ? ここは帝国全体の落ち度として――――」

「なら、心苦しいが責任を取らせてもらおう」

 モードレッドは意図的に俺の言葉を遮ると、席から立ち上がった。一体何をするつもりなんだ? と眺めていると、モードレッドはシンがいる位置まで歩いていき、手を差し出した。

「シン、すまないが少しだけ君の細剣……アーティファクト『ジャッジメント』を貸して欲しい」

 モードレッドからのまさかのお願いに俺もシンも困惑していた。ジャッジメントを強く握りしめたシンは睨みつけながら用途を尋ねる。

「ジャッジメントでどう責任を取ると言うんだ?」

「ジャッジメントを使う理由は二つある。一つは父と繋がっていなかったことを証明すること、そしてもう一つは……いや、まずは一つ目を終えてからだな。とにかく悪いようには使わないからジャッジメントを貸して欲しい」

 モードレッドからお願いされたシンは渋々ジャッジメントを手渡した。するとモードレッドはジャッジメントがどういうものかを皆に説明した後、細剣を掲げて言った。

「聞いてくれ皆の者、私と三人の弟達は父アーサーの管理する地下労働施設・地下奴隷そしてエンドと呼ばれる組織から兵器の技術提供を受けている事、その全てを知らなかった。ジャッジメントの青き光に誓う!」

 モードレッドは自分の腹にジャッジメントを突き刺すと、宣言通り刀身は青く光った、今言ったことは真実という事である。

 そしてモードレッドは更に話を続けた。

「これで私の潔白は証明された訳だが、まだ仕事が残っている。それは身内の不始末の処理だ」

 この言葉を発した瞬間のモードレッドはただならぬ気配を漂わせていた。俺はこの時の事を一生忘れる事はないだろう。



なんとモードレッドは自分の席に歩いて行ったかと思うと、突然剣を抜き、アーサーの背中を後ろから突き刺したのだ。

「ガハッ! モ、モードレッド……一体……何を!」

 口から大量の血を吐いたアーサーは剣が突き刺さったままの状態で後ろへ振り返り、モードレッドを睨んだ。しかし、モードレッドは表情一つ変えずに冷酷に言い放った。

「身内が大罪を犯したのです、当然でしょう父上」


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