226 / 459
【第226話】リヴァイアサンの過去 その2
しおりを挟む「驚かずに聞いて欲しいのですが、数百年前、リヴァイアサンはガラルドさんと同じ『緋色の瞳を持つ種族』と『女神長サキエル様』を見かけた事があるそうです……」
リヴァイアサンは驚きの事実を口にした。
そう言えばガーランド団が死の海を渡っている時にリリスが言っていた
――――女神長サキエル様がまだ二級女神だった頃、リヴァイアサンは別名『海神龍』とも言われていて、当時存在していた北方の港町を津波によって壊滅させたらしいです――――
という話を今更ながら思い出した。もしかしたらその時にお互いの存在を確認したのかもしれない。リリスも俺と同じタイミングでその事を思い出したようで、すぐさまリヴァイアサンへ質問するようグラッジに頼み込んだ。
「グラッジさん、今度はリヴァイアサンに何故港町を壊滅させた理由とサキエル様とはどういった関りがあったのかを尋ねてください」
グラッジは頷きを返してリヴァイアサンに問いかけた。するとリヴァイアサンが今度は弱弱しい鳴き声で何かを呟いていた。神獣の言葉が分からない俺でも何となく申し訳なさそうな言い方をしているのだけは察する事ができる。
グラッジはフォローするようにリヴァイアサンの体を撫でると、彼の言葉を訳してくれた。
「当時、ウィッチズガーデンからずっと東側にある『港町ドラウ』に三百人以上の規模を持つ強大な野盗組織が幾度も襲撃を仕掛けていたそうです。しかし、ドラウには少数ながらも腕の立つ遊牧民が善意で防衛を手伝ってあげていたらしく、彼らは『緋眼の戦士団』と呼ばれて町民から慕われていたそうです」
以前帝国でモードレッドと話をした時に『数百年前に緋色の瞳を持つ、類まれな戦闘力を持つ遊牧民がいたことを古文書の解読によって見つけ出した』と言っていたが、リヴァイアサンの言葉からも帝国の古文書解読は正確だったようだ。
大昔とはいえ、自分と同じ血を持っているであろう者が、人々を守るために力を使っていたという事実は嬉しいものだ。
それから更にグラッジの通訳は続いた。
「緋眼の戦士団によって港町ドラウは安全な暮らしを続けられていましたが、野盗組織は征服を諦めきれなかったようです。理由は二つあり、大陸でも片手で数えられる程しか存在していなかった神木ロトスと呼ばれる希少で高額な木を奪う事、そして港町ドラウそのものを野盗組織の拠点にしたかったからだそうです。そんな希少な木ロトスを育むほどに豊かな大地・川・海は総じて七恵の楽園と呼ばれていたそうです」
「なるほどな、そりゃあ大人数で攻めたくもなるだろうな。だが、そんなに希少な土地なら近隣諸国が連携して保護してやればよかったのにと思うが……いや、大陸の北端ともなれば守ってもらうのも厳しいか、現代で考えても一番近いのがウィッチズガーデンになってしまうぐらい辺鄙な場所だもんな」
「リヴァイアサンも同じことを言ってました、そして辺境の地に町があったせいで後の悲劇につながったとも言っています。敗戦が続いて怒り心頭の野盗組織はとうとう最悪の手段に打って出ました。それは一部の野盗がドラウの新しい民として潜入して、内部から攻撃したのです」
「内部から……つまりスパイ的なことをされたってわけか」
「その通りです……正確には町の人間に扮した野盗が年に一度の港祭りで『緋眼の戦士団』に振舞われた料理の数々に毒を盛った形になります。少数精鋭である緋眼の戦士団さえいなくなりさえすれば侵略は容易だと踏んだ野盗組織の狙いは見事に的中し、緋眼の戦士団のほぼ全員を毒殺してしまったそうです……」
想像を遥かに超える下劣な手段に吐き気すら湧いてくる。その後も口に出す事すら辛くなるような野盗組織の卑劣な行動が語られ続けた。
