上 下
230 / 459

【第230話】七恵の番人

しおりを挟む


 女神フローラは遠い目になると、自身が長年に渡り行ってきた浄化作業について語ってくれた。

「女神たちがいなくなったドラウ周辺を浄化してみせると決心した私ですが、やっぱり死ぬのは怖かったので、まずは毒の性質について調べる事から始めました。バジリスクの毒はたとえ呼吸であっても体に取り入れてしまうので、まずは瓶に毒を少量採取して、それを更に水で数千倍に薄めてみる事にしました」

「ん? 水で薄める事が性質を調べる事に関係するのか?」

「人間にも女神にも体内に入った毒を自浄する能力があります。それは血液・内臓・魔力の働きによるものですが、毒の総量が一定ラインを越えてしまうと自浄出来なくなり、病気になったり抵抗反応で亡くなることもあります。逆に言えば限度ラインを知って超えないように、ちょっとずつ毒に近づいて作業する分には問題は無いですし、少しずつですが抗体も出来てきます。特に女神は自浄能力が強いですからね」

 つまり活動限界を正確に把握することによって、浄化作業に当たる時間と体を休める期間を明確にして、浄化作業と休息を繰り返していた訳だ。

となると毒に近づいて、毒に触れて、毒から離れて、というルーチンを数百年単位でずっと続けていた事になる、想像するだけで眩暈を起こしそうだ。

過去に勇気を振り絞れなかった後悔がここまでのエネルギーを生み出すとは、つくづく女神という存在は凄いのだと思い知らされる。

 きっとリヴァイアサンもこの話を聞けばフローラに感謝を伝えたがるはずだ、俺が代わりに伝えておくと約束しておこう。

「毒で穢した野盗に激昂するぐらいリヴァイアサンはこの地を大事にしていたから、きっとフローラに感謝するはずだから伝えておこう。そして友に代わって俺から礼を言わせてもらうよ、長い間頑張ってくれて本当にありがとうフローラ」

「い、いえ、元はと言えば自分の不甲斐なさを取り返すために頑張っただけなので褒められる資格なんて……それよりもガーランド団の皆様はここへ来るとメリットがあると言われて訪ねてくれたのですよね? リヴァイアサンがここへ案内したがっていた理由は察しがつきます。今から説明したいと思いますのでついてきてもらっていいですか?」

「分かった、よろしく頼む」

 フローラはそう告げると俺達を奥へと案内した。奥には何もない洞窟の空間が広がっているだけで、強いて言えば植物の根っこが天井からぶら下がっているだけの場所だった。

 フローラは天井にぶら下がる根っ子を眺めると、突然奇妙な問題を出してきた。

「ガラルドさんはドラウの森にはどれぐらいの本数の木があるか分かりますか?」

「ん? あまりに広いから想像すらできないな」

「そうですよね、正直小さい木も含めたら私にも分かりませんが何万本単位で存在するのは確かです。そしてドラウの森の木々は連理木れんりぎによって大半が繋がっています。ですので人間社会で言えば、数十階の塔が何万基もあり、そのほとんどに橋が架かっているような状態です」

「そう言われると改めてドラウの森の凄さを実感するな。縦・横・高さの事を考えたら行きたいポイントに行くのにも度々迷ってしまいそうだな」

「そうなんです、だから私達は大きいサイズの木の一本一本に座標のようなものを振りました。北や西からどのくらいの位置で階層で言えば何階か、と言ったように。なので今から私の後天スキルで全員を『250・155・20』の座標へ運びます。ジッとしていてくださいね」

「お、おい、何をする気――――」

 俺が尋ねきるよりも前にフローラは手から謎の緑の光を放ち、俺達全員に浴びせた。すると俺達全員の体が小人ノームと同じぐらいに小さくなって、おまけに頭から苗木の様なものまで生えてきてしまった。

 困惑する俺とは対照的にサーシャはグラッジの頭を指差してケラケラと笑っていた。

「あはは、グラッジ君の頭が可愛くなってる!」

「サーシャさんこそ祭りの仮装みたいでキュートですよ。顔立ちも相まって似合いますね」

 何をイチャイチャしてるんだ、と心の中でツッコミを入れていると、フローラがこのスキルについて語ってくれた。

「皆さんは一時的に私のスキル『七恵しちけいの番人』によって七恵しちけいの加護を受けました。それにより、ドラウの森の木の内部をまるで川の激流を下るかのように高速で移動できるようになりました。それでは早速天井の根っこに向かって魔力を込めて、座標を宣言してください。行きますよ、250・155・20!」

 宣言すると同時にフローラは体を一層緑に発光させたあと、木の根に吸い込まれてしまった。目の前で消えさって益々不安になるが、もうやるしかない。俺達はフローラと同じように座標を宣言して魔力を込めると俺達も同じように木の根に吸い込まれた。

 木の中を通っているから視界は真っ暗だが、体の浮遊感から猛スピードで移動しているのは実感できる。放たれた矢にでもなったかのような感覚を数分間味わっていると、いきなり目の前が薄っすらと明るくなり、俺達の体は移動先の木から放出された。



 到着と同時に俺達の体を覆っていた緑の光と頭の苗が消え去り、体のサイズも元に戻った。周りを見渡してみると、そこは日の光が届いていないにも関わらず、薄っすらと明るい空間が広がっており、四方を木の枝と葉っぱに囲まれていてまるで小屋のようだった。

 よく見るとツタと大きな葉っぱが暖簾や扉代わりになっているポイントもいくつかあり、一番遠い位置にある扉の前でフローラが手を振って待っていた。

「皆さんこちらからお入りください。ここは普段私が寝食をしている小部屋です。一通りの生活用具も揃っていますのでゆっくりしていってくださいね」

 フローラに従って中に入ると千年樹の洞窟を思い出すような自然の居住空間が広がっていた。

 フローラは俺達に椅子へ座るよう促すと、早速今いる場所を詳しく説明してくれた。

「ここは私が生活している空間であると同時にドラウの森の完全な中心となります。完全な中心というのは森を立方体とした時に、縦・横・高さ、全てにおいて中間に位置する場所です。それ故に森の外から見ても、中から見ても、空から見てもこのポイントは見つけられません。万が一尾行されても木の中を移動出来るのは私のスキルだけですしね。これで秘匿性を保つことが出来ます」

 木を隠すなら森の中という言葉もあるくらいだし、フローラのやり方は人目を避けるうえで理にかなっているのかもしれない。しかし、フローラは何故ここまでしてこの場所を隠していたのかが気になる、尋ねてみよう。

「これだけ厳重に隠すって事は何かあるって事なのか?」

「その通りです、それこそがリヴァイアサンの言っていた『役立つもの』に該当すると思います。今から説明しますね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...