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【第221話】異質なフェアスケール
しおりを挟むフェアスケールに向けて出発する朝が訪れた。リヴァイアサンに乗り込むのは俺、リリス、サーシャ、グラッジ、グラハムと船を扱う一部ガーランド団員となった。
シルバー、ゼロはイグノーラの技術と知恵をシンバードの人間に伝えたいとのことでお留守番だ。
地図を確認してみると、どうやらフェアスケールはジークフリートの北東、言い方を変えればウィッチズガーデンの南東にあるようだ。海岸からもそこまで離れていないからリヴァイアサンでの移動と陸地の徒歩含めて半日もかからないだろう。
グラッジの指示に従いリヴァイアサンが泳ぎ始めた。俺とリリスとサーシャが数日間かけて移動したシンバード・ジークフリート間を数時間で移動してしまうリヴァイアサンを見ていると自分達がちっぽけな存在なんだと思わされる。
大陸の外側を通っているから、かつて俺達が歩いて行った山道は見えないけれど今、進んでいるところの真西が三人でキャンプしたところで、そこで初めてサーシャが古代学に興味がある事を教えてもらったんだよなぁ、と懐かしい気持ちになった。
色々な事を思い出しながらスイスイ進んでいくと、あっという間にフェアスケール近くの海岸に到着した。
月齢的にグラッジを連れて行っても問題なさそうだから連れて行くことにして、海岸から平原を西に真っすぐ進むと、さほど高くはないが横に1キード程伸びている真っ白で無地の壁に囲まれた場所を発見した。
地図的に見て壁に囲まれているあの場所がフェアスケールの筈だが、凹凸もなければ柄も色も無い白一色の壁はどこか不気味さを感じさせる。
面積自体は狭く、一辺1キード程度の壁に囲まれた正方形の小さな集落で遠くから見たらどこから入ればいいのか分からなかったが、平原に少しだけ人の足で踏み固められた道が見つかった。
その跡を辿って白い壁に近づくと壁の中から突然扉が開き、奥から灰色のローブを着た中年の男が現れた。
向こう側から扉を開けてくれなければ扉がある事すら気が付けなさそうほどに一面真っ白な壁に驚いていると、奥から出てきた男性が話しかけてきた。
「こんにちは、ここは平和と公正を愛する者のみが住むフェアスケールと呼ばれる場所です。滅多に人が来ないこの地に何かようですかな?」
丁寧で落ち着いた喋りだけれど、どこか覇気が感じられない。男の質問に俺達はフェアスケールでの目的を伝えた。すると男は「少々お待ちください」と言い、一度俺達の前から離れた後、数分後に戻ってきて、俺達を中に入れてくれた。
中に入ると集落の景色よりも先に詰所のような小屋があり、一度そこに入るように指示された。小屋に入ると男は壁際に置いてある大きな箱を開いて俺達に指示を出す。
「フェアスケールは武力と争いを嫌います。武器などの類は全て箱に入れてください、我々が預かります」
厳重なところだとは思っていたが、まさかここまでするとは思わなかった。まぁ俺達は高価な武器は持っていないし、旋回の剣は俺にしか使えないから盗む価値もないから預けても大丈夫だろう。
荷物を預けていざ、フェアスケールを一望すると俺達はその異様な景色に驚かされた。いつものようにリリスが最初に大口を開けて驚き、印象を語った。
「集落のほとんどが白と灰色で統一されていて、民家が全て同じサイズの正方形で石作りですね。商店のようなものも見当たりませんね。変わった建物は中央の大きい教会みたいな建物だけですし、画一さが帝国の比ではないですよ……」
正直画一的すぎて不気味さすら感じる程だ。しまいには畑なども同じサイズで作物は一定間隔毎に育てているものが変わっている。普通の町なら各々が育てたいものを育てるものだが、ここはどの家がどの作物を育てるか予め決まっているようだ。
いつもの旅のように町に入った瞬間、ワクワクや知的好奇心が刺激されるようなものもなく、ただただ無機質な印象を抱いてしまう。
俺達が困惑しているのを察してか、案内人の男性が俺達にフェアスケールの説明を始めた。
「人間は色々な情報を知り、欲が湧いてくるからこそ格差が生まれ、差別や争いが生まれます。我々はそうならないように、娯楽を廃して、富も仕事も何もかも平等に分配するようになりました。故に全ての家が同じで農作業などの仕事もマニュアル化し、ローテーションしているのです。結果、優秀な者もそうでない者も同じ幸せを享受しています」
「なるほどな、教えてくれてありがとう」
シンからある程度話を聞いていたが、実際に目にすることでフェアスケールは凄い事をしているんだなと実感できた。このやり方が正しいのかは分からないが、少なくとも形にはなっているのだから、フェアスケールを作り上げてきた者達の熱意は本物なのだろう。
俺達は案内人の後ろをついていきフェアスケールの中心にある教会の様な建物に辿り着いた。
建物に入ると予想通り、ステンドグラスに囲まれた空間と少し高い位置に教壇があり、一番奥には大司教のような恰好をした真っ白の長いヒゲと髪を蓄えた老人が立っていた。
老人は教壇のある位置から俺達のいる入口近くまで来ると、優しい垂れ目でこちらへ微笑み、お辞儀をした後、ゆっくりとした暖かい声色で話しかけてきた。
「ようこそ、フェアスケール中央塔へ。門番から事前にあなた達の目的は聞いております。私はフェアスケールで代表を務めておりますラファエルと申します。立ち話もなんですから横の応接室でお話ししましょう、ガラルド殿」
「はい、よろしくおねがいします」
「我々はこのような組織故に敬語を使いますが、皆さんはフランクに話してくれても構いませんよ? 我々はあくまで中立であって大司教や神官のように偉い立場ではありませんからね」
ラファエルは俺達を応接室に案内すると、周りの仲間達には頼まず自らお茶を入れて俺達に差し出した。見た目的にはいかにも偉い人に見えるが、フェアスケールに役職はあっても、上下はないのかもしれない。
ラファエルは少しだけお茶を口にすると、早速本題に入った。
「ガラルド殿やシンバード、ドライアドの噂は常々耳にしていますし、平和的な方々だと認識しております。今日ここに来られた目的は緊急の大陸会議を開く為の話し合いでよろしいですかな?」
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