野盗組織は緋眼の戦士団亡き後、町を乗っ取り、全ての民衆を拘束して、各地へ奴隷として売り払ったそうだ。
元の住民が全ていなくなったところでドラウを野盗の拠点地とした後は、自然資源の豊富なドラウが他国から目を付けられないように平原を燃やし、川に毒を流して海を汚染させ、破壊の限りを尽くし、七恵の楽園という呼び名を過去のものにしてしまったらしい。
野盗からすれば自分達が寝泊まり出来て、盗品を隠す事が出来て、各国の兵から目を付けられない場所であれば何でも良かったのだろう。更には大量の奴隷を売り払って土地だけではなく神木ロトスと金も手に入れられたのだから野盗からすればかなり都合のいい場所だったのだろう。
そんな愚劣な行いをしていた野盗組織に裁きが訪れたのはドラウの住民が全員町から離れた後の事だった。当時大陸中の海を泳いでいたリヴァイアサンは七恵の楽園をとても気に入っていたらしい。
そんなリヴァイアサンが久しぶりにドラウ周辺を訪れると、近隣の女神から事の顛末を聞く事になったそうだ。自分の愛する自然と人間を傷つけられたリヴァイアサンは激昂して、大津波を起こし、一瞬にして野盗組織を壊滅させたらしい。
ほとんどの野盗が死亡し、野盗たちは抵抗する気力を失っていたが、それでもリヴァイアサンは皆殺しにしなければ気が済まない程に激怒していたらしく、ガタガタと震えている生き残りの野盗にトドメを刺そうとしたようだ。
しかし、そこで庇うようにして現れたのが当時のドラウ周辺の女神長と二級女神だった頃のサキエルらしい。
女神長は激怒するリヴァイアサンに恐れを抱きながらも『殺すのはよくありません、この者達は私達が責任を持って、他国を連行して裁きを受けてもらいます。ですからどうか、静まりください、海神龍さま』と言い、リヴァイアサンの破壊を中断させたらしい。
小さき者が勇気を持って立ち塞がった事に感銘を受けたリヴァイアサンは攻撃の手を止めて、それ以降はドラウに一切近づかず、ほとんどの時間を死の海近辺で過ごしていたらしい。
リヴァイアサンの話からすると、緋眼の戦士団はほとんどが殺されたようだから、もし緋色の瞳を持つ種族がドラウ周辺を旅していた緋眼の戦士団しか存在しなかったのなら、現代に俺と同じ種族の人はほとんどいないのかもしれない。
俺がどういう血縁でザキールと兄弟になったのかは未だに分からないが、俺と同じ緋色の瞳を持つローブマン改めフィルの祖先を何世代も辿っていけば、俺の祖先と重なりそうだ。そうやって自分のルーツを考えているうちに一つの仮説が浮かんできた。
緋眼の戦士団がほぼ壊滅したことによって、同じ種族だけで繁栄するのが難しくなった結果、血が段々と薄くなった家系と血が濃いままの家計の二つが出来上がり、その結果常時緋色の瞳を持つフィルみたいな人間と意識的にしか緋色の瞳になれない俺みたいな人間に分かれたのではないだろうか?
フィルに会う事が出来れば色々と分かりそうなのだが……あいつに会うのはアスタロトに会うよりも難しそうだから、会えたらラッキーぐらいに思っておこう。
俺達はリヴァイアサンに色々と教えてくれてありがとうと礼を伝えると、リヴァイアサンはグラッジを経由して一つの提案をしてきた。
「あの~、リヴァイアサンからのお誘いなんですけど『時間があったら皆で七恵の楽園へ行ってみないか? 今後のガーランド団やシンバード領にとって役立つ面白いものがあるぞ』……と言っています」
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
旅の道連れ、さようなら【短編】
キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。
いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